幼馴染と異世界召喚されたけど帰れるらしいので良かったと思ったら、幼馴染が帰りたくないと言い出した
「う……ここ……は?」
頭が猛烈にふらつき床に跪いていると、意識が徐々にクリアになって来た。
一体何が起きたのだろうか。
高校からの帰り道、突然足元に魔法陣が出現したかと思ったら体が浮き上がるような感覚になって、激しいジェットコースターに乗せられたかのように身体が揺さぶられた。
「栗音!」
俺は一人で帰宅していたわけではない。
幼馴染の林道栗音と並んで歩いていた。
恐らく一緒にこの不可解な現象に巻き込まれてしまったのだろうが、果たして無事だろうかと隣を確認したら、俺と同じく頭を押さえて蹲っていた。
良かった、無事だったか。
「大丈夫か?」
「う……タケ……?」
俺は河野 岳琉。
くりからは、『タケ』と呼ばれている。
「なんとか大丈夫そう……ここって……タケ!?」
くりが周囲を確認しようと顔をあげたら、何かに気付いたかのように焦って俺の名を呼んだ。
それに反応して俺も周囲を確認したら、そこには多くの人が立っていた。
「誰だ!?」
白いローブを着た人や、ドレスを着た若い女性。
そして中央には王冠を被ったいかにもファンタジー的な王様をイメージさせる風貌の、ふさふさの白髭を生やした男性がいる。
俺達が彼らの存在に気付くタイミングを待っていたのか、その王様らしき人物が笑顔で両手を広げた。
「ようこそ勇者様!」
「え?」
「え?」
反射的に驚いてしまった俺とくりだが、直ぐに事態を理解した。
何故なら俺もくりもアニメを良く見るしラノベも良く読むから。
異世界召喚されてしまったのか。
更に周囲を確認すると、俺達の足元には巨大な魔法陣らしきものがあり、その魔法陣の中心に台座に乗せられた巨大な水晶らしき宝石が乗せられていた。ここは召喚の儀式部屋のようだな。
「突然のことに戸惑われておられるでしょう。ひとまず奥でお休みになってからお話を……」
「俺達に魔王軍と戦えって言うんですか?」
「え?あれ?事情をご存じなのですか?」
「テンプレですから」
「てんぷれ?」
どうやら魔王軍と戦うために俺達は呼ばれたらしい。
それは確かにテンプレだが、テンプレでは呼び出した連中が悪人の可能性の方が高いんだよな。
「くり、どう思う」
「今のところ怪しい雰囲気はなさそうだけど、油断は出来ないと思う」
「だな」
王様らしき人物は陽気なおじいちゃんといった感じで、こっちを見下していたり罠に嵌めようとしているような雰囲気は感じられない。おつきの人々やドレスを着たお姫様らしき若い女性も同じだ。言葉遣いも王様らしさを全く感じさせないほどに丁寧で、真っ当に対応してくれていることは理解できる。
だからといって簡単に信じられるわけがない。
異世界召喚なんて結局は誘拐だ。
自分達の都合で他の世界から相手の意思を確認せずに勝手に呼び出すような人々が、まともなわけがないのだから。
「戦うなんて嫌!元の世界に返して!」
「そうだ!こんなの誘拐じゃないか!」
とりあえず情報収集のためにごねてみた。
ここで真摯な対応をされるかどうかで、彼らの人となりが多少は分かるはずだ。
「え?」
どうしてそこで呆けた顔をするんですか、王様っぽい人さん。
ごく普通の反応のはずなのに、こうなることを想定しなかったのですか。
単なるポンコツ集団の可能性が出て来たぞ。
ここは確認が必要だな。
「どうしてそんなに驚いているのですか?」
「喜ばれることこそあれども、嫌がられるとは思ってもいなかったからです」
「普通は嫌がるでしょ!」
「勇者として活躍したい人物のみが召喚される仕組みになっておるのです」
「え?」
つまり俺達の反応を想定できなかったポンコツじゃなかったってわけか。
良かった。
無自覚に振り回して来るような輩だったら酷い目に遭うこと間違い無しだったからな。
でもおかしいな。
「俺は勇者として戦うだなんて嫌ですよ」
あれは物語として読むから面白い訳であって、たとえチートがあったとしても命をかけたやりとりなんてやりたくもない。召喚される条件には当てはまっていないわけだが。
「だから元の世界に帰してくれ。なんて言ってもどうせ無……」
「承知しました」
「え?帰れるの?」
「はい」
「帰るためには魔王を倒さなきゃダメとか」
「何ですかその非道な条件は」
「魔力を溜めるのに一年間かかるとか」
「送還用の魔力も溜めてから召喚するのが普通ですな」
異世界召喚されたのに普通に帰れちゃうんですけど。
それって物語的に大丈夫?
「これ以上不安にさせるのは申し訳ない。早速ですが送還の儀を執り行いましょう」
う~ん、すぐに帰れるなら観光くらいはしても良かったかもな。
でもその少しの観光でトラブルに巻き込まれる可能性もあるし、ここは帰るのが正解か。
「帰れそうで良かったな、くり」
「…………」
「くり?」
てっきりほっとした表情になっているのかと思いきや、くりは俯いて体を小さく震わせていた。
まだくりは安心していない。
もしかして俺は何かを見落としているのではないだろうか。
そう不安に思って緊張感が蘇ろうとしたその時、くりが小さくつぶやいた。
「なんでよ」
「え?」
「なんで帰れちゃうのよ!」
「え?」
どういう意味なのかと聞こうと思ったら、くりは俺を無視して王様らしき人に詰め寄った。
「こういうのは普通帰れなくして無理矢理戦わせるものでしょ!」
「ひぃ!何を怒っておられるのですか!?」
俺も王様に一票。
くりが怒る意味が分からない。
「せっかくタケとイチャラブ異世界生活が出来ると思ったのに台無しよ!」
「くり!?」
おいおい何を言ってるんだ。
そもそも俺達は幼馴染だけど付き合ってるわけでもないのに。
「良く分かりませんが、送還されたくないのであれば中止しましょうか?」
「そういう問題じゃないの!いつでも帰れるんじゃタケが向こうの常識を忘れてくれないじゃない!帰れないなら郷に入っては郷に従おうって感じで異世界に染まって欲しいの!」
なんか俺の幼馴染が怖いこと言ってる件について。
どうして俺をこの世界に染まらせようとするんだ。
そんなことしてくりに何のメリットがあるんだ。
「王様!ここの成人年齢は!?」
「じゅ、十五です」
「ほらぁ!やっぱりそうだった!私達の世界より若かった!」
だからそれの何が嬉しいんだよ。
「ここならタケと合法的に子作りできるのに!」
「はああああああああ!?」
なんか俺の幼馴染が怖いこと言ってる件について。
「いきなりどうしたんだくり。俺達はそういう関係じゃないだろ」
「そう思ってるのはタケだけだよ!私はタケに押し倒されて滅茶苦茶にされたいってずっと思ってたもん!」
「うわぁ」
最低の告白になってるって気付いているのだろうか。
「タケのベッドで薄着でゴロゴロしてるのに絶対に手を出して来ないし!」
「やっぱりわざとだったのか!」
「気付いてたならヤりなさいよ!」
「いやだって俺達まだ高校生だし、そもそも付き合ってもいないし」
「だ・か・ら!この年齢でもセッ〇スしまくれる異世界が良かったのに!」
「いつの間に俺は貞操観念逆転世界に迷い込んでしまったんだ」
突然のくりの暴走についていけないが、一つだけ分かったことがある。
俺達が召喚されたのはくりのせいに違いない。
くりの異世界イチャラブ計画の念が強すぎて選ばれてしまったんだ。
「タケ、一緒に異世界で生きよう?」
「普通に帰りたい」
「なんでよ!こんな美少女が孕ませて欲しいって言ってるんだよ!」
「自分で美少女とかいうな。それに発言で台無しだ」
いやまぁ美少女であることは否定しないがな。
幼馴染贔屓目かもしれんが。
「私が面倒みるから!」
「そういう問題じゃないし、男としてそれはなぁ。というか、面倒みるって具体的には?」
「あの王女とか美少女奴隷とかに誑かされる前に、私がいなきゃ生きていけないって思うくらい一昼夜愛し合い続ける!」
「それは面倒みるって言わない!」
「だって異世界モノだと一緒に召喚された美少女がハーレムに加わるのって三番目とか四番目になりがちなんだもん!そんなの嫌!タケは私だけのものなの!」
「う~ん、話がかみ合ってない」
後、それ以上は止めてやれ。
王女様っぽい女の子が顔を赤くしてる困ってるじゃないか。
にしても、まさかくりがここまで重い女だったとは。
ずっと本性を隠してたんだな。女って怖い。
「そろそろ諦めて帰ろう。皆を困らせるなって」
「…………あ!手が滑った!」
「おい馬鹿水晶を壊そうとするな!」
あんな高そうな物を壊したら、弁償で奴隷落ちとかさせられて超ハードモード異世界生活になっちまう。
「ちぇっ」
「しょげてるフリして摺り足して魔法陣を消そうとするな!」
魔法陣は床に書かれている訳じゃなくて魔法的な何かで生み出されているようだから消えなかった。
「ほら帰るぞ」
「い~や~だ~!タケと子作りするの!爛れた生活するの!小学生の頃からの夢だったんだもん!」
「そんな昔から!?」
妙にラッキースケベが多いなと思ってはいたが、全部こいつの策略だったのか。
「そんなに俺に抱かれたいのか?」
「うん!タケは私のこと嫌い?」
「嫌いじゃない」
そりゃあ可愛い幼馴染が歪んでいるとはいえ好意を示してくれて悪い気はしないさ。
「なら良いじゃん!」
「だから異世界で生活するってのは意味が分からない。しかも抱かれるだけじゃなくて子作りしたいってヤバいだろ」
「この歳で子供が出来ちゃうかもしれないハラハラ感がたまらないんだよね」
「ダメだこいつ」
俺との子供が欲しいからじゃないのかよ。
倫理的に絶対アカンやつだろ。
「それに悪いが俺はくりを幸せに出来ない」
「どうして!? 私何でもするよ!?」
いやぁ多分無理だと思うよ。
「俺、ネトラレで興奮するタイプなんだ。くりがそこの王様っぽい人に抱かれて脳を焼かれたいって言ったらやってくれる?」
「…………」
くりが硬直してしまった。
どうやら徹底して隠していた俺の性癖はちゃんとバレてなかったらしい。やったぜ。
「俺はそんなことしない! お、おいお前達、俺をそんな目で見るな!」
すまん。王様らしき人に被弾してしまった。
王女様らしき人が氷のような視線になってるんだが、この程度で疑われるってことはもしかして浮気性なのだろうか。
なら自業自得だな、ヨシ!
「タケ、お話があります」
「な、なんだ?」
突然の丁寧語が怖い。
説教されてしまうのだろうか。
こうなるからあまり言いたくなかったんだよな。
でもくりを説得するには伝えるしか無かったから仕方ない。
「ハーレムに興味ありますか?」
「え?」
あれ、説教では無かったのか。
でも何故ハーレムなんだ。
「ネトラレで脳が焼かれたい。でもその時に生まれたリビドーをぶちまける相手が必要だと思うんです」
「まぁそうかもな」
「きっとそのリビドーは野獣のように激しく、欲望に任せて相手を物のように雑に扱うことになるでしょう。はぁはぁ」
「だらしない顔になってるぞ。まさかくりが受け止めてくれるつもりなのか?」
「うん!雑に扱われたい!」
「こいつやべぇな」
だが俺としては悪い話では無い。
脳が焼かれた興奮そのものが好きではあるが、それを発散する手段も確かに必要だからだ。
「しかしくりが事後処理をやってくれるとして、そもそもどうやって脳を焼けば良いんだ」
「ここは異世界だよ。ハーレムの一つや二つ簡単に作れるでしょ」
「創作に毒されてんなぁ」
普通に考えてそんなに簡単に出来るわけないだろ。
「例えばそこの王女」
「え、私!?」
「タケのテクで心を堕として、そこを王様に抱かせればタケは脳が焼かれるよ」
「こんな話を聞かされて堕ちると思います!? というかなんて話を聞かせるんですか!」
「俺を巻き込むな!」
「近親相姦まで混ぜるとか、くりさんマジパネェっす」
「そしてそこで溜まったリビドーを私に容赦なくぶつけるの!はぁはぁ!」
「ダメだこの人達聞いてくれない……」
くりの提案は俺にとって強く興味を惹かれるものだった。
「なるほど。この世界でハーレムを作ってネトラセまくり、くりで発散させる。元の世界では出来ない所業だな」
「でしょ。最高だよね!」
「おう!」
向こうでは味わえないこれほどのメリットがあるのであれば、こっちに残る理由にはなるな。
「よし決めたぞ。俺は勇者になる!」
「きゃあ!タケ格好良い!」
「ということで王様っぽい人、俺達頑張ります」
世界救いながらたっぷりネトラレちゃうぞ!
なんて折角やる気が出たのに。
「帰れ!」
「帰れ!」
何故か俺達は強制的に送還させられてしまった。
「くそ!離せ!俺はこの世界でネトラレるんだ!」
「いや!タケに激しく孕まされたいの!」
「あ、くそ、もう戻ってる」
「ちぇっ、最大のチャンスだったのに」
送還させられないように暴れていたら、元の世界に戻ってしまっていた。
通行人が居なくて良かった。
こっちの世界ではまだお互い闇を隠したままだからな。
バレるわけにはいかない。
尤も、お互いにはバレてしまっているわけだが。
「…………」
「…………」
俺たちは気まずそうに視線を交わす。
あんな赤裸々な発言をしてしまったのだから当然だろう。
いや待てよ。
隠し続けていた内面を暴露してしまったのだから、遠慮する必要が無くなったのではないだろうか。
「くり」
「は、はい!」
「なんとしても異世界に行くぞ」
「うん!」
俺達は熱い握手を交わし、共通の夢に向かって歩き出した。
「ねぇタケ。今晩部屋に行っても良い?」
「ダメに決まってるだろ!」
こいつに襲われる前になんとしても異世界に行かねばならんな。
これはひどい。
これ現実世界恋愛なのかと思ったけれど、異世界恋愛にするのも違和感ありました。
最後に現実の話が出て来たから良いよね!