借金返済に売られそう。
「それで?」
と恵美留は言った。
大男達に連れてこられて、安っぽい事務所の一室に座っていた。
みるからに金融業でさらに反社会的な男達だった。
一人はインテリヤクザっぽく、あとに二人は脳筋派でもう一人はキャンキャンうるさそうなチンピラだった。
「旦那の借金だ、嫁が返すのが当たり前だろ」
とインテリヤクザが言った。
「どこの常識よ。そんな当たり前、知らないわ」
と恵美留はふんと笑った。
「威勢がいいのはいいが、そういうのは通用しないんですよ、奥さん」
とインテリヤクザがふっと冷たく鼻で笑った。
「夫の借金なら、あの人が返せばいいじゃない。あの義母と義姉もよ。どうせあの二人に甘い顔をする為の散財の借金でしょう。水商売でもなんでもして一家で団結して返せばいい。私は唯一の他人だから関係ないわ」
「奥さん、あんた肝っ玉が据わってるね」
「それはどうも」
「あんたが言うのも最もだ。しかしね、こっちには証書がある。旦那の借金の保証人があんたなんだ。本人が返せなかったら、保証人が返す、これくらいの常識は知ってるんだろ?」
恵美留ははぁとため息をついた。
「私が自筆でサインしてなくても?」
「そんな事は知ったこっちゃない。あんたの名前がある借用書だ。半分はあんたの責任だ」
「あらそう。けど、本人が返せないって根拠は何なの? 死にかけてるってわけじゃないんでしょ? 明日から出張だって言って浮気相手と旅行に行く予定らしいわよ? そいつをとっ捕まえて身ぐるみ剥げばいいじゃない? 見たところ、怪しい金融会社なんでしょ? 心臓でも腎臓でも取って換金する術くらいあるんでしょ?」
と恵美留がそう言うと、脳筋とチンピラの二人は少し驚いた顔をしたが、インテリヤクザははっはっはと笑った。
「あんた、たいしたタマだな。いいのかよ? 旦那を地獄に落としても。つうか、俺達としたら、あんたみたいな別嬪の方がずっと金になるんだがな」
「女なら義母と義姉がいるわ。現代なら熟女に需要もあるんじゃないの」
そう言い捨てて恵美留はクスッと笑った。
異世界での10年、筆舌に尽くしがたい苦しい生活だったのだ。
人の命が消えるのも簡単で、奴隷商人、武器商人、そして特権階級の貴族達。
人には簡単に上下が付き、それは生まれながらにして与えられる過酷な運命だった。
もちろん魔法もある、魔物も出る、獣人もいる、エルフもいるファンタジーな世界。
優しい人間もいるし、悪い人間もいる。心ある魔物もいたし、残虐な魔族もいた。
もちろん生活苦の為に妻や子を売るクズもいたし、そんな身寄りの無い人を助ける慈善家もいた。
「心優しい者が損をするのはどこの世界も一緒ね。でも私はもう心優しい役はやめるわ。私を愛してもいない夫や奴隷としか思ってない義母、義姉がどうなろうと知ったこっちゃない」
しばらく空間に静寂が訪れた。
ヤクザ達は優しく言っても分からないのなら、少々強引な手段を使うべきだと切り替えようとした。




