魔術師だったはず
「てか、戻ってるよね」
恵美留は鏡を見た。
10年前の自分だった。
28才から異世界で10年過ごしたから38才のはずだが、そのまま28才の主婦に戻っていた。しかもつまらなそうな顔。
異世界で戦っていた十年の方が若々しかった。
満足な化粧水も乳液もない暮らしなのに、なんかもっと肌がぷりぷりしてたような気がするんだが。
恵美留はキッチンの椅子に座った。
よーく考えよう。
異世界で最強魔術師として十年、魔王討伐に命を賭けて戦った。
ブラック企業も裸足で逃げ出すほどの苦行だった。
なんせ命がかかっていた、それでも逃げられない。
恵美留はオートマイト国、最強の魔術師だったからだ。
勇者のパーティに世界の平和がかかっていた。
そして平和を取り戻した途端、仲間と力を合わせて魔王を討伐した瞬間、元の世界へ戻されたのか。
「え、そりゃ、元の世界に戻る事を希望に戦ってきましたよ? でも、え? 何? 報奨も貰ってないし、平和を堪能もしてないし、みんなに何の挨拶もしてないのに? 戻す?」
はぁ~と恵美留はため息をついて机に突っ伏す。
「忘れてたけど、旦那は浮気してたし、義実家に嫁いびりされてたし、戻って来ても良い事ないんだわ!」
腹立ち紛れにダン!とテーブルを叩くと、拳に宿った魔力が炎を呼び、一瞬ぼっと燃えた。
「え、設定そのまま?」
意識を身体中の気の流れ、魔力の流れに集中すると、確かに感じる事が出来た。
「ステイタスオープン」
現れた四角いウインドウにはエミルと名前があり、レベルの数値や経験値、さらにぎゅうぎゅう詰めになった文字列で使える魔法の種類が書き込まれていた。
恵美留は国で一人しかいない全属性持ちの魔術師で、皆が恵美留に助けを乞う。
エミルと勇者達は国中を旅して様々な人を助けた。
「みんな、どうしてるのかしら。それぞれ元に戻されたのかな」
勇者達一行もまたエミルと同じように身勝手な神に召喚され、十年も苦を供にした仲間だ。
勇者カイ、最強の剣士で勇者属性から死ぬ事すら出来ない不死身の身体。どれだけ負傷しても回復し、死ぬ事は叶わない。戦いの合間の世間話では前世はヤクザだったらしい。
魔術師エミル、全属性持ちの最強魔術師、攻撃魔法全種、治癒魔法、時空魔法などを駆使し、多くの民を助けた。前世は主婦。
聖女マヤ、治癒魔法、防御魔法に卓越した力を持ち、聖魔法の中でも聖女にしか持ち得ない光魔法でアンデッド系魔物を殲滅する。前世はキャバ嬢。
聖剣士アイデン、剣でも素手でも力業で全てをなぎ倒していくマッチョメン。前世は料理研究家。




