働かなかったら生贄にされた
「おぎん、お前さんには龍神様の嫁になってもらう」
「ふーん」
おぎん、齢十五歳。働かなかったら生贄にされた。
おぎんは十の頃に両親が死んだ。憐れに思った村の者がおぎんを引き取ったが、困ったことに彼女は全く働かない。
家事も、農作業も、何もせずに日がな一日、家でごろごろとしていた。優しくしても厳しくしても効果は無し。困ったものだが一度引き取った身としては追い出す訳にもいかない。
そんなある日、龍神が嫁を欲しがっているという話が出た。雨が降らずに困っていたところにこの話。村の者達は満場一致でおぎんを生贄に差し出すことに決まった。
大仰な儀式の後、おぎんは龍神が祀られている社がある洞窟に一人、入れられた。
「(おれは死ぬんか……)」
そう思っていると声が聞こえた。
「お前が我が嫁か?」
いつの間にか目の前に人がいた。いや、人と呼ぶにはあまりに神々しい。おぎんは一瞬で理解した。これが龍神様だと。
「ああ、そうや。死ぬ覚悟はできとる。せやけど、働くことは死んでもせん」
おぎんは龍神の目を真っ直ぐ見つめて言った。すると、龍神はおかしそうに笑う。
「死ぬとは少し違うが、たいそうな嫁が来たものだ」
龍神はおぎんの手を取った。
「私は……たかおか……長いから高尾(たかお)と呼べ」
「おれは、ぎん。おぎんや」
おぎんは龍神の住み処、天界に行ったがやることは変わらない。日がな一日ごろごろするだけだ。
おぎんが天界の生活に慣れてきた頃、高尾は聞いた。
「おぎんは何故、頑なに働かないのだ?」
おぎんは顔をしかめて話し始めた。
「……おれのおっとうとおっかあは働いて働いて働いて死んだんや。働いても働いても暮らしは良くならんかった。やったら……働いて死ぬより働かずに死んだ方がましや。まあ、やから除け者扱いされたんやけどな。働かんもんには厳しい世の中や」
高尾は、ふむ……とあごにてを当てると立ち上がった。
「おぎん、村の様子を見に行こう」
「は?」
「ついておいで」
「本当に見えとらんのか?」
「見えてないから心配するな」
きょろきょろと辺りを見回すおぎんに高尾はそう言う。
「おぎんの家はここだったな」
「ああ」
高尾が、すっと扉をすり抜けるので、おぎんも真似をして家に入った。
家の中では、おぎんを引き取った者の家族達が楽しそうに話している。
「いやー! 雨が降って作物も順調に育っとる! 龍神様のおかげやな!」
そんな中、ぽつりとこぼす者がいた。
「おぎんには……可哀相なことをしたやろうか……」
その言葉に家は静まり返る。
「仕方なかったんや……。おぎんは最期に役に立ってくれた。村の英雄になれたんや……」
「せやな……」
それを聞いて高尾は「帰ろうか」とおぎんの手を引いた。
天界に帰るとおぎんは呟く。
「なんで村になんか行ったんや……」
「おぎんが自分を必要の無い人間だというように言ったからな」
「え……」
おぎんは高尾を見上げる。
「おぎんは村に必要な者だった。そして私にも必要な者だ」
高尾はおぎんの二の腕を掴む。
「働こうと働くまいとおぎんはおぎんだ。私の愛しい嫁だ。誇りなさい」
おぎんの目からはいつの間にか涙が零れていた。
「おれは……ここにいていいんか……?」
「もちろんだ」
おぎんの涙を高尾は指ですくう。
「おっとうとおっかあは! 死ななくてよかったんか……!」
高尾はそっとおぎんを抱き締めた。
「ああ」
おぎんは高尾にすがりついてわんわん泣いた。
それからもおぎんは日がな一日ごろごろして過ごしていた。変わったところといえば高尾によく懐くようになったことだろうか。
「今日の飯もうまいな~。働かんと食う飯は最高や」
「ふふ。おぎんは相変わらず面白い」
これからもおぎんは働かないだろう。
けれど、それでいい。
そんなおぎんを認めてくれる者がいるのだから。




