1p 【世界の現状】
日中の大型ショッピングモールにも関わらず薄暗い店内の中。唸り声を上げて彷徨う存在がそこには居た。
「一匹のみか」
周りの状況を確認し再度この後の流れを確認する。
大丈夫、状況は整っているんだ。
手元のロープを握り締め、空いている方の手で目的の場所に雑誌を投げ込む。
ばさッと、音を立てたそれにその存在は振り向き勢いのまま駆け寄る。
・・・まだ。まだだ。
足元を見つめタイミングを伺う。
あと少し。
内側に入った事を確認してロープをめいいっぱい引っ張る。
同時にネットで作った罠が持ち上がり、引っ張る度に口は閉じていく。罠と言われたら思いつくであろう典型的なもので得物は捕えられたわけだ。
しかし問題はここから。
「っ!?うがぁッ、!」
獲物だってはいそれと捕らわれたままではいてくれない。逃げ出そうともがくのだ。
これも予想出来なかった訳ではない。
ロープが引っ張られそうになるのを柱に括り付けながら阻止すること数分。
「ふぅー」
怪我一つせず捕らえられたことにひとまず安心する。
再度周りの状況を確認してから金槌を持って獲物の元へ近寄る。
折れ曲がった手足に血色の悪いボロボロの肌。そして視線の定まらない充血した目。確認するまでもなく"感染者"だ。
生きている者を襲う習性のあるこいつら。感染者改め"ゾンビ"と口にした方が伝わりやすいだろうか。
完全にゾンビと化したこいつに遠慮は要らない。
その頭目掛けて金槌を両手で振り下ろす。
唸り声を上げても、何度も何度も何度も何度も振り下ろす。
声が出るうちは止めない。
「はぁ、はぁっ、」
声も聞こえなくなりぐったりとした姿を確認してリュックサックから刃先を布でくるんだ包丁を取り出す。
こんなんじゃこいつらは死なない。
数分もすればまた目を覚まし本能のまま彷徨うのだ。
そのため頭が欠け中身が見えている箇所に対し包丁を突き立て同じく振り下ろす。
脳の原型を留めておらず再度動き出す素振りを見せないこいつにやっと張り詰めていた糸を緩めることができた。
「やはり男手がないと不便だな!どこかに使い勝手の良い体力バカなんかは落ちていないものかのう」
こんな細腕のか弱い女子がこうも健気に奮闘している。まさに生きているだけで偉いとは僕を称えるためにできた言葉に違いない。
ガラスのショーケースに映る自身の姿を見て返り血や汚れを落とす。
最後に乱れた髪を整えれば今日も世界一可愛い僕の完成だ。
桃色の艶やかな長髪に星空を連想させるような瞳。
小柄なところが難点だが言い換えればお人形のように愛らしいということではないか。
こんな私をぷりちーと言わずしてなんと言う!?
「・・・はぁ、」
と言ってもこのショッピングモールで生活してはや一ヶ月。生きた人間には一度たりとも会えずにいるのだ。確認する手段はないため早々に思考を切り替えるに限るというもの。
篠月 瑠璃17歳。
華の女子高生であるはずの僕は今日もこうして切磋琢磨と頑張っているのである。




