表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夢と現実のNofy

作者: 加持恭成

2145年、日本に技術的革命がおこった年

ヒューマノイドという人型ロボットが作られた。


これまでの与えられた指示通りに動く稚拙なロボットとは

うってかわり過去のデータから自立思考し、感情までをももつ完璧なロボットだ。


完成直後、人々は 生活が楽になる。自分の好きな異性が作れる と多いに喜んだ。

革新的な発明をバックボーンに日本は大幅にGDPを上げた。


また、ヒューマノイドの技術を他国に横取りされるのを恐れた日本は

外交を一切やめ、鎖国に近い状態になっていた。それでも自国にとって

必要な石油やガス・食糧だけは輸入させるという強気な姿勢だった。


最初こそ、反感をかったものの驚異的な技術力や底知れぬ

軍事力に恐怖を覚えた諸外国は従わざるをえなかった。


だが、完璧すぎるロボットは次第に人々から仕事を奪っていった。


人間の動きを観察させる、もしくはその業務に携わる人間の脳を

スキャンしデータを共有することで、完璧に仕事をこなすヒューマノイドはあらゆる企業に導入された。


その結果、多くの人々が仕事を失い生活が困難になった。

国のいたる所にスラム街ができた。


そして、そんな状況下の日本には3つの大きな勢力が渦巻いていた。


日本を乗っ取りヒューマノイドの技術を奪おうと諸外国から秘密裏に送り込まれた工作員集団。

ヒューマノイドや工作員を排除して生活を取り戻すと発起したスラム街のテロ集団。

国に仇名すものや暴徒を鎮圧する為、武装したヒューマノイドで組織された国家安全警備隊。


各々の理念実現の為、日々各地でぶつかりあう内戦が続いた。


-------------------------------------------------------------------------------------


西暦、2161年

 11月5日 23:00 TOKYO 相楽電機店


ピピッ、ピピピ・・・。


「もう、こんな時間か・・・。」

 今日もゲームして寝るだけで1日過ごしてしまった。

 真夜中だというのに窓からは眩い光が差し込む。

 最近隣にできた製薬会社のビルが原因だ。

 中で働いているだろうヒューマノイド達には、朝も夜も関係ないか・・。


 俺は、カーテンを閉め目覚まし時計を止めた。

 ふと振り返ると、ドアのそば一枚の小さなメモが落ちていた。


(克之へ、そんなに思いつめるな。

 父さんは、何があってもお前の味方だ。)


「はぁ・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・駄目だよな。このままじゃあ。」


 俺は、メモをグシャっと握りつぶした。

 目から頬に沿って涙が零れていた。


コンコン・・。


 俺のすすり声を打ち消すようにドアがノックされる。


「失礼します。坊ちゃん

 ご夕食がまだですが、いかがなさいますか?」


 この声は、メイドの奥山さんだ。

 奥山さんは才色兼備という言葉を身をもって

 表している人で、まだウチの店が研究所だった頃は

 よく一緒に父さんの研究を手伝った。

 最近は秘書・メイドという立場で父さんを支えているらしい。


 こんな時間まで奥山さんがいるという事は

 今日はお客さんが多いのだろうか?


 どちらにせよ、今の俺にできることなんて何もない。


「・・・・・・いらない。」

 

 少しの沈黙のあと

 俺は、ドア越しにそう言い放った。

 

「わかりました。それと坊ちゃん」


「・・・・・・・・いえ、克之様

 あまり自分を責めないでください。

 あなたに責任はありません。」


「うぅ・・・気休めはやめてくれ!!!!!

 俺が、あんな モノ 作らなければよかったんだ。」


-------------------------------------------------------------------------------------


 11月6日 17:00 TOKYO -都立新宿病院-


「麻衣香!!!

 おはよーーっす!!」


尾崎涼子は、相楽麻衣香の病室の天蓋を一周させた。

開けていた窓から新鮮な空気が流れ込む。


「おはよう。って時間でもないよ?」

麻衣香はクスッと笑って言った。


「それもそーだな。

 あっ、コレ!今日のぶんな!」

涼子は制服の胸ポケットから4つ折りのプリントをだした。


「数学の田宮、褒めてたよ。

 入院中でも毎回プリントを貰ってく姿勢は素晴らしい!!だってさ」


「あはは、そんな事ないよー

 数学だけはキチンとやらないと

 すぐついていけなくなるからさーー」

麻衣香は照れながら言った。


「とか言って私より頭いーのはどーゆーことだこら!!!」

涼子がすかさず突っ込みを入れた。


「涼ちゃんなんて、絵もうまいし

写真の才能だってあるじゃん。」


「うれしいな!!そう言ってくれるのは麻衣香だけだよー」


「またまたーそんな謙遜しちゃって。

 国家推薦で美大いけるんでしょ?」

麻衣香はニヤっと笑った。


「んー、まぁ一応ね。」

涼子は後ろ髪を掻きながら言った。


「よかったじゃん!!

 涼ちゃん、美大行きたがってたしさ!

 宮市先生も電話で自慢の生徒だって言ってたよー」


「私は、国家推薦は断るよ。」


「えっ?どうして?

 試験も学費も免除ではいれるのに

 もったいないよー。」


「まぁ、・・・ちょっといろいろあってさ。

 試験あった方が緊張感あるし学費だって

 奨学金とか借りるから平気だよ!」


「そっか。

 なんか、涼ちゃんらしいね!!」


「そーだ。涼ちゃん!

 そこのシュークリーム食べる?

 私お腹いっぱいだからよかったら食べて」


「ありがとう!!!

 すっげぇ腹減ってたんよー

 あの親バカ親父さんでも来たの?」


「ううん。さっきね、お兄ちゃんが来たの」


「お兄ちゃん?ほえー

 珍しいこともあるもんやねー」

涼子はシュークリームを頬張りながら言った。


「うん。私もびっくりしちゃった。

 お兄ちゃんも立ち直ったみたいでよかった」


「だな!!景気悪りーってどころじゃねえけど

 お前の兄貴天才だし、大丈夫だろ!!」


「それなんだけどね・・・

 涼ちゃんに頼みがあってさー」


「おうおう。なんじゃい!

 シュークリームの借りは返すぜ!!」

涼子は口の周りのクリームをペロリと舐めた。


「うん、あのさ涼ちゃんのバイト先に、

 お兄ちゃん紹介してもらう事ってできないかな?」


「えっ?私のバイト先でいいの?」


「厳しいんだっけ?涼ちゃんのところ」


「厳しいっていうか口悪いやつばっかだよ?

 私以上に・・。みんないい人だけど気性荒いし、おすすめはしない」 


「それならピッタリだ!

 なんかお兄ちゃん、厳しい環境に身を置かなきゃダメだ!

 って意気込んでたからさ!!」


「うーむ。あそこは客層も悪いしなぁー

 まぁ、今日店長に聞いてみるよ。」


「ありがとう!!

 涼ちゃんがいるならお兄ちゃん安心して任せられる!」


「おいおい、私は保護者か」


「あはは、あれ?涼ちゃん今日何時からバイトなの?」


「んー、18:00時だよ。

 ってやべぇ。もう45分じゃん。わりぃ麻衣香またな!!」

涼子は時計を見るなり、一目散に病室を飛び出した。


「頑張ってね~~」

麻衣香は小さく手を振った。


-------------------------------------------------------------------------------------


同日 17:00 TOKYO -第7スラム地区:元あおぞら公園-



バチバチバチバチ


ジジジ・・・キュイーン。


バキッ。


岩瀬賢哉は背中のプロテクターに

第七方面・治安部隊と刻まれた

ヒューマノイドの頭部を乱雑にとりはずした。


周囲で見守る男の一人が、うわっと声をあげてのけ反る。


元、国安隊でヒューマノイド部隊の指揮をとっていた賢哉に

とってヒューマイドをバラすことは造作もなかった。


岩瀬家は代々、国に仕え国民を守る事を生業としており

賢哉もその事に誇りを感じていた。


還暦を迎え、結婚すらしていなかったものの

孤児であった尾崎恭輔、涼子の2人を引き取り

順風満帆な人生であった。


2人の養子も、自分はいつ死ぬ身かわからないからという理由で強く・厳しく育てた。


だが、涼子が14才になる頃

平和を愛し国の政策に憤りを感じた恭輔は、賢哉との口論の末家を飛び出した。


国を良くしたいと願うのは賢哉も変わらなかった。

だからこそ、恭輔には自分と同じやり方で国を守って欲しかった。


しかし、国安隊・テロ組織・工作員という三竦みのさなか恭輔は死んだ。

賢哉は絶望し国安隊を辞め、娘涼子に有り金のすべてを残し姿をくらました。



賢哉は頭部だけになったヒューマノイドの、髪の毛を

鷲掴みにし躊躇うことなく切断面に指を突っ込んだ。


血や臓器こそでないものの、その光景はおおよそ猟奇的な殺人鬼だ。

他の男達も固唾をのんで見つめる。


張りつめた夜の公園に胴体だけになったヒューマノイドの

ギギギギ という不気味な音が鳴り響く。


賢哉は、片手に携えている首からはみ出た血管のような

コード類をブチぶちと引き抜いたかと思うと「おっ、これだ」と声を漏らし

3センチほどのチップを取り出した。


その時だ。


胴体だけのヒューマノイドがふらふらと立ち上がり

手にもった拳銃をがむしゃらに乱射し始めた。


パンッ!!パパンッ!!!パパパンッ!!!パパンッ!!


頭を失ったヒューマノイドの放った弾は

誰にもあたる事はなかったが、賢哉は瞬時に

目つきを変えヒューマイドを蹴り飛ばした。ヒューマノイドは

ドゴっと音を立て地面に崩れおちる。


「全員離れろ!!!」

賢哉はそう叫び、腰のポーチから出した火炎瓶

を突っ伏したヒューマノイド目がけ間髪入れずに投げつけた。


バリーン


火炎瓶は勢いよく割れると

ゴウッと音をたて1mほどの火柱をあげた。


「へっ!!これで、こいつは行動停止だ!!」

男の一人が満足げに声をあげた。


賢哉は首から抜き取ったチップをハンカチにくるみ

ポーチにしまうと、片手にもったままの首を炎の中になげ捨て

さらに火達磨になったヒューマノイド目がけ3発銃を放った。


パンッ!!パパンッ!!!


放たれた弾の風圧で炎がブワッと揺れた。

周囲の男達はギョっとした顔が賢哉を見る。


賢哉は銃を投げ捨て真剣な眼差しで

「・・・。全員今すぐここから退避だ!!」と言い全速力で走り出した。


「ちょっと待ってくれよ!!

 行動停止したヒューマノイドに何を恐れる必要があるんだ!!」


男達は そうだそうだ!!火達磨に銃をお見舞いしてまで!!

と次々に口走ったが、賢哉は無視して走り続けた。


男達は不満そうな顔をしながらも賢哉についていく。

途中、一行はヒューマノイド部隊を5~6体乗せたトラックとすれ違ったが

賢哉の的確な指示で裏道に身を潜め難を逃れた。


しばらくして公園から数キロ離れた廃旅館についた。

鉄骨づくりのボロボロの建物で、かつて自動ドアだったであろう

玄関のガラスは粉々に割れ、入り口にはブルーシートがかけられている。


「俺のアジトだ。いちおう酒もカンパンもある。

 あがってくつろいでくれ。」

賢哉はブルーシートをめくり男達を招いた。


内部は、いらっしゃいませ と書かれた看板や

大浴場 風月の湯 と書かれた案内板が唯一旅館だった事を

物語っているものの、崩れ落ちた瓦礫で乱雑し、旅館という

よりはうす暗い洞窟のようだった。


「そのへん、適当に座ってくれ」

賢哉は、入り口の壁にかけてあった懐中電灯で照らしながら言った。


「たしか、この辺に・・」


ガコッ・・・。


「おっ、これだこれだ。」


賢哉は、男達が座った位置から

2、3m離れた場所のタイルを持ち上げると、酒瓶を取り出しニコっと笑った。


「・・なぁ、俺たちは酒を飲みにきたんじゃあない。

 あんたさっきヒューマノイドから何をとった?

 いい加減話してくれないか」

男の一人が声を荒げた。


「まぁ、落ち着いてくれ。

 順を追って話す。」


賢哉は、酒瓶を咥えグビッと喉に流し込むと

「あの個体が何で急に銃を乱射したのかわかるか」と言った。


「そりゃー最後のあがきにきまっ」


「ちがう。」

質問に答えた男の会話を遮り賢哉は言った。


「あれは、緊急信号だ。

 むやみに乱射したように見えただろうが、打ち方にパターンがあった。」


「パターン?」


「国安隊のヒューマノイド達は少し特別でな。

 自分の持っている情報に危険が迫ると、なんらかしら

 の方法で仲間に伝えるよう改造されている。」


「・・・それじゃあ、あのままあそこにいたら」


「ああ、間違いなく全員捕まっていた。

 今頃何体かのヒューマノイド達が非常線をはっているだろうな。」


「じゃあ、やつを燃やしたのも証拠隠滅ってことか?」


「そうだ、幸い俺が抜き取ったICチップは耐熱性にかけていてな。

 駆け付けた連中も緊急信号で集まったものの、銃撃戦のさなか

 狂った連中に首を取られて燃やされた。とでも思うだろうな。」


「ケンさん。あんたなぜそんな危険を冒してあいつを拉致したんだ。

 それに、そこまで徹底した証拠隠滅ぶり。そのチップに何があるんだ!?」


「それを、見せる為にみんなを呼んだんだ。」

賢哉はそう言うとポーチからハンカチにくるんだチップと

裏蓋にSagara H/M Converterと書かれた、液晶画面がついた無線機のようなものを取り出した。


チップを無線機に挿入すると、ほどなくして液晶画面に映像が映る。

賢哉は画面を見つめ、無線機のボタンをカチカチと押し映像を早送りにする。

しばらくの間、沈黙が続いたが画面に背の高い外人の男が映ったところで

賢哉は目をカッと開き再びボタンを押し映像を止めた。


「ほら、これをみてくれ。

 デビッドさんに違いないだろ」

賢哉がそう言って画面を見せると

周りの男達は一瞬、信じられないという顔を見せたが

みな口ぐちに ああ。確かに。 と言って頷いた。


「あの人は今捕まってるんだ。

 映像からして、多摩方面の第六監獄だな。」


「どうする?おれは、一人でも行くぜ」


「・・・・・・・へっへへ。

 水くせぇ事言うなよケンさん。

 仲間が捕まってるんだ。

 ここにいる全員、協力するさ。」


男の一人がそう言うと

周りの男達がしきりに頷く。


「すまなかったなぁ・・。

 少しばかりあんたの事疑ってたよ。」


「いや・・・疑われて当然さ。

 尾崎恭輔 の名前をだしたんだからな。」


「あんたが尾崎さんの義父と

 訪ねてきたときは、そりゃーびっくりしたよ。

 ・・・あの人はこの国を変える鍵だったんだ。

 だが、あの人は死にデビッドも消息を絶った。

 この辺のスラムの連中はみな来週の国家セレモニーで

 幹部どもを巻き込んで自爆するつもりだった。」


「自爆は延期だな。

 デビッドさんは、まだ生きてるし

 恭輔の・・。あいつの魂は、俺が受け継ぐ。」


「ケンさん・・・。

 だが、あんた俺たちとはデビッド救出だけが

 目当ての提携関係だったんじゃないのか?」


「ああ、最初はそのつもりだったがな。

 どうやら、俺のやり方も恭輔のやり方も変わらないらしい。

 みんなを見てそう思ったよ。」


「そうか・・・・。

 尾崎さんの意思は、まだ生きていたんだな。

 あんたが・・・俺たちを、導いてくれるのか?」

男は、安堵の表情を浮かべそう言った。


「ああ。ただし条件がある」


「条件?」


「死ぬ覚悟があるかどうかだ。

 俺は、かつての恭輔と違って若くない。

 みんなを器用に守る事なんてできない。

 自分の事で精一杯だ。」


「だがデビッドさんを助けるには監獄に行かなきゃならない。

 そうなれば、必ず国安隊とぶつかる。全員が壊滅することだってありえる・・・。」


「俺たちは全員スラムのもんだ。

 国から捨てられ、くだらねぇ時代に歳を重ねすぎた。

 失うものなんてもう何もないよ。」

男は虚ろな表情でそう言った。


「強制はしない。寧ろこんなやり方じゃ協力しないのが普通だ。

 いまから、全員ぶんの杯を注ぐ。協力してくれるものだけ

 飲み干して盃を割ってくれ。固めの盃ってやつだ。」

賢哉は、外したタイルの穴に手を突っ込み、酒瓶2つと

8枚の盃を取り出し乱雑に並べた盃に酒を注ぎ始めた。


「旅館だっただけあって、こういうもんはたくさんあるんだ。

 もっとも、酒はクスねてきたもんだけどな」


「5分間、目を瞑っている。

 この酒は、ここまで協力してくれた礼の意味もある。

 酒だけのんで帰ってくれても構わない。自分の意思に従って

 道を選んでくれ。」

賢哉は、酒を注ぎ終わるとそう言って目を瞑った。



パリーン・・。

賢哉が目を瞑ってから10秒ほどの事だった。


パリーン、パリーン、


最初の盃が割れる音から、ひっきりなしに続いている。


パリーン、パリーン。


パリーン、パリーン。


パリーン。


30秒たたないうちに音が鳴りやんだかと思うと

ガチャガチャと割れたガラスを動かす音が響きだした。


賢哉が何事だと目を開けそうになったその時


男の一人が

「ケンさん、目をあけてください。」とつぶやいた


「みんな・・・。」

賢哉が目を開けると、

眼下には目を瞑る前と変わらぬ8人の男達がいた。


「あまりにも退屈だったんで、割った盃片付けちゃいましたぜ」


「後悔は・・ないな?」


「もちろん。

 これで、俺たちは晴れてイッパシのテロ組織ですね。

 人数や軍備は、どうするつもりで?」


「武器の事は、任せてくれ。

 国安隊の基地からクスねたもんやヒューマノイドから

 奪ったものを溜めている。おそらく、このアジトだけでも

 30丁くらいの銃器はある。これからも逐次増やしていく予定だ。

 問題は人数だな。せめて300人くらいの組織にはしたいが・・。」


「尾崎さんの意思が生きてるってきけば

 ウチからも他のスラムからもみんな来てくれますよ。

 それと、工作員どもを牽制する意味でも組織名のようなものが欲しいのですが。」


「ふむ・・。組織名か。確かに一理あるな。」

賢哉は腕を組み、上を向いた。


「和之復興 ってのはどうだ?」

少しの沈黙の後、賢哉は伸び切った髭をなぞりながら言った。


「いい名だと思いますぜ!!それでいきましょう」


「よしっ、きまりだな。

 では、ここに反政府及び国家再建組織、和之復興の樹立を誓う。

 まずは、人員集めだ。できるだけ多くの賛同者を募ってくれ。」


-------------------------------------------------------------------------------------


同日 17:50 TOKYO -特別自治区歌舞伎町方面-



「はぁ・・はぁ・・待ってよ

お嬢ちゃん!俺たちと、遊んでいこうよ」


「私、バイトあるから嫌よ。」


私は、汗だくになりながら走っていた。

しつこく絡んでくる男達を撒くためではなく

バイトに遅れてはいけないという一心からだった。


「くそっ!!!・・

 すばしっこい女だ・・・。」


「まぁ、いーさ。

 バイト終わりの夜道にゃ気をつける事だな」


男の声を無視しひたすらに走った。

脅されたような気もしたが、全く気に留めなかった。


-特別警戒地区-

通称特区。このあたりで、女がひとり夜道をうろつくというのは

素っ裸で猛獣の檻に入るようなものだ。


特別警戒地区とは工作員とテロリストと国安隊が睨みあっている場所の事だ。

この区域内に自主的に入り、起こった事に対し国は全く責任を負わずどんな法律も無意味となる。


その為、多少遠回りになろうが殆どの人が避けて通る場所である。


しかし、私のバイト先の鮫島食堂に行くにはここを突っ切るか周り道するかで10分も違ってくる。

最近は授業が終わるのが遅いから、毎回ここを通っている。

黒服の集団やマフィアみたいな連中にジロジロ見られるのも、もう慣れた。

さすがに隣で銃撃戦が始まりだすと、びっくりはするが・・・


ほどなくして、特区を抜けると鮫島食堂の看板が見えた。

私は、ボロボロの扉を勢いよく開け放った。


バタンッ!!

「遅れてすいませーーん!!」


「くらぁ!!尾崎!!!

 ドアがぶっ壊れるだろが!!!

 それに2分遅刻じゃボゲェ!!!」

店長の玄さんが声を張り上げた。


「はーい、すいませーーーん。」

私は、合掌ポーズをつくりペコっと誤った。


「ったく!!!」


玄さんも私も口が悪いので、このやり取りが日常なのだが

ふらっと入ってきたような初見のお客さんは、フフッと笑う。

場所が場所なだけに、そんな客はあまり来ないのだが・・・・。


私はキッチンの村瀬さんと田野倉さんに

ぺこりと頭を下げバックルームへと急いだ。


店内は鬼の店長の指導ゆえに掃除が行き届いてるが

バックルームは飲食店とは思えない汚さだ。


適当に乱雑された服や、誰かが飲みのこしたペッドボトル

客の忘れものの週刊誌やエロ本・おまけに空調もないからタバコ臭くて仕方ない。


でもまぁ、このきったない生活感こそ人間がいる証だ。


ヒューマノイドを多用している飲食店の

バックルームは、さぞかしピカピカなんだろう。


もっとも、ウチの店は店長が義理や人情

を重んじる人ゆえに客も店員も人間以外お断りらしいが。


私は、髪を後ろに束ね黒地に鮫島と大きく書かれた

センスのかけらもないTシャツに着替えバックルームをでた。


キッチンにでるやいなや村瀬さんに開口一番

「尾崎ぃ・・夜勤変わってくれないか・・。今日俺早くあがりたいんだよ・・。」


と悲しみに満ちた顔で懇願された。


村瀬さんは見かけこそ、巨体に筋肉隆々で

腕なんて私の胴回りほどあるが、目がクリックリで小動物のような顔立ちをしている。

そして極め付けが、おっとりとした性格で重度のアニオタというところだ。


そういえば今日は、20時からのアニメ特集で

村瀬さんが大好きなSnowGirlsの声優がでるんだったけな。


私はつい笑いそうになりながらも

「SnowGirlsのやつ・・・録画忘れたんすか?」と耳打ちした。


村瀬さんは一瞬顔が固まったが

私の身長に合わせ背を丸め、消え入るような声で

「そうなんだよ、あれを見逃したら死んでも死にきれない」と言った。


私が田野倉さんと店長が客の相手をしてるのを確認し

「だーから、レコーダー買えっていったでしょーが。」

と声をあげていうと


村瀬さんは一瞬ビクっとしたが周りに

私しかいないと気付いたのか声量を戻し


「えー、そんなお金ないもん。

 それにレコーダーなんて今手に入らないよー。」と言った。


今に始まった事じゃないが、この人の地を這うように野太い声で

子供っぽいしゃべり方をされるとちょっとペースが狂う。


どっちが女なのやら・・。


村瀬さんは私より前から鮫島食堂で働いていただけに、仕事も早く

店のごたごたの始末や店長の機嫌をうかがうのもうまいが、私にだけは

怖い人だと思い苦手意識があったそうだ。


昔から思った事はすぐ口に出してしまう上に、はすっぱな性格なので

友達は少なかったが、建前とかうわべだけで接することが苦手だったから

気に止めたことはなかった。


だが、こんな筋肉マンみたいなおっさんにまで

苦手意識を抱かれていたと知ったときは少し言葉使いを気をつけようと思った。

結果的にタメ口と敬語が入り混じるわけのわからない話しかたになってしまったが。


「私の友達の電機屋で高機能レコーダーやすく売ってくれますよー。

 今日の特集はまだしも、深夜アニメとかになるとリアルタイムで

 全部見てたら体ももたないし撮っておくのが基本だよ!!」


「うーん。でもさぁ、、

 急に国家放送とか始まっちゃうと、伸びたぶんが

 録画できてないじゃん?あれ嫌なんだよねー。」


「ああ、それは大丈夫!

 国家放送カットしてそのぶん引き延ばしてくれる機能ついてるから!」


「ちょっと、ちょっと!

 そういう機種って作ったり所持してるだけで国安隊に連れていかれるって噂じゃないか!」

私が国安隊のヒューマノイドだったら、村瀬さんだけは後回しにしたい。

屈強なヒューマノイド部隊ですら手を焼きそうだ。


「そうっすよ。だからその店は信用してる人にしか

 売ってくれないし私も信用してる人にしか話さない。」


「そうかぁ・・。

 尾崎って口は悪いけど、いいやつだな。

 よっしゃ!買ったるわ。そのレコーダー」

 

「口悪いってのは余計っす。まいどー。

 んじゃあまぁ、今日の夜勤だけは変わってあげます」


「おう、ありがとな!」

村瀬さんの顔が急ににこやかになった。


「おいこら!!!村瀬!!!尾崎!!!

 暇ならくっちゃべってねぇで洗いモノでもしとけ!!!!」

カウンターテーブルの方から怒声が聞こえてくる。


「はーい。」

村瀬さんとハモった。

 

私ごときにビビッてた村瀬さんが

店長と会った時はどんなんだったのかいつも気になる。


それにしても今日は客が少ない。

また、特区で何かあったのだろうか?

帰り時に遠回りになるのはめんどうだ。


でもまぁ、私は夜勤だし関係ないか。

昔は高校生ってのは22:00時までしか働けなかったらしい。

今の時代じゃ考えられないが、ちょっとうらやましく思う。


・・・・はぁ、早く仕事終えて冷蔵庫の

プレミアムロールケーキを食べたい。

さっきのシュークリームもうまかったなぁ。


やべっ!!シュークリームで思い出した!!。


店長に麻衣香のお兄さんの事きかねーと。


と考えにふけっていると、

ちょうどタイミングよく店長がこっちに向かってきた。

相変わらず、おっかねぇ顔だ。


「店長~!この店ってまだバイトとか募集してますか~?」

私は店長に小言を言われる前に切り出した。


「ああん?なんだ急に!!」


「あー、いや

 友達の兄貴がここで働きたいって言ってまして!!」


「おめぇの紹介なんざ、乗り気になれんな」

店長のギロっとした目に睨まれた。

こんなとこで店をやるだけあって、さすがに迫力がある。


「そー言わないでくださいよー。

 面接だけでもっ!!ねっ!!お願いっす!!!」

私はそう言って、得意の合掌ポーズで店長にペコっと頭を下げた。


「ふんっ!!まぁいい。

 来週の火曜、面接してやるから連れてこい。

 ただし、こんな時代だ。

 根性のねぇ腑抜けだったらウチの店は

 やってけねぇぞ?おめぇーもわかってるだろ?」


「やった!!さすが店長っす!!

 私の友達の兄貴なんだから根性はありますよ!!」


「どーだかな!!

 それよかお前、豚汁の仕込みと

 フレンチとコーラの準備をしとけ!!」


「えっ?でもまだ時間はやいっすよ?」


フレンチトーストとコーラと豚汁、この異色のわけわからん

組み合わせは毎晩20:00時頃来る常連客の注文するメニューだ。


真っ白いワンピースに腰まで伸びたさらさらの黒髪。

麦わら帽子を深くかぶっていて顔はよく見えないが

おそらく相当の美人だ。


だいたい左奥の席に座り、フレンチと豚汁とコーラ

を頼み数分間読書をして帰るというパターンなのだが


こんなアウトローばかりが集う定食屋に通い詰める

意味がまったくもってわからない。


彼女は、本を読みだすと隣で客同士が喧嘩を始めようが

店のすぐ近くで銃撃戦が始まろうが一切顔をあげず本と

にらめっこをしている。


相当肝っ玉が据わっているのか、

頭のネジが吹っ飛んでいるのかのどちらかだろう。



「いや、豚汁の具材を

 ちょうどさっき切らしちまったんだよ。

 ちょっくら、買い出しに行ってこい。

 今日の遅刻はそれでチャラだ。

 嫌とは言わせねーぞ。」

店長はそういって、札束を2、3枚手渡してきた。



「・・・・・・うーっす。」

私は、数秒考えたが行くしか

選択肢がない事に気付き金を受け取った。


この店の仕事で買い出し作業

ほどめんどくさいことはない。


少額ながらも店の金を持っているわけだし

帰りは帰りで食材をぶらさげて帰るから


いろんな連中に付け狙われる。


かといって万が一金や、買ったもの

を奪われると、それはそれで店長の雷が落ちる。


「ちぇ・・。」

私が小さく愚痴をこぼし店をでようとすると

キッチンから田野倉さんがひょっこり顔をだした。

相変わらず40代の家庭もちには見えないほど整った顔立ちだ。


「待って涼ちゃん!!これ持ってきな!!」

そう言って、小さなバックを投げつけてきた。


「今日は、特区の辺り、騒がしいから

 くれぐれも気をつけてね!」


私はバックをキャッチし田野倉さんに

「どーもっす!!」っと一礼し店をでた。



-------------------------------------------------------------------------------------



同日 17:50 TOKYO -ウィーネスホテル60階○○室-


「それは、ダメだといっておるだろうが!!!!」

上村正太郎は携帯電話ごしに怒鳴り声を上げた。


「しかし先生、連日の内戦で国安隊の戦力もガタガタです。

 いくらヒューマノイド部隊といえど、指揮をとる部隊長が

 人間では無理があります。」

通話相手は政府の補佐官である安田という男だ。


「先生はやめてくれ。私はもう大臣ではない。

 ・・・いや、大臣である資格もない男だよ。」


「円城渉の件ですか?

 あれは、円城の失態ですよ。

 気にする必要ありません。」


「・・知ったような口を利くのは辞めてくれないか」

上村は、片手にもったタバコの煙を吐き出しそう言った。


「・・申し訳ありません。ですが上村さんが

 協力してくれれば、政府としてもやりやすいのです。

 どうか、お力を貸していただけませんか?」


「だめだ!!!。ヒューマイド部隊は縮小に向けて努めていくべきだ。

 愚かにも私が組織した部隊だがな。ヒューマノイドは、恐ろしい連中だ。

 人間が指揮をとらねば、いずれ暴走を始めてしまう。それに私はもう政界に戻るつもりはない」


「・・・・そうですか、よくわかりました。もう頼むのはやめましょう。

 先生は、何もわかっていないようですね。これは閣議で決まった事なのです。

 私が上層部から指示をうけていることをお忘れなく。

 それと、もう政府の邪魔になる活動は控える事をおすすめします。では」


ツーツーツー。


上村は通話の切れた携帯電話を

投げ捨てドンッ と机をたたいた。



「クソッ・・・・。私のやってきた事はなんだったんだ!!」


上村は頭を抱え込み崩れ落ちた。


同時に体をガタガタと震わせベッドに潜りこんだ。


「うう・・・。私は弱い人間だ。」


上村正太郎もまた、国の為に尽くしてきた人間の一人だった。

幼い頃から、正義感が強く賢い少年であった上村は誰よりも物事の本質を見るのが得意だった。

中・高・大と成績トップで卒業し、周囲の勧めもあり議員という道を選んだ。


法務大臣に任命されてからは、社会進出するヒューマノイドに対応する法整備を固め

人間とヒューマノイドの調和という事を目標に尽力を尽くしてきた。


しかし、現実は上村の理想する未来とは真逆の結果となった。

連日続く、内戦。人間より優れているヒューマノイドを認めないものや

ヒューマノイドの技術を盗もうとするもの。調和 という言葉は崩れ去った。


それでも、国民とヒューマノイドの可能性にかけた上村は

ヒューマノイドによる国家安全隊を組織した。一時はテロや工作員を鎮圧できたものの

上村がヒューマノイド達の心の奥の冷徹さや残酷さに気付いた時には遅く結果的には3つ巴の争いへと広げただけだった。

上村は自責の念と政界のしがらみから逃れる為法務大臣の座を降り、単独でヒューマノイド撤廃への運動を続けた。


だが、その活動もたった今 やめろ と忠告された。相手は一国だ。

このまま上村が一人でネガティブキャンペーンをつづければスパイとして処されるだけである。


「ううう・・・・。すまない、円城くん。」


上村は、毛布をかぶり大粒の涙を流した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ