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神がくれた最強チートに俺は気づかない

作者: 糸鮎


 俺だって、違う世界に生まれていれば……。

 異世界小説を読みながらそう願っていた無職の俺に、異世界転移という形でチャンスが巡ってきた。


「どんなスキルでも(さず)けよう」


 神と名乗る男は、自信満々にそう言った。


 いままで9人にも断られたのだそうだ。そんなあやしいチートなんていらないと。

 みんな自分の力で立てる地に足の着いた立派な人格者ばかりだ。


 俺は迷わず答えた。


「一番最強で世界最高のチートスキルをください!」


 俺はあまり頭が良くないし、具体的なスキル名やアイデアなど無い。

 ただとにかく無双(むそう)したいという思いだけがあった。

 神は薄い笑みを浮かべ、スキル名を提示した。


探索(たんさく)。」


「……探索?」


 期待していたのは、聖なる光とか、無敵の身体能力とか、元素(げんそ)(あやつ)る魔法とか、そんな(まばゆ)いばかりの力だ。それがなぜか「探索」。


「何かを探せば、この世界最高のチート発動となる。世界征服も可能であろう」


 世界征服って? 神というよりはむしろ悪魔みたいだ。


 まあ、いい。


 チートスキルが手に入った。


 俺は喜び勇んですぐに冒険者登録をした。


 チートスキルがあれば、すぐに成り上がる。そんな妄想に胸を(おど)らせていたのだ。


 しかし、現実は厳しかった。


 結局、うだつのあがらない冒険者をやっている。

 冒険者というのでさえ名前だけの話で、実際は日課としてスライム退治とゴブリン掃除を生業(なりわい)としている、ただの貧乏人だ。


 チートスキルは強くない。いや、正確にはスキルが役に立たない。

 スキルを発動しても、モンスター一匹見つからないのだ。ゴブリンの群れがいたり、スライムがぐにゃぐにゃと転がっていたりする時はある。しかし、それは探索の結果ではなく、ただの運だ。

 どこがどう「最高チート」なのか理解できない。


 それでも、チートスキルを信じてきた。

 神が与えた力だ。きっと使いこなせるようになる。

 そう信じて、毎日スライムを狩り、ゴブリンを掃除し続けた。


 Fランク冒険者。


 冒険者ギルドの最底辺の階級だ。

 それでも、来る日も来る日も単調な狩りを繰り返し、地道に経験値を積み重ね、いつしかランクアップを果たす日が来ることが目標となっていた。


 そしてついに! 努力は実り、下から二番目のEランク冒険者に昇格するだけの実績を得た。


 Eランク冒険者にランクアップできる!


「俺すごい、俺さすがだ」と声を枯らして(つぶや)いたことは言うまでもない。

 心底嬉しかった。俺の異世界人生が救われたような気がした。



 今日はランクアップの日。


 意気揚々(いきようよう)とギルドの窓口に行き、ポケットをまさぐって冒険者証を取り出そうとした。


「あれ? 冒険者証がない」


 ギルドのカウンターで冒険者証を提示しようとして、俺は愕然(がくぜん)とした。

 財布の中を探し、リュックの中をひっくり返しても、どこにもない。心臓がドクンと嫌な音を立てる。額に嫌な汗が滲んだ。


「申し訳ありませんが、冒険者証がないと」


 ギルドの職員はどこまでも事務的だった。


「え? なんだって? 普通に再発行だろう?」


「再発行は致しかねます。紛失した場合、冒険者を辞めるしかありません」


「待ってくれ」


「あなたが血判を押した冒険者登録時の契約書にも明記されています」


「冒険者ギルドの仕事がないと、何で食べていけばいいのか……」


 零細な冒険者ギルドのノルマをこなせないと、生活は成り立たない。俺は焦った。

 ランクアップどころの話じゃない。冒険者証を取り戻し、冒険者に復帰しなければ。

 いつもの狩場を、まるで(わら)にもすがる思いで探し回った。


 腹が減り、頭が沸騰しそうになる。

「探索」チートスキルは、相変わらず何も情報を与えなかった。ただの無駄なスキルだ。神は、俺を完全にだましたのだ。



 冒険者証をなくして途方に暮れる俺の耳に入ってきたのは噂話だった。


「奥の森に、鳥が何かを隠しているらしい」と。


 未確認情報だが、藁にもすがる思いで森を隅々まで探した。


 俺は森の奥深くまで足を踏み入れた。

 木の根元を調べ、落ち葉を払い、獣道を辿った。枝をかき分け、地面を凝視し、必死に探し続けた。

 日が傾き、森の奥深くは薄暗くなる。


 隠されたものはおろか、鳥の影も、何も見つからなかった。



 次に俺が訪れたのは、ドラゴンの巣だった。


「ドラゴンが冒険者の装備品を巣に隠し持っているらしい」という情報。


 冒険者から奪ったものを集めているらしい。


 ドラゴンとの戦いは、死闘だった。


 しかし、俺は諦めなかった。冒険者に復帰するために必死だった。


 狂暴なドラゴンはFランク装備など物ともせずに襲い掛かる。


 鱗に覆われた巨体、炎を吐き出す口、鋭い爪。恐怖が、俺の心を締め付ける。


 俺は無我夢中で剣をひたすらに振るい、俺の冒険者証を隠し持っているかもしれない強大なドラゴンとの激戦を制した。


 息を切らし、ようやく倒したドラゴンの巣には宝の山が、一応、あった。


 聖剣や金銀財宝を取り除けて、血眼で(あさ)ったが、望みのものはなかった。失望感が、俺の心を深く沈めていく。


 とりあえずその戦利品は文字通りひと財産となり、しばらくは食いっぱぐれることはなくなった。



 次に俺が向かったのは、魔族の国だった。


「魔族はあらゆるものを見渡せる魔眼を持っているらしい」という。


 もしかしたら、魔族ならその邪悪な魔眼で冒険者証を見つけられるかもしれない。


 だがすぐに戦いになった。魔族との戦いは、ドラゴンよりもさらに過酷だった。


 魔族の魔眼は、俺の動きをことごとく見透かしてくる。回避不可能な攻撃、精神を蝕む力。


 それでも、俺は必死に戦い、魔族を倒した。


 ついでに魔族の頂点に立つ魔王も、同じように倒した。


 魔王の死は、国の平和をもたらし、俺は英雄として迎えられた。


 魔王を倒した功績が認められ、将軍の任務を国から与えられた。


 わが国から物品を、もしかしたら冒険者証も盗んで持ち帰っていると思われる隣国からの侵攻を撃退した。


 屠った相手の証を収集している敵の大将と一騎打ちで勝利した。


 各国を次々と傘下に置き、大陸上のあらゆる国がわが王国の統治下に入った。



 英雄、征服王、神に選ばれた者……様々な肩書きが俺に与えられた。

 王宮の豪華な装飾、溢れんばかりの富、そして崇拝する人々の視線。


 そんなことよりも。


 豪華な玉座に深く腰掛け、俺はつぶやく。


 まだ見つからない。


「……冒険者証は、どこにあるのだろう」


 強大な力と権力を手にして俺は、今日も冒険者証を探しつづけている。


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