お約束の姑と義姉
「あ」
次の瞬間には晃一の母親と姉が立っていた。
義姉は38才、独身、しかも働いておらず実家に寄生している娘だ。
普段は母親から小遣いを貰い、大きな買い物は弟である晃一にねだる。
晃一は家族にいい顔をしたくて何でも願いを叶えてやる。
結婚前は気前が良かった晃一だが結婚してからは恵美留にプレゼントをくれた事がない。
「恵美留さん! どうして電話に出ないの!」
「ちょっと! 言いつけた支払いしてないでしょ! 先月中にしとけって言ったでしょ! カード止められたじゃないの!」
と義母と義姉が同時に叫んだ。
時間は夜の7時、近所に住んでいるから早朝だろうか昼間だろうが夜中だろうが、お構いなしに好きな時間に突撃してくる二人だ。
ピーナッツ親子という一時流行った言葉、この母子はそのものだった。
いつも一緒で仲良し、気が合う親子。
本当に、「こいつらの事、結婚前に分からなかったの?」って聞きたくなるよ、自分にね、と恵美留は思った。
「ちょっと! 黙ってないで!」
と義姉が言って手を振り上げた。
その手を捕まえて、「うるせえ」と恵美留が言うと義姉はぎょっとした顔になった。
「何ですって? 今、私になんと言ったの!」
「う・る・せ・えと言ったんですよ。お義姉さん」
掴んだ義姉の腕を突き放すと、義姉は簡単によろけた。
「亜紀ちゃん……ちょっと! 何してるのよ!」
と叫んだのは義母だった。
ふらついた義姉、亜紀の身体を支えてから恵美留をきっと睨んだ。
「敵からの攻撃を避けるのは当たり前の動作でしょ。そしてやられたらやり返す。さらにやられる前にやれってのがこの10年のモットーなんで」
「な、なにを言って、嫁のくせに!」
「まあ、いいじゃないママ」
体勢を立て直した亜紀が笑った。
「亜紀」
「だって、晃一とは絶対別れさせるんでしょ?」
「それはそうだけど」
「だいたい結婚自体反対だったのよね。晃一が気立てのいい大人しい女だからって言うからさ。独身じゃ会社での立場もあるしって。天涯孤独の孤児のくせに」
「そういう事は早く言ってくれませんか。この3年無駄になった……いや、この結婚が召喚される条件だったとしたらしょうがないか。必要悪ってやつですかね」
と恵美留は言った。
「何、言ってるの? 頭おかしいんじゃないの」
「そーですね。すっごい辺境で野宿とかで、たまに宿屋に泊まってもかったいベッドで、化粧品もなんかヘチマ水くらいで、かったいパンと水を我慢して食べて、エアコンも温泉もないような生活を10年しましたから、たいていの事は屁とも思えませんね!」
と恵美留は言った。
「あなた方のお望み通りに出て行くんでどいてください」
恵美留はスーツケースをゴロゴロと押して、二人の間を通り抜けた。
玄関を出て、これからどこへでも行けると思った瞬間、大きい男が数人恵美留の行く手を阻んだ。




