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銀龍伝  作者: 秋月
11/12

第十話:二人の行く先

最近、文章が雑になってきた今日この頃…

この小説は作者の自己満足百パーセントで成り立っていますのであしからず。

遥か遠方でゴロゴロと雷が自身の存在を主張している。

この時間帯のいつもの青天の空は今や不気味なほどに黒い雲によって覆い隠され、大気は雨の予兆か湿っている。

おそらくあと数時間もしないうちに多量の水滴が世界に降り注ぐだろう。



短期間ではあるが山の中で培った野生の勘を信じ、蒼真(ソウマ)は霊峰目指して町の中―――具体的には家や店の屋根を跳ぶようにして駆け抜ける。

雨が降れば視界の悪さなどを利用して逃げ切れる可能性が高まる。

ましてやそれが他者を寄せ付けない霊峰の胸中だとすればほぼ確実なものとなる。


だが蒼真は頭のどこかでは既に理解していた。

山に入った所でまだ雨は降らない、そしてこのまま行けば奴らは確実に霊峰の中まで追ってくるだろうと。

そうなってしまえば(ユエ)にまで迷惑がかかってしまう。

それだけは絶対に避けなければならない。

自分自身が持ち込んだ問題に彼女を巻き込んではならない。


「ハァッ!」


屋根から屋根へと飛び移り、途中にあった建築用に立て掛けられた木材を追手の行き先を封じるように蹴り飛ばす。

町の人々に迷惑がかかってしまうのはこの際仕方ないと目を瞑ってもらおう。


目論見どおり蹴り飛ばされた大量の木材は重力に従って道を遮る様に倒れ込み土煙を巻き上げた。

これで時間が稼げるだろう、そう思った瞬間―――



ガゥンっ!



―――と、耳を(つんざ)くような轟音が辺りに響き、蒼真の足を屋根ごと抉り取って何かが掠める。

鋭い痛みが熱と共に全身を駆け抜けあやうく転がり落ちてしまうところを何とか踏み止まることに成功した。

足を止める事だけは回避したが、機動力が落ちてしまったことは明らかだ。

速度は多少落ちるであろうが謎の攻撃から身を守るべく身体を屈め追手の方へと顔を向けると、苛立ちを隠せない様子でいる黒服の男が煙が立ち上る黒い塊を此方へと向けている。


「あれは…西洋の兵器か何かか…? 確か以前商人が…」


火薬と鉛を使った遠距離攻撃を可能とする飛び道具…だったかと思案する。

しかしどのような高性能な物でもそれを使うのは人間である。

いくら離れた場所に攻撃を仕掛けられようが、狙いを定めるとなれば必然ヒトは己の目を頼りにしなければならない。

距離が離れるに比例してそれが難しくなるのは子供でも分かる自明の理だ。

何より奴らはすぐには動けまい。


蒼真はこれを機にと多少道を変えて山へ向かう事を悟られないように走るのだった。




   ***



ほどなくしてようやく蒼琉山の樹海の入口にまで辿り着くが、未だ雨は降っていない。

振り返り町の方角を見やってみれば、先程の追手たちが集結したのか目立つ黒い集団が緑の大地の上を蹂躙するかのように此方へと向かってきている。

潜伏していた仲間に見られでもしていたのかと苛立ちに歯を噛み締める。

奴らとの距離は大したものではなく、もう少しすれば奴らも山に入るだろう。


蒼真はとりあえず樹海の入口より奥へと進み手頃な樹の裏に背中を預ける。


「―――どうするべきか」


ここまで来てしまったのなら一時的に(ユエ)には隠れてもらうべきだろうか。

確かに月は自然という名の世界では強者の部類に入るだろう。


山に住むどんな獣たちも彼女の姿、もしくは気配を感じ取れば一目散に尻尾を巻いて逃げるくらいなのだ。

しかし先の追手たちが持っていた西洋の兵器。

アレはヒトが自然の摂理に逆らって自分たちの争いの為に生み出したもので、自然界のものとは存在の根本からして異なるものだ。

幾ら月の力を以てしても太刀打ちできるものではないのかもしれない。

威力と厄介さは自分が身をもって体験している。


「月に気付かれずにアイツらを相手にできるのか…?」


「そんな事が出来るわけがないだろうが馬鹿目が」


顎に手を当て考えに耽っていた蒼真は突然の声に驚き思わず樹から飛退く。

すぐさま声の発生源を探すべく辺りを見回せば、ついさっきまで自分が背を預けていた樹の枝に座る銀の少女の姿があった。

その驚き様がツボに嵌ったのか銀の少女―――月は口の端をつり上げて悪戯っぽく笑う。


「クック…どうした? 私を敵だと思って慌てたのか、んん?」


皮肉を込めた笑いを浮かべつつ月は身軽に枝から飛び降りて着地する。

が、すぐにその笑いも消えうせ冷たい視線が蒼真の体を貫く。


「何故私に隠そうとした? また穢れたヒトどもに追われているのだろう?」


「…これは俺自身の問題だ。月には助けてもらった上に今まで面倒を見てもらった恩もある。だからこそ、俺はこれ以上月を巻き込みたくはない」


月の鋭い視線と交差させるように蒼真も真っ直ぐ見返す。

そんな時間も束の間、月は呆れたように目を閉じ言った。


「私は、お前にとっては”恩人”であるだけの存在だった。そういうことか?」


「違うっ!!」


強く否定する蒼真に対して、月は大きくなってしまった声に臆することなく強く睨みつける。


「ならば私はお前にとって何だ! 恩人でなければ、同類だとでも思ったか! こんな秘境のような山で独り暮らす私を、自分と重ねて憐れんだか!」


「違うに決まっているだろ!!」


「だとしたら何故だ! 何故私に何も言わずに一人で向かおうとした! 何故私に助けを求めようとしなかった! 私とお前は、困った時に助け合う事もしないような軽薄な関係なのか!」


「だから…違うんだ」


蒼真が零すように言うと月の身体がビクリと震える。

大声をあげていたはずであったのにいつのまにか目元に涙を浮かべていた。

初めて見る少女の咄嗟の涙に蒼真は困惑を隠せなかった。


「お前も、今までの者たちと同じなのか…。最初は笑顔で近づいてきて…、私が気を許した途端に掌返したように裏切るそんな者たちと―――」


「―――君が、大切だからだ」


え? と、捲し立てるようにしていた月は目を丸くする。

言葉を遮った本人である蒼真は僅かに赤面しながら頭を掻いている。


「月がその、俺にとっては大切な存在だから…危険なことに巻き込みたくなかったんだ。もし君に万が一の事でもあれば…」


「~~~~~~~っ!」


何を言っているのか理解するまでに数秒かかったが、理解した途端にボンと顔が紅潮する。


「(大切? わ、私が大切な存在!?)」


こんな時どんな風に言葉を返せばいいのか全くと言っていいほど思いつかない。

胸が痛いほどに動悸が激しくなって顔も耳まで燃えるように熱い。



「(蒼真にとって私は大切な存在であってだからこそ危険な目に遭わせたくない。で、でも私にとっても蒼真はその…嫌いなヒトではあるものの一緒に居ても嫌な気持ちになどはならない…むしろ心地良ささえ感じる。あ、あれ? だとすれば私は蒼真の事をす、すすす好いているという事に?)」


オーバーヒート寸前な程に真っ赤になりうーうー呻り続ける月に原因である蒼真も若干焦りを覚える。

具体的にいえば、もうあまり時間が残されていないという事だ。

さっき見えた奴らの居た所からだともうそろそろ山に着く頃のはずである。

大事な話をしている事は分かってはいてもどうしても気になってしまい、蒼真はチラチラと入口の方を一瞥する。


「(うがー! あれこれ悩んでも栓なき事よ! 私自身が想っていることを伝えるまで!)そ、蒼真!」


「はいぃっ!?」


注意を完全に追手に向けていた蒼真は突然呼ばれた自分の名にまたもや飛退く。

しかしつい今し方まで頭をフル回転させて返答を考えていた月は些細なことは無視して続ける。

彼女も一杯一杯なのである。


「お、お前の気持ちはその…しかと受け取った。大切な人を危険な目に遭わせたくないというのも理解できる。だがな…私だって、お前の事はた、たた大切に想っているのだ」


今この時点で二人の顔は林檎顔負けな程に紅い。

とはいっても顔面それ全て真っ赤というわけではなく、あくまで常識的に頬が紅くなっているだけではあるが。

だが二人とも最早吹っ切れたのか紅いまま互いから目を逸らさないままでいる。


「大切な存在であるからこそ、失いたくはない。本当に大切だからこそいつも一緒に居たい、傷つけたくない、手放したくない。蒼真もそう想ってくれているのだろう?」


蒼真は何も言わないままだったが月はそれを肯定の意として受け取る。


「私もそうだ。大切なものはずっと共に在りたいと思う。もしそれが叶わずに、失ってしまえばきっと後悔してしまう。私だってもう……後悔はしたくはないんだ。だから蒼真」


「―――――月」



――――それを言ってしまえば俺たちはもう二度と離れられなくなってしまうだろう

――――本当に私はこれでいいのだろうか、秘密を隠したまま彼に寄り添うなどあってもいいのだろうか

――――俺の問題に彼女を巻き込んでしまってもいいのだろうか

――――過去の悲劇を繰り返してしまうのではないのだろうか

――――俺は彼女を護りきれるのだろうか

――――私はヒトを信じきれるのだろうか


様々な想いが蒼真と月の中で渦巻いてゆく。

不安や罪悪感などといった想いが混ざり合って浮かび上がってくる。

それでも二人は言葉を紡ぐ―――まごうことなき誓いの言葉を。


『ずっと共に』


直後、清閑とした霊峰に幾つかの轟音が轟いた。

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