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その21 悩める茜崎

悩める茜崎


●茜崎涼の私的記録より


”仕事でもないのにお前はなぜ人のことに首を突っ込むんだ?”


 今、人にこう聞かれたら俺はすぐに返答できないだろう。

 はっきり言って自分でもよくわからないのだ。

ゆりかとはもう無縁。向こうもそう思っている。

 だからゆりかがどうなろうと本来なら知ったことではない。

 でも一度は愛した女が、もしもとんでもない男と運命を共にするとしたら、それを素通りして見過ごせない自分がいる。

 

 その一方、全く真逆な思考の自分もいる。

 もし、陰謀か何か事実がわかったとしたら、俺は一体どうすればいい?

 ゆりかに教えるのか?策略者に抗議に行けばいいのか?

 だがそれが一体何になる?いざこざになるのは間違いない。

 その上、ゆりかにも精神的にダメージを与えてしまうだろう。

 彼女は以前、カウンセリングを受け、長い間通院していたこともあるらしい。

 もしかしたらそれは俺のせいかもしれない。

 そしてまた、俺がゆりかの新たな結婚生活をぶち壊すことになったら・・・

 

“そうだ。余計な詮索はもうよした方がいい。”

“いや、違う。ゆりかがこのままずっと騙され続けてもいいのか?”

“このままほおっておけばすべてが丸く穏便に済むんだぞ”

“でも真実を知る権利は誰にでもあるはずだ”

“証拠はあるのか?お前の勝手な思い込みだったらどうする?”

“でも思い込みじゃなかったとしたら?”

“それでゆりかやいずみは幸せになるのか?真実が幸せとは限らないんだぞ!”


 部屋にいても自問自答ばかりで数日間が無駄に過ぎて行くばかりだった。

 そして何も進展のないまま、気づくとゆりかの結婚式当日。

 俺は相変わらず部屋で悶々としながらくすぶっているばかりだった。

 これが映画やドラマの世界なら、式場に飛び込んで花嫁を連れ出すおなじみのパターンも考えられる。

 だが実際にそんなことしてしまったら、俺はただの不届き者の誘拐犯。

 だいいち、ゆりかが俺に愛想を尽かしているのにドラマのワンシーンにもならない。


“俺はゆりかに未練があるのか?”


 正直“ない”と言ったらウソになる。

 でも今の俺の心境としては、ゆりかとヨリを戻すことよりも、彼女が不幸せにならない方向に導いてやりたい気持ちの方が強い。

 それは俺が純粋なゆりかに対する今までの懺悔ざんげの意味も含まれている。


 部屋の時計を見ると午後7時…

 ゆりかと是枝英之の挙式も終わった頃だろう。

 今日も自分の心と葛藤しているうちにこんな時間になってしまった。

 煮え切らない自分が歯がゆい。

 調査しようと思えばできないことでもない。

 だがどんな形であれ、ゆりかが幸せになることを大前提に考えると、俺の行動に移す意思がなえてしまうのだ。


“もう…諦めよう。。ゆりかからきっぱり離れよう。そうすべきだ”


 この日の最後には、こんな思いが俺の気持ちの大半を占めるようになっていた。

 だが再び、そんな俺の決心も一気に急転したのが、翌朝の意外な人物からの1本の電話からだった。

 そしてそれが、うやむやにはできない事実、探らなければいけない事実へと繋がっていくことになる。

           (第1章・終わり) 第2章へと続く


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