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片付けが終わると優一はすぐに荷物を担ぎ、玄関へと走っていった。


「おい、優一! ……早いな。航太郎! 追うぞ!」

「は、はい!」


この状況を理解できていない他の部員たちは彼らを不思議な目で見ていた。


「なぁ、あいつらなんかあったの?」


副部長の小林は、たまたま近くにいた勝に尋ねる。


「さぁ? わかんないです。とりあえずお腹は大丈夫みたいですね」




「はぁっ……はぁっ……」

「なにやってんだ航太郎!」

「疲れてるんですよ!」


 今日も部活でランニングはしている。それだけでなく、最近はフットワーク練習も入り、慣れていない一年生の身体が悲鳴を上げていても仕方がない。優一も一年生だが、いい方向におかしいのだろう。

 なんだかんだ次の角を曲がれば、例の電信柱が見える。


(なんともないといいけど……)


 二人は角を曲がった。

 視界に入り込んできたのは電信柱と優一の背中だけ。


「ちょ、ちょっと直哉さんストップ!」


 航太郎の指示に従い、直哉は急ブレーキをかける。


「なんだよ?」

「だって、一人しかいないんですよ? やっぱりお婆さんに何かあったんじゃ」

「それはわかんねぇな。あいつの背中には迷いの文字が見える。確かめたいのに確かめられない。朝、ここに来なかったのはそういうことだろ。あ、信用していいぞ。こういう勘だけは当たるから」


 直哉は優一の下へ歩き出す。航太郎は黙って付いていくことしかできなかった。


「おい、優一」

「え? あ、直哉さん? 航太郎? なんでここに?」

「航太郎から話は聞いた。んで、なんでここで立ち止まってるんだ?」

「あの、怖くて……今日もばあちゃんいなかったらって……」


 直哉の勘は的中した。

 もし、今日もお婆さんが出てこなければ、最悪な予想がそのまま結果として出てしまうかも知れない。


「確かめないとわからんだろ。ほら、行くぞ」


 直哉は、ためらう優一の腕を掴み、家の玄関へと向かう。うじうじしていても仕方がない。それでは何も変わらない。

 玄関の前に立ち、優一は深呼吸をする。

 そして声を出す。


「猫ー! ばあちゃーん! 来たぞー!」

「にゃー!」


 待ってましたといわんばかりの勢いで白猫が駆け寄ってくる。いつも以上に元気な白猫に見惚れている場合ではない。問題はここからだ。

 三人は玄関の扉をじっと見つめている。

 がらがらと玄関の扉が開かれた。


「ばあちゃん!」

「あらあら、また来てくれたんかぁ」


 安堵した優一の頬を、一筋の涙が伝う。

 後ろの二人も顔を見合わせ、そっと胸を撫で下ろす。


「おや、そちらの二人はどなた?」

「あ、部活の先輩の直哉さんと、俺の大親友の航太郎!」


 いつの間に、何を経て大親友となったのかはわからないが、空気を読んで余計な茶々は入れない航太郎。そして航太郎は大親友で、何故自分は大先輩ではないのかと少し落ち込む直哉。

 お婆さんの勧めで、家の中でお茶をしていくことになった。




「んで、ばあちゃん。昨日はどうしたんだ?」


 四人と一匹はお婆さんの淹れてくれたお茶を飲みながらくつろいでいる。なんだか懐かしい香りがする落ち着く部屋で、三人は肩の力を抜いてリラックスできていた。

 白猫はお婆さんの膝の上でまったりとしている。その和やかな顔に、航太郎は釘づけだった。


「昨日? 昨日はちょっと病院にねぇ」

「病院!? ばあちゃんどっか悪いのか!?」

「定期健診とお見舞いにね。あたしはまだまだ元気だよ」


 昨日お婆さんは午前中から病院へ出かけていた。一応お婆さんの娘が迎えには来てくれていたのだが、お婆さんの家の前の道路は狭い。なので少し広い道まで杖を使って歩いた。そのため、昨日杖もなかったということ。

 白猫が寂しそうな顔をしていたのも、お婆さんと午前中から日が暮れるまで会えなかったからだ。


「こいつ今日の部活中も、なんか浮かない顔してて心配だったんですよ」

「そうそう。昨日僕もここに来たんですけど、あんな顔を見たの初めてでした」


 二人の話を聞き、お婆さんは本当に嬉しそうな顔をした。


「そうかい。そこまで心配してもらえて、あたしは幸せ者だねぇ……」

「でも本当によかった。俺、本当に……」


 優一は両手で顔を包み、涙を流す。彼とお婆さんは赤の他人だ。しかしお婆さんが大切な存在であることに変わりはない。

 お婆さんは優しい笑顔で優一の頭をそっと撫でる。

 優一はふと疑問に思ったことを涙声でお婆さんに訊いた。 


「そういえば、お見舞いって?」

「孫がね、心臓の病気なのよ。まだ小さいのに、苦しい思いをしていてねぇ。だいぶ良くはなっているんだけど、たまに入院しなくちゃいけなくて。あたしはもう十分長く生きたから、あの子の病気をもらって――」

「駄目だよ! そんなことしたらばあちゃんは……」

「でもね、優一くん。そんなことはできないんだよ。代わってあげたくても、代わってあげられない。苦しみを理解してあげることはできるかも知れないけど、その苦しみを背負ってあげることはできないんだよ。あたしはそれが悔しくて悔しくて……」


 お婆さんの声は震えていた。今にも泣きだしそうな声だった。

 この話を聞き、三人の中で一番お婆さんの気持ちを理解していたのは直哉だ。人の気持ちを読み取る力は関係ない。彼にも似たような経験があった。




 直哉には三つ下の弟、満がいた。昔から病弱で、自宅と病院を往復する生活を送っていた。

 直哉が小学六年生になった頃には往復する生活さえも消え去り、満は病院に閉じ込められる形となっていた。

 直哉が通っていた小学校から病院までは徒歩五分ほどで、直哉はよく学校終わりに病院を訪れていた。


「ねぇお兄ちゃん。今日は学校でどんなことがあったの?」

「今日? 今日かー。今日は体育の授業でサッカーをしたんだけど、二回もゴールを決めた!」


 彼は毎日のように弟の下へ通い、その日の出来事を話す。それは自ら話そうと思って話しているわけではない。満に訊かれたから答えているだけだ。


「えー!? 二回も? お兄ちゃんはやっぱりすごいなぁ」

「だろー?」


 楽しそうに話を聞く満の表情から、彼はどこか切なさも感じていた。

 楽しそうな弟の顔、切なそうな弟の心。どちらが本当の満で、どちらが取り繕っている満なのか。もしも一日の報告をすることで、弟の中にある「羨ましい」という気持ちが大きくなったとしても、彼にはどうすることもできない。何もしてやれない。もしかしたら、幸せな報告が満の心をひどく痛めつけているのかも知れない。今日は特に何もなかった、というのが正しいのだろうか。小学生の心でも、大人の心でも、何が本当に正しいのかは判断できない。

 夕焼けが似合う、秋の空。赤とんぼたちは自由に空を飛び回っている。赤い肌が、夕日のせいでより赤く見える。眩しいほどに自由なとんぼたち。

 その空を、そのとんぼたちを、満はただ、見つめていた。


「ねぇ、お兄ちゃん。僕ね、大きくなったら学校の先生になりたいんだ」

「先生?」

「うん。この間ね、担任の江川先生がお見舞いに来てくれたときに言ってくれたんだ。『稲月は楽しそうに勉強をするな。それに覚えるのも早い。学校の先生を目指すのはどうだ?』って」


 この教師の発言は、はたして正しいのだろうか。死の恐怖に怯えている子供に、希望を持たせることは。手にした希望が叶わなければ、それは絶望へと変わる。

 叶えられない希望を持たせることは残酷なことなのかも知れない。

 希望を叶えたいという願いが、奇跡を生むかも知れない。


「だからね、お兄ちゃんもっと勉強教えてもらいたいんだ。もっと頭よくなってね、いい高校、いい大学に行って、それでそれでかっこいい先生になりたい!」

「勉強のことなら任せとけ! なんてったってお兄ちゃんはすごいからな!」


 満はどこまで行けるのだろうか。親から聞いた話を脳内でリピートし、直哉は心の中で考える。

 満は産まれた直後に余命を宣告されていた。一歳の誕生日を迎えられない可能性があるだとか、三歳までは難しいだとか。

 しかし満はここまで生きてきた。天から差し伸べられた手を、何度も何度も振り払い、説明できない奇跡で、ここまで、この身体で、この地球で生きてきたのだ。その奇跡はどこまで続くだろう。もしかすると何年、何十年と奇跡を起こし続けるかも知れない。

 この地球に生命が誕生してから今現在、生命は絶えずに存在している。生命が誕生したという奇跡、そして今も存在しているという奇跡。何億年もの間、地球上で奇跡が起こり続けている。

 それならば百年続く奇跡を望んだって問題ないはずだ。


「あ、そうだ。今日のお昼にね、女の子がこれを届けてくれたんだ。早く元気になりますよーにって!」


 そういって満は勝ち誇った顔で、枕元にある、折り紙でできた鶴を直哉に見せる。


「もうすぐ冬だから、あわてん坊サンタからのプレゼントだな。満に鶴をプレゼントー……ってかお前もモテるんだなぁー! 俺は嬉しい! お兄ちゃんは嬉しい!」

「だろー?」


 直哉のつまらないギャグと、満の物真似。病室は明るい笑顔で満たされていた。一筋の雲もない、晴れ渡った空のように。




 街に雪が降り積もり、白銀の世界が出来上がる少し前。無情にも奇跡は途絶え、満は天へと昇っていった。あまりにも突然で、直哉は現実を受け止められなかった。

 亡くなる日の前日はいつもと変わらない笑顔を見せてくれていたのに。教師になりたいと言ったあの日から、二人で一緒に勉強を頑張っていたのに。直哉が生徒役となり、授業の真似事もしていたのに。

 奇跡は音も立てずに崩れ落ちた。




「ちょ、ちょっと直哉さん! どうしたんですか!?」


 直哉が顔を上げると、心配そうに覗き込む三人がいた。気付けば頬を涙が濡らしていた。


「あ、悪い……色々思い出して」


 直哉は手短に満のことを話す。その途中、何度も涙が流れ出た。


「代わってやれないつらさって本当につらいんだ。目の前で苦しんでいる人がいるのに、何もできねぇ自分が情けなくて、悔しくて……祈ることしかできねぇんだよ……」


 両手の拳を握り締め、唇を噛み締め、直哉は涙を堪える。

 人は皆、過去を抱えて生きている。幸せな過去も、そうでない過去も。たとえ記憶として存在せず、忘れていようとも、生きていれば生きている分、過去は増えていく。


「本当に代わってやりたいって気持ちは、すごいと思う。苦痛なんてその人にしかわからないのに、そのわからない苦痛を受け止めたいって、もし本当にできたとしても俺に身代わりとなる勇気はない。苦しんでいるのが両親でも……兄弟もいないし」

「優一くん。今はまだわからなくてもいいんだよ。いつかわかる日が来るから。心から大切だと思う人と出会えたらね。いつか結婚して、子供ができて、親になったら。絶対わかるからね」

「そう、かな」


 どれだけ考えても答えは見つからない。今はそれで大丈夫だ、と微笑むお婆さんの顔を見て、優一は考えるのを止める。目の前にいる大切な人。身代わりだとかはどうでもいい。ただ大切な人がいる。それだけを彼は抱き締める。


「外も暗くなってきたねぇ」

「そろそろ帰りますか」


 赤い目をした直哉は笑顔で立ち上がる。


「そうですね。古川さん、また来ます」

「はいはい、ありがとうねぇ」


 航太郎の目も少し赤かった。彼らの話を聞いて、胸に来るものがあったのだろう。


「古川さん? 古川さんって誰?」


 優一は何度もここへ通っていたくせに、お婆さんの名前も知らなかったようだ。


「お婆さんの名前。表札あるんだから名前くらいわかるだろ」

「あー、盲点だったわ。表札ね、表札か」

「じゃあ、ばあちゃんまたな」

「にゃー!」


 お婆さんの膝でくつろいでいた白猫は「俺のこと忘れんな!」と言いたそうに鳴く。


「ごめんごめん、猫もまたな!」


 さようならの一撫でをして、優一たちは家から出る。

 日が沈み、ここへ来たときとは全く別の世界が彼らの前に広がっている。人気の少ないこの道は、何かが飛び出してきそうで恐ろしい。


「いやー、恥ずかしいところを見られちまったなぁ」


 頭を掻きながら、直哉は小さく笑った。彼は普段人前で泣かないし、弱さも見せない。普段とは違う一面を見られて恥ずかしがっている。


「皆、色々あるんだなぁ」


 優一は空を見上げる。ちらほらと星が輝いている綺麗な夜空だった。




 ついにこの日がやってきた。五月二十三日の日曜日。普通の人からすれば何も変わらない普通の日曜日。しかし航太郎にとっては特別な日だ。

 五月二十三日、彼の誕生日でもあり、ミュージシャンという夢への第一歩を踏み出す日となる。ギターを購入できるのだ。

 彼の親は「すぐに挫折するからやめておきなさい」と言ったが、彼自身の熱意、そして彼の兄、隆太郎の「やりたいならやらせてやればいい」という一言に親が折れた。優しい兄のようだが、航太郎は兄のことが嫌いだった。頭も良くて、背も高くて、運動もできる。見下してもらったほうが楽なのに、いつも無関心な態度をとる。兄の言葉のおかげで親が折れたというのに苛立ちしか生まれない。「どうせ飽きるだろう」という態度が腹立たしい。

 しかしそれはそれ、これはこれだ。航太郎は切り替えが早い。親から貰った一万五千円を握り締め、街の方にある楽器屋へ向かう。ギターが買える。兄なんてどうでもいい。中学生にしてみれば一万五千円なんてお年玉でしかお目にかかれない大金だ。自然と手に汗が滲む。その汗ばんだ手で、楽器屋の扉を開く。


「いらっしゃいませー」


 耳を澄ませば聞こえてくるBGM。とても静かな店内に、たくさんの楽器が並べられている。音楽室にだってたくさん楽器はあるのに、何か違う。まるで天国のようだった。


「ん? お兄ちゃん、中学生?」

「え、は、はい。中学一年生です」


 眼鏡をかけ、無精ひげを生やした店員らしき人物が話しかけてくる。正輝が大きくなったらこうなるのかな、と彼はいらぬ妄想をした。


「最近若い人があんまり来なくてね。あ、俺も二十八だからまだまだ若いけど。今日は何? 何買いに来たの?」


 どうやら店員で間違いないようだ。大人しそうな見た目とは違い、ガンガン話しかけてくる。航太郎はこういう店員があまり好きではない。まだ中学生なので、一人で買い物ということはあまりないのだが、彼は買い物をするなら静かにしたい派だった。


「今日はギターを……」

「エレキ? アコギ? あ、とりあえず予算はいくら?」

「一万五千円です……」


 店員の勢いが強く、航太郎は押されている。


「一応エレキだと初心者セットっていうのはあるんだけど、どうする?」

「とりあえず色々見て回りたいんですが」

「あー、そう? ならちょっとブラブラしてて!」


 航太郎は店員から解放される。店内にはギターやベースはもちろんこと、ハーモニカやオカリナも置いてある。こういったどこにでも持ち運べるような楽器も楽しそうだな、と彼は考える。横目で店員の動きを観察してみると、ギターを色々かき集めていた。


「少年! こっち来てー!」

「は、はい」


 航太郎は店員の方へ向かう。アコースティックギターが四本、エレキギターが三本並べられていた。


「ここにある七本が予算内で買えるギターになるよ。チューナーとかギターケースとか踏まえた上でこの七本だから、この中から選んでもらえる?」


 そもそもアコースティックギターなのかエレキギターなのかも決めていない航太郎は、その店員にどちらの方が難しいか、など質問をしていった。

 しかし決まらない。彼の中の勝手なイメージとして、バンドをやるならエレキギター、一人でやるならアコースティックギターというのがある。まず自分がどちらを目指しているのか。どのような音楽をしたいのか。衝動に任せすぎて、それすれもわからない。


「迷ってる?」

「はい……どうやって決めたらいいのかわかんなくて」

「よし、ここで登場するのがこれ! 鏡! じゃあ、一番左から行こうか」


 店員は一番左の赤いエレキギターを航太郎の肩にかけ、鏡の前に立たせる。


「うわぁ……」


 ギターの重み。そして鏡の中にギターを持った自分。憧れていた姿ではあるが、いざ実現するとなんだか恥ずかしくなってしまう。

 赤といえば情熱的な色。少し自分とは違う気がして、他のギターも試してみる。緑と青のエレキギター。これもなんだか爽やかすぎて合わない。黄土色のアコースティックギター三本。多少デザインは違うが、普通すぎて刺激が足りない。そして残るは黒のアコースティックギター。派手さはないが、自身のドロドロした部分とマッチして格好よく見える。


「これがいいです! これ買います!」

「おう、似合ってる! 値段は一万二千円だ! チューニングしてくるからちょっと待っててな」


 店員はギターを持って裏へ消える。あのギターがもうすぐ自分の物になるんだと考えただけで気持ちが高揚する。初めてのギター。初めての武器。バドミントンのラケットを買ってもらった感覚に近かった。

 しばらく店内を見て回り、店員に呼ばれる。


「チューニングは合わせておいたから。教本とかギタースタンドはどうする?」


 あって困ることはないだろう。航太郎はそれも合わせて購入することにした。


「教本とスタンドとピック、ケース、チューナー。あとはギター本体でワンセット一万三千円ね」

「あれ、本体で一万二千円ですよね?」

「あー、気にすんな。サービス、サービス」


 航太郎は二枚のお札で払い、三千のお釣りをポケットにしまう。ギターが入ったケースを肩にかけ、その他色々なものが入った袋を手に持つ。


「ギターにたっぷり遊んでもらいな。なんかあったらまたおいで」

「はい、ありがとうございました!」


 お礼を言って店を出る。この高揚感があれば、曇り空さえも愛おしく思えてしまう。


 家に着き、部屋へと飛び込む。高ぶる気持ちが抑えられない。

 航太郎は気持ちを落ち着かせ、ケースを開く。そこには黒く輝くギターが一本。


「黒い……!」


 黒いのは開く前からわかっていたこと。

 ピックを手に持ち、上から下へ撫で下ろすように音を鳴らす。左手で弦は抑えていない。自由な音が、部屋に響く。


「鳴った……!」


 上から下へ、何度も何度も音を鳴らし続ける。誰にでもできること。しかしそれも彼にとっては立派な音楽だ。

 夕飯の時間まで、彼はギターと遊んでいた。はじめておもちゃを貰った赤ん坊のように、無邪気な子供のように、ただ遊び続けた。

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