その14 気になるそのお相手
気になるそのお相手
●茜崎涼の私的記録より
自分でもわからない。なぜゆりかのことがこんなにも気になるのか?
一人マンションに帰宅してからもそのことばかり考えていた。
ゆりかがすでに結婚も離婚も経験していたのにも驚いたが、何よりもまして、近々再婚するという事実には更に度胆を抜かされた。
ゆりかは少し人生を歩むスピードが速すぎるのではないか?
それとも俺がのんびり過ぎるのだろうか?
まぁ、俺のようなこんな薄情な人間がゆりかに対してこんなこと言える立場でもないのだが。。
にも関わらず、ついあんな未練たらしいことを口にしてしまうなんて、今更ながら恥ずかしさが込み上げてくる。
なぜ俺はあんなことを言ってしまったんだろう?
理由は自分が一番わかっている。ただ、簡単にそれを認めたくないだけなのだ。
そう…それはまさに嫉妬に他ならない。
ゆりかほどの女が、森田とかいう冴えない男と夫婦生活をしていたことへのショックと腹立たしさ。
そして、実の子いずみに対する気持ちが深まるにつれ、ゆりかとやり直せるわずかな望みを心に秘めていたからだ。
だが、それも見事に打ち砕かれた。
ゆりかの再婚。。。
こんなに展開が早いだなんて、連続ドラマでもないのに信じがたいものがある。
さっき晩飯用に買ってきたコンビニ弁当を食べていても箸が進まない。
テレビをつけてもわずらわしい雑音にしか聴こえない。
気を紛らわそうと、無理に別なことを考えてみる。
「しまった!明日はゴミ出しの日だ。外食するんだった。。」
そうなのだ。この弁当さえ買わなければ、明日の朝に出すゴミはなかったのだ。
(;-_-) =3 フゥ・・・
くだらない。こんなことしか思い浮かばないなんて。。
無理に別なことを考えようとしても無駄だということがよくわかった。
自分の思考回路くらい、自然の成り行きに任せよう。
思う存分考えたら、明日にはすっきりするかもしれない。
そう自己中的に自分を納得させると、俺はゆりかと喫茶店で話した時の会話を復唱するように思い出していた。
「その再婚相手って誰だよ?またしょうもない顔してるんじゃないだろうな?」
「私は顔で人を選びません」
「じゃやっぱり変な顔してんだ?」
「そういう意味で言ったんじゃないの!なによ、顔・顔って!」
「ぶっちゃけ俺の顔と比べてどうだ?」
「あのね…じゃあハッキリ教えてあげる。彼はとてもハンサムよ。モテるタイプだと思うわ。でも私はそんなことで再婚を決めたんじゃありませんからね!」
「そうか…付き合ってどのくらいなんだ?」
「いいじゃないどうだって!とにかく彼にはなんでも相談できたし、いつでも真摯に受け止めてきちんと答えてくれる人なの」
「へぇ…そんな素敵なお相手さんはどんな仕事してるんだ?収入は安定してるのか?」
「なによ涼ったら。あなた私の親でもないのに」
「一度失敗してるなら慎重にならなきゃいかんだろうが」
「お気づかい無用よ。安心して。彼はうちのパパの直属の部下なの」
「( ̄□ ̄;)えっ!」
「だからパパもすごくお気に入りなの。今は本部長として、取締役員の一員でもあるわ。涼と全く立場が逆でしょ?あなたがパパの前に現れたら殺されるわよ」
「; ̄_ ̄)た、たしかに。。」
俺は自分がつくづくバカだと思った。ゆりかを捨てて逃げた俺が、彼女の父親に受け入れられるはずもないのに、うまくいけばヨリを戻せるなんて甘く考えていたことを。
「わかってると思うけど、結婚式には涼は呼ばないから」
「そんなの行きたくもないね」
「そう言ってもらえて良かったわ。この際ハッキリさせておかないとね。私が再婚してからもまた突然あなたが現れてたら困るし」
ゆりかの言葉が俺の心に重くのしかかった。
「でも…いずみに会うくらいダメなのか?」
と、精一杯の反論。
「父親らしいことなんて何もしてないのに、そんな資格ないでしょ!いずみが産まれたことも知らなかった上に暮らしたこともない。当然子育てもしてない。そんな人は父親じゃないわ!」
結局、俺はこの後、一言も返せなくなってトボトボとこの部屋に帰って来た。
まさにゆりかの言うとおり。俺はいずみに対して父親だと主張する権利などない。
自業自得だ。仕方ない。。たしかに仕方はないが。。。
それにしても。。。
俺はどうしても気になってしょうがなかった。
ゆりかの心を射止めたその張本人。森田なんかはどうでもいい。過去の人間だ。
一目だけでもどんな二枚目のエリートなのか確認できないものか?
そう、ネットだ!
一流企業ならたいていホームページくらいはある。しかも本部長で取締役員なら顔写真くらい載っててもおかしくはない。
俺はすかさずパソコンを立ち上げる。もう食べかけのコンビニ弁当なんかには目もくれなかった。
そしてネットに繋いで検索でサイトを確認する。
「あった!これだ!よし、役員の一覧もあるぞ」
俺はマウスでゆっくりと画面をスクロールさせていった。すると…
「いた!本部長ってことは、こいつに間違いない!」
俺はサイトの顔写真をマジマジと食い入るように見ていた。
「是枝英之・・か」
(続く)