第2話 この暇な時間の中で
蒼く澄み渡った空、所々に生えている木々の緑。それを教室の中で席に座りながら眺める。
(暇だなぁ……)
現在、朝のホームルーム中。
担任が何か話しているが、興味ないので無視する。
(たいがい座っているだけで何とかなるから楽なんだよなぁ……)
そう、授業なんて寝てても出席になる。テストさえ何とかすれば問題は無いのだ。たまに名指しで何かを聞いてくる教師もいるが、そこは甘んじて受け入れようじゃないか。
光耀はそんなことを考えていた。
「起立」
号令がかかる。
光耀が授業について考えていたら、ホームルームはいつの間にか終わっていた。
周りの人が立つのに合わせて光耀も立ち上がる。
「礼」
全員が頭を下げた後、教師が教室を出ていった。
「モミジ、通り魔だってよ」
教師が出ていってからすぐに蒼海が話しかけてくる。
「……?通り魔?」
光耀には何を言っているのか全く分からなかった。
呆れ顔になる蒼海。
「お前、また聞いてなかっただろ……」
そう言って、大きな溜息を吐く。
察するに通り魔というのはホームルームで教師が言っていたことらしかった。
「しょうがないだろ。話がつまらんのがいけないんだ、それに教師の話なんて興味無いしな」
本音を言って返す。
「はぁ~。モミジ、お前はいつかそれで致命的な失敗をするぞ」
毎回これと同じようなやりとりをやっていたので、蒼海は何を言うのかわかっていたようである。もちろん毎度のことなので光耀も相手の言うことがわかっていた。
でも、今はそんな毎度のやり取りをすることなんかよりも光耀は通り魔のことに興味を持った。
「で、通り魔が何だって?」
「ああ、そうだった」
呆れ顔からいつもの顔に戻して蒼海が口を開く。
「最近このあたりで通り魔が出るんだってよ」
「ふぅ~ん」
聞いてみたはいいが別に大したことのない普通の話だった。光耀はこの時点でほとんど興味を失った。
通り魔が出ることなんて割と良く聞く話だし、大して珍しくはない。
「で、犯人はどんな容姿なんだよ?」
どうせ中太リで背の低い中年男性とかそんなとこだろう。とか考えながら、蒼海に質問をする。
もうほとんど興味は無いが、とりあえず聞いておこうかなと、そんな感じでただ惰性に聞いただけだった。
「それがわからないんだってよ」
予想と少し違う返答が返ってくる。そのことを疑問に思うが興味が少しだけ戻ってくる。
「何でだ?通り魔だったらやられた奴とか通行人とかが顔を見るだろう?」
「夜の誰も居ない時間帯に襲ってきて、後ろから一撃で意識を刈り取るから正体を見た人が居ないんだって」
何だそれは……、と光耀は思った。
そんなことだったら被害者が殺されても全くおかしくは無いだろう。
被害者が気絶していて周囲に誰も居ないのだから殺そうと思えば殺すことが出来たはずだから。
「ああ、それと方法がとく」
キーン コーン カーン コーン
蒼海の言うことを遮るようにチャイムが鳴り、教師が扉から入ってくる。
「わりい、また後で」
蒼海が自分の席に戻っていく。
そして、そのまま授業が始まった。
(一体、犯人は何がしたいんだろうなぁ……)
光耀は授業中そんなことをずっと考えながら窓の外を眺めていた。
「そういや、結局なんだったんだろう?」
授業が終わってから通り魔の話をすることは一度も無く蒼海が何を言おうとしていたのか、分らずじまいだった。
多少は気になるが、光耀にとって今はそれよりも重要な問題があった。
今の時間は、昼休み。
奴が襲撃してくる時間だった。
「お兄ちゃ~ん」
甘ったるい声が響く。
その声と呼び方を聞いて光耀は鳥肌が立った。
奴が来たのだった。
純白 光耀の義妹、純白 朔
(今日こそは絶対に勝つ!)
鳥肌の立っている身体を気合で奮い立たせて、光耀は拒否反応を起こすような呼び方と声をしている義妹‐朔を見据える。
相手の行動はわかっていた、毎度のことだから。
(まずは走って抱きついてくるはずだ)
相手の行動を予測する。
「お兄ちゃん、おべんとぉ~」
そう言って、走り寄って抱きつこうとしてくる。
予測通りの行動だった。
朔が手を回してくる前に膝を曲げて腰に手を回してがっちり掴む。
「いまだあぁーーーー!!」
走ってきた勢いが無くなる前に策を掴んだまま後ろへと大きくのけぞり、手を離す。
ジャーマン・スープレックスだ。
(よし、完璧に張ったな)
そう思い、光耀は勝利の余韻に浸り立ち尽くす。
『おぉっ』
後ろで感嘆の声が上がった。
「ぐべぇあっ」
瞬間、背中に強烈な衝撃が来て床に倒れこむ。
飛び蹴りをくらったようだった。
勝利ではなく今日も惨敗だった。
光耀の義妹‐純白 朔は茶色みがかったショートヘアーに大きな瞳、ペッタンコの胸に低い身長という小学生みたいなブラコンの女の子。周囲の認識はそんなところ。
朔は容姿とそういった兄思いの行動で多くの人から気に入られている。
そして、光耀は兄思いのいい子にあんなひどいことをしてというような視線を毎回むけられていた。
しかし、光耀がそんなことをしてしまうのも仕方のないことだった。何故なら、光耀から見て違和感バリバリだから。
「もうお兄ちゃんたらひどいなぁ」
(ひどいのはお前だ)
心の中で嘆息しながら、立ち上がる光耀。
「はい、お弁当。ちゃんと残さずにきちんと食べてね」
台詞と共に弁当を渡して朔は教室を出ていく。
やはり違和感バリバリだ、と光耀は思う。
朔のあの声、呼び方、口調を聞いていると鳥肌が立ってくる。朔の姿を見ていると、お前は誰だ?と言いたくなってくる。
「モミジ、とりあえず飯食おうぜ」
敗北感に打ちひしがれている光耀の肩に手を乗せて、爽やかに昼食の誘いをする蒼海。
「ああ、そうだな……」
そのまま、いつものように蒼海と一緒に飯を食べる。
(みんな、あいつがどういう奴か知らないから平気で見ていられるんだよ)
と、そんなことを思いながら。




