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Clockworks!  作者: 阿武曇
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エピローグ

エピローグ



「それでは、三人の合格を祝してー……かんぱーい!」

「「「かんぱーいッ!」」」

 カチャン、カチャン、とグラスをぶつけて、飲み物を嚥下する。皆一様に「ぷはあっ」と間を置いてから、主役の三人に盛大な拍手を送った。

 場所は、ギルドの喫茶店【ガラスの靴】。

 主役は、職人試験を合格したリドとラータとティアの三人である。キィーナが乾杯の音頭を取り、祝勝パーティーが始まったところだ。

 集まっているのは顔馴染みのギルドの面々と、ラキやユイリィなどの人物である。三人と面識のある大人は、学園関係者を除くほぼ全員が参加していた。珍しく、キィーナの恋人のマルコまでいる。

 試験の際に手助けをしてくれたイリーナは、ベレト混入の経緯を調査するために不在である。彼女は公言しなかったが、リドはなにか組織的な気配を感じずにはいられなかった。厳重な警備体制が敷かれていたあの野外演習場で、種類の異なる械獣を密かに混入するなど、単独では到底為し得ないことである。

 ともかく、どうすることも出来ないのだ。なら、今の状況を楽しんだ方が得と言える。

「いやあ、マジで疲れた! どうよ、オレの戦いっぷり! 凄かっただろ?」

 リドの近くでは、ラータが家族に自分の勇姿を話していた。少しオーバーな語り口ではあったが、それを指摘するほどリドも野暮ではない。

 ティアは、離れた席でイーリと談笑していた。ちなみに、イーリもなんとか及第点で合格出来たらしい。彼女の占いの人気は、きっとこれからも上がり続けるのだろう。

 その二人から斜め手前のテーブルでは、ラキとユイリィが乾杯していた。タダ酒が飲めると聞いて、ラキは上機嫌でジョッキを呷っている。彼女の隣では、ユイリィが腰に手を当ててなにか喋っていた。どうやら、酒好きの師匠に飲み過ぎないよう注意しているらしい。それにはリドも同感だった。

(アイーシャさん、酒癖悪いからな……)

 前に一度、彼女と酒の席を共にしたことがあったが(無論リドは未成年なのでココアである)、暑いと言って服を脱ごうとするわ、そんな自分に奇異の視線を向ける人に突っ掛かるわで大変だった記憶しかない。酔うのは早いがそこからが長い持久タイプなために、ハイになった彼女の相手をするのは、なかなかに面倒なことなのだ。

 そういった可能性を危惧する愛弟子の言葉に、なんの根拠もなく大丈夫と返してジョッキを呷る恩師をジト目で眺めていると、

「リドくん、久しぶりだね」

 長身の優男が声を掛けてきた。振り返ると、その人物が知人であることが解る。

「あ、マルコさん。工房の方は大丈夫? 休日返上で働いてるって聞いたから」

「はは、参ったな。キィーナから聞いたのかい?」

 マルコが、金色の短髪を照れ臭そうに掻いて、恥ずかしそうに笑った。工房から直接足を運んだのか、服装は作業用のオーバーオールだ。灰やオイルで汚れたその格好は清潔と言うには程遠いが、リドは彼のこの服装が好きだった。

「今日はおめでとう。リドくんも、遂に職人か。先を越されちゃったな」

 言葉ほど残念そうでない声音で言って、「あ、これを渡そうと思ってたんだ」と抱えていた大きな革袋を、リドに手渡した。

 受け取ると、それは確かな質量を持ったものだった。

「開けてみて」

 言われるがままに、袋の口を開けてみると、

「凄い! これって、マルコさんがっ?」

 中には銀灰色のレンチが入っていた。

 職人試験で使った無骨なフォルムのレンチではなく、芸術作品のような意匠が随所に施された一点物だ。握りやすさを考慮した波紋型のグリップや、豊富なスロット数を感じさせない肉厚なフレーム、華美な装飾を嫌って彫られた『Dvergr ART Works』の金字の刻印など、シンプルながらもデザイン性に富んだレンチである。

 刻印の文字は、名工房『ドヴェルグ・アートワークス』のオリジナル作品であることを表しており、同工房の一点物は一般市場に出回らない超高級武工具として有名だ。

 そんな高価なレンチが自分のものになることに驚く一方で、駆け出しの見習いを自称するマルコの技術水準がかなり高いことにも驚く。

「はは、一応ね。今のぼくが出せる全力を込めて鍛えたんだ。親方のチェックも通してあるから、それなりに完成度は高いと思うんだけど、どうかな?」

「凄い、凄いよ! 本当に、もらっていいの?」

「もちろんさ。合格祝いに渡そうと思って、ずっと前から準備してたんだからね」

 歳相応の表情で喜ぶリドに微笑んで、マルコは「そうそう、これも渡さなきゃね」と腰のポーチから、厚手の油紙に包まれたものを取り出した。

 丁寧に紙を開いた中にあったのは、大小一対の強化アタッチメントだ。鋭利な先端は角を連想させ、下位個体の械獣の外殻なら簡単に貫けそうだ。

「職人試験のときにリドくんたちが倒したベレトの機械部品を合成して造ったんだ。これで少しは攻撃力がアップすると思うよ」

 強化パーツをレンチの先端部のスロットに装着し、「はい、専用のホルダー。ドヴェルグ製だから強度は心配ないよ」革製のホルダーと一緒にリドへと返す。

 大事そうにレンチを抱えるリドにもう一度「おめでとう。お疲れ様」と告げて、マルコは足元に置いていた二つの大きな革袋を持って、ラータの方へと歩いていった。恐らく、ラータにもお手製の武工具をプレゼントするのだろう。数からして、ティアにも渡すようだ。彼が休日を返上していたのは、これを製作していたからかもしれない。

 リドは上機嫌のまま、パーティーの様子を見渡す。

(みんな、楽しそうだな)

 賑わう周囲を微笑ましい気持ちで眺めていると、

「リド、」

 オレンジジュースを持ったエリーヌが話し掛けてきた。今日はプライベートだったらしく、ギルドの制服ではなく、黒のオシャレなワンピースを着ている。銀色の髪にはピンク色の造花が挿され、まるで舞踏会に参加したお嬢様のようだった。

「やあ、エリーヌ」

 柔らかい笑みで挨拶するリドに、エリーヌは頬を朱に染めた。

「きょ、今日はお疲れ様……でした」

「ありがとう、大変な一日だったよ」

 労いに苦笑して、

「かわいい服だね」

 と、リドがエリーヌの格好を褒めた。リドからすれば、それはマナーとしての発言だったのだが(無論本当にそう思った感想でもある)、エリーヌには自分の存在が認められたように聞こえていた。さらに赤面すると共に、一気に思考が迷子になる。

「う、うう……。あうあう……」

 しどろもどろになるエリーヌを、リドは柔和な表情で見つめた。

 この少女だけでなく、この場にいる全ての人を守りたい。

 明日からは、時計職人として生活することになる。

(……頑張ろう)

 覚悟にも似た決意をして、リドはアイスココアを口にした。



 ――カチリ、カチリ、カチリ。

 時計の針は、動き続ける。

 少年の運命の時間は、今、動き出したのだった。


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