その12 ぶっ飛びの話
ぶっ飛びの話
●茜崎凉の私的記録より
コーヒーを一口飲んで、俺は気を落ち着かせた。
目の前にはゆりか。俺が半ば強引に連れてきたのだ。
あんな道端では到底できない話。ゆりかは最初、俺に話す気はなかったようだが、今後しつこく付きまとわれるのもイヤだと悟ったらしく、これまでのいきさつを話してくれることに同意した。
いずみも一緒に来たいとせがんだが、当然子供が聞く話ではない。お土産を必ず買って帰ると約束の上で、家に戻ってもらった。
「いずみの言ってたことは本当か?」
「・・・ええ、そうよ」
「なんであんな男と結婚なんかしたんだ?」
「凉はあの人のどこまで知ってるの?あんな男ってどういう意味?」
「どう見たってブッサイクじゃないか!お前と釣り合わないじゃん」
「お前って呼ばないでって何度も言ってるでしょ!馴れ馴れしくしないで!」
「わ、わりぃ…でも随分早まったことをしたな」
「早まったのはあなたと結婚しようと本気で思ってた昔のことよ」
「( ̄Д ̄;;いきなり手厳しいな」
「私は結婚も離婚もしたけど後悔はしてないもん」
「それはおかしな話だな。結婚を後悔したから離婚したんじゃないのか?」
「いいえ、そうは思ってない。言葉では…う〜ん。。表現しにくいわ」
「全然わかんねぇよ。俺がこいつを見たときも外で上司に叱られてたときだったぞ。情けない謝り方だったし」
「心から謝ってるからよ。強気で謝る人なんていないでしょ」
「なんか怒られ慣れてるようだったけどな」
「彼はいつも真面目で素直過ぎるから怒られるのよ」
「ものは言いようだな。ダメ人間にしか見えなかったが」
これを聞いたゆりかは明らかにムッとした表情になった。
そしていずみから手渡された新聞記事を指差しながら言う。
「でもこうして新聞に載ってるじゃない。強盗殺人未遂犯人の逮捕に協力したなんて、ダメ人間には絶対できないわ」
「マスコミは人を持ち上げるのがうまいからな。どこまで本当のことやら」
「彼はきっと精神的にも強くなってるのよ。以前よりね。。」
俺はどうも腑に落ちなかった。気に入らないから別れたんじゃなかったのか?
それなのに。。。なぜだ?なぜなんだ?
「なぁゆりか。離婚したのに何で奴をかばう言い方ばかりするんだ?」
「私たち、ケンカして別れたんじゃないもの。」
「気の迷いから覚めたからだろ。いくら変わり者好きなゆりかでも、長く暮らせば嫌なところばかり目についてくるもんだ」
「わかったふうな口をきくのね。所帯を持ったこともないくせに」
「俺今、探偵やってんだ。男女間のトラブル調査の依頼が多くてさ。色々聞き込みしてるとみんな口を揃えて同じことを言うんだ」
「へぇ、凉は探偵さんなんだ。似合わないわねw」
「で、どうなんだ?俺が言った通りなんじゃないのか?」
「いいえ全然。確かにまわりからはよくそう言われたわよ。でも実際は違うし。。」
「なんだよ一体!ひょっとしてまさか…そいつとヨリを戻すつもりじゃないだろうな?」
「さぁどうかしらね」
なぜか余裕の落ち着きを見せるゆりかを見て、俺は新たな感情が沸き起こった。
“なんであんなブ男のことをまだかばうんだ?まだ気があるってことか?”
この俺から芽生えた初めての嫉妬心が、自分でも驚くほどに次のセリフを衝動的に言わせた。
「ウソだろ?ゆりか、もしそいつとヨリ戻すことを考えるくらいなら、俺とやり直すことも考えてろよ!」
この言葉にゆりかは目を丸くして驚いたようだ。
「Σ('◇'*エェッ!?急に何言い出すの?凉」
俺にもわからなかった。なぜこんなセリフが出たのか。なぜ言えたのか。
「まぁ返事はすぐじゃなくてもいいさ。いずれまた。。」
この後、俺たちはしばらく無言が続いた。お互いコーヒーを飲みながら、それぞれが頭の中で考え込んでいる。
やがてゆりかが口を開いた。
「私、元の夫とはヨリは戻さないわ。そして凉、あなたとも無理。これが私の答えよ」
「なにもそんなに早く結論を出さなくても…」
「いいえ、はっきりしてるの。前からね」
「??どういうことだ?」
ゆりかは一つ大きなため息をついてから、更に衝撃的なことを俺に言った。
「私、今付き合ってる人がいるの。近々再婚予定よ」
「ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!ガ━━ΣΣ(゜Д゜;)━━ン!!」
(続く)