いち
内容はあまり変わっていません。
大池家の台所は父親の希望にのっとり、デザインやら収納やらをこだわって作ったようで使いやすい。
僕がそれを聞いて実際に家事を手伝うとなるほどと唸るくらいだ。
基本的に白をふんだんに使用しているキッチンは清潔感が漂う。父が毎日掃除をしているので気を使っているのがわかるほどに台所は綺麗だった。
僕は毎日お弁当を作るのが日課になっている。
たまには寝坊をして父に作ってもらったりするけど、基本は毎日作る。
父は日本男子として料理くらい出来ないと婿になれないと憚らない。「料理は常識として身に着けておきなさい」とは父親の大池勝弥が常日頃から口を酸っぱくしていたことなので、家事の手伝いには父は嬉しそうに教えてくれた。
最近は慣れてきたのか楽しさを覚え始めて、週に何回かは夕食を父親と作るくらいに成長し、暇さえあればお菓子もよく作るようになった。
お菓子作りはなんだか科学の実験のようなもので、正確な計量や混ぜ方にもコツがあったりして楽しかったのだ。
結果、母親の大池夏子は帰宅が早くなり、夕食をともにするのが多くなった。
いわゆる母親は息子に甘いの現象だ。前世では父親は娘に甘いとかがわかりやすいかも知れない。
大事な息子が取られないよう気を張ってるらしい。
自分で言うのもなんだけど……不思議な気分だ。
その母は少々暑いので惜しげも無く窮屈そうな胸元を晒していた。
家族の前なら裸でもいいくらいだと大言してならないその母親の現状は、全国の息子が母親と洗濯物を一緒にしたくない理由みたいだ。
だらしない母に物申す男子の一撃ってやつらしい。
お弁当を作り終えたらお次は朝食の準備をする。
焼いた食パンにマーガリンを塗り、半熟の黄身が美味そうな目玉焼きを乗せた簡単朝食の完成。牛乳も忘れない。母はコーヒー。
人数分を揃えたら、起きて来ない妹を起こしに行くとしよう。
「先に食べてて。朋子を起こしてくるから」
「だめだ。いただきますは家族揃ってからでしょ」
亭主関白気味な母はこのやり取りを気に入っているみたいで、むふふと口元を隠すことが多い。
僕が立派に成長して嬉しいらしい。といってもあの事件から考えればそれは当然だろうと思う。転校早々に息子が大人しい男子をいじめたと学校から連絡があっては気が気ではなかったろう。
階段を昇り、一番手前が朋子の部屋だ。
同じ部屋じゃないと嫌だと駄々を捏ねる朋子に苦労したが、毎日起こしに行くことを考えれば同じ部屋でも良かった気がする。
でも一人部屋のほうが朋子も気兼ねなく出来るからそれはそれでよかったのかもしれない。
さあ一応ノックをして入るとしよう。
「朋子起きないと遅刻するよ」
時間的余裕はまだあるが朋子のことを考えると早めに起こしたほうがいい。
僕の感性からしたら、女の子らしい部屋といえばファンシーな置物やらを想像するであろう。でも僕の妹の朋子はスポーツっ娘でシンプルな趣だ。それはなんらおかしいことではなく、女性はシンプルが多いだけだ。
逆に男子の部屋はお洒落しまくりで目が痛くなるほど。僕におすすめとかされても困る。
僕が落ち着くのは断然女子の部屋だ。
あんまり物が多くても仕方ないし、僕は今世の男子のようにはいかない。
朋子を起こそうとして、見てみると。
「パンツ見えてるし」
朋子の寝巻きは色気のないシャツのようなものだが、布団から惜しげも無く下着を見せている。興奮しない。ましてや妹の下着を見せられても「仕方が無いな」と下品な気持ちが全く浮き出ない。
クロッチがシミていて、きっとこいつはオナニーして疲れたんだろなと微笑ましく思うくらいだ。中学生くらいの年齢じゃこれは普通だよね。
世界観が様変わりして何年も経つけど、いまだ把握仕切れない男女の価値観は慣れてない。けれど大体こんな風だろうと目安がついて来た。僕も成長してきたみたいだ。
そう、いまさら妹の自慰くらいを見ても気にしない寛容さを身につけていた。
いちいち声をあげて驚くと目立つし、視線が鬱陶しい。
なら受け入れることにした。結論としてはこの様子で現状維持だけど、精神的には楽になってる。
しかしながらまだまだ違和感があるのには変わりないけど。
「ほーら! 起きて!」
強引に起こしにかかっても朋子はいびきを響かせている。たいそういい夢でも見ているのか気持ち悪いくらいに品位に欠ける笑みをしていた。
そんな妹を見ていればエロい感情もなくなるってものだ。
再度揺り動かそうと警戒しながら力を入れ――朋子に引っ張られる。
「っえ」
そこから力いっぱいにホールドされ、
「ぎゃ!」
連続に顔面集中してキスをされ、
「んん!!」
べたべたに舐められた。
「うわっ!?」
妹の朋子は毎日兄を陵辱して起きる。
ちょっと勘弁してほしいとは思っていても愛されているのを実感できるし、拒否して本気で嫌がったら泣くだろうからやめろとは言えないなあ。
今世の男子たちが嫌がるところってこういうところなんだろうと再確認した僕だった。