*始まりの傷
声に振り返った刹那、
「──っ」
右肩に投げナイフが沈み、ベリルは痛みで苦い表情を浮かべた。
「ベリル!?」
ダグラスは驚いて投げられた先に視線を向けた。そこには、無精髭を生やし厚手のカーゴパンツとミリタリージャケットに身を包んだ男が立っていた。
草色の服がよく似合うガタイの良い四十代ほどの男はベリルに下品な笑みを浮かべる。ブラウンの髪と同じ色の瞳、彫りの深い顔立ちに一重の目でこちらを見据えていた。
「誰?」
ダグラスは見覚えのない顔に怪訝な表情を浮かべる。
「ローランド」
つぶやくように発した名に、知り合いなのかと少年は眉を寄せた。ローランドと呼ばれた男は一瞬、鋭くベリルを睨みつけたがすぐに口角を吊り上げて不適な笑みを見せる。
「丁度いいところに的があった」
ベリルは赤い液体の流れる右肩を押さえながら無言で見つめる。
友人という関係ではないのは明らかだが二人の間に流れる微妙な空気に、どういったいきさつがあるのかまではダグラスには窺い知れなかった。
「相変わらず無駄なことしてるな」
誰かを助けた所であんたになんの得があるんだか。
「なんだと?」
肩をすくめて小馬鹿にしたような物言いにダグラスはカチンとくる。大抵の人間は何も知らずにベリルを罵る。
どれほどの決意を胸に秘めているのか、だからこその強さをほとんどの人間は知らない。
「よせ」
ベリルは身を乗り出した少年を制止した。