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クラウ・ソラスの輝き  作者: 河野 る宇
◆最終章
32/34

*天使の考察

 あれから一ヶ月が経ち、ダグラスの日常は落ち着きを取り戻していた。

 ベリルはきっと、あの戦いで現実と直面させたんだとダグラスは考えていた。まだ傭兵に対して格好いい憧れを抱いていた心の奥を見透かして、戦いなど綺麗な訳がないと見せつけられたような気がした。

 そんなことは分かり切っていたはずなのに、いざ目の前にすると身がすくんだ。これより酷い状況なんて、これからいくらでも出てくるんだろう。

「お前はそれを受け入れることが出来るのか」と問われているようにも思えた。

 自分が経験したものよりも残酷なことが待っている。改めてそのことを考えさせられた。



 ──それでも俺は、傭兵になろうと思う。ベリルもそれに反対はしない。ただ覚悟を決めろということなのだろう。

 途中で止めることは悪いことじゃないし、怒られもしない。しかし、生半可な気持ちで成り立つ仕事でもない。

 決めるのは自分自身だとベリルはそう教えてくれたから、俺は自分の道を選んだ。

 これが本気でなければ、きっとベリルは反対していただろう。ベリルを騙すことなんて出来る訳がない。

 しれっと心を見透かして、気がつけば突きつけられている。それを予防するには、よく考えてベリルに嘘は吐かないことだ。

 変に嘘を吐いて、あとで醜態を晒すなんてことは勘弁したい。そう思えば、上手い嘘の吐き方を学んでいたのかもしれない。それでも、ベリルに嘘は通用しないけれど。

 時々、育ての親のことやローランドのことを思い出す。一人で震えていると、決まってベリルが側に来て、何か言う訳でもなく落ち着くまでずっと近くにいてくれる。

 顔には出さないけど、いつも見ていてくれているんだとホッとした。そうやっていつも気が利くベリルは、やっぱりズルいと思う。

 俺が敵う要素も、俺がベリルを守る時がいつか来ると思う要素も、まるで見つからないんだから。

 一人前になれば親を守るものだという概念は、生憎とうちには存在しない。そのおかげで俺はこうして多くのことを学べる訳だけども、師を越えるっていう目標は果たせそうにはないね。

 残念なような、それはそれで面白いような。とにかく、なんでも楽しめれば俺の勝ちだ。

 俺は時々、実の父であるクリア・セシエルについてベリルに尋ねてみる。たった二度しか会ったことのない人間のことを長々と話せるはずのないことは充分に承知している。

 けれども、父のことを話すベリルはいつになく瞳を輝かせているように見えて、俺はついつい問いかけてしまう。

 俺にもいつか、そんな友達が出来るのだろうかと考える。二人は二度しか会うことは出来なかったけど、それが俺をここまで導いてくれたんだ。

 今でもベリルは、俺が傭兵を目指すことを良く思ってはいないだろう。でも俺は、ベリルが貫き通している意志を受け継ぎたい。

 生活もままならない状態になるかもしれない。それでも、偽善だと言われ続けても曲げることのない想いが少しでも誰かに伝わるなら、それが俺の意志だから。

 何もしないうちから無駄だと諦めたくはない。何もしない奴に無駄だと言われようと構わない。

 考える頭があるのなら、思考を巡らせろ。枝分かれした思考の先に、何かが見えてくるかもしれない。

 一人でも多く、ベリルの意志を継ぐ者が増えたなら、それは決して無駄なんかじゃない。諦めたらそこで終わりじゃないか。

 俺はそんなのまっぴらだ。最後の最後まであがき続けたい。

 もちろん、ベリルには恥ずかしくてそんなこと言えない。薄々は感づかれている気がするけれど、知らない振りをしておくことにする。

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