57、思いはそして強く
目を閉じてしばらくすると、体がフワッと浮き上がった気がした。僕をどこへ誘うのだろうか?体は少し寒かったが、体の中はほんわりと暖かかった。上手く説明できないが、太陽の照らす大空に浮いているような心地だった。
「私はどうすれば良いのですか?私の思いはどうすれば渡独のですか?」
(レミリエ...。)
「私たちは以前のように戻れるのでしょうか?以前みたいに笑いながら、ふざけあえるのでしょうか?」
(体に力が入らないな。)
「お兄様がこんなに苦労なさる必要なんて無かったのに。私がちょっとわがままになり過ぎたばっかりにお兄様は...。」
(起きるタイミングが分からないな。)
「私みたいなのがお兄様の妹で良いのでしょうか?お兄様、答えてください!」
ここで起きるのも1手だが、今までの話を聞いていたと知られたら、目も当てられないことに成りかねない。せめて、レミリエが部屋から出てくれれば。
ガチャンとドアが開く音がした。これ以上人が増えたら、僕はいつ起きれば良いのか、全く見当が付かなくなっちゃうよ...。足音は2人分聞こえた。おそらく、起きたと知ったら雷を落とすのが1人、何をしていたのか興味津々に聞いてくるのが1人であろう。
「レミリエ様、お体に障りますよ。もう夜遅いんですから。」
「でも私のせいで...。」
「レオ様はレオ様なりに責任を取られたのですから、レミリエ様は素直に許してあげれば良いのですよ。レオ様も謝られるより、優しくハグされた方が嬉しいに決まってます。」
「でも、私の言葉が原因なんでしょ?」
「それはそうですけど...。」
「良いですか、レミリエ様。レオ様は良い意味で変な一なんです。私たちは変な人の変な行動を変にしか捉えられないんです。だから、変に長い間考えても、変だということしか分からないんです。レミリエ様にできるのは素直に受け取ることだけですよ。」
「...。」シアが苦笑いをして、レミリエがポカンとしている様子が頭に浮かんできた。ミアは僕が起きてるのに気付いていて、わざと笑わせにきてるんじゃないだろうか。
「シア姉様は、まだまだですね。」
「分かりやすく言ってもらえる?レミリエ様が困ってますよ。」
「シア姉様は人間を半分辞めてるから分からないんですよね?」
「何ですって!」
「だから、レオ様が相談しに来た時に、レミリエ様の気持ちを伝えなかったんでしょ!もし言っていれば、こんなことは起こらなかったわ。」
「だって、あの時は...。」
「親切と冷淡は紙一重だって、いつも言ってたわよね?」
「それは...。」
2人は相変わらずのようだった。目の前で僕という病人が寝ているのに、喧嘩を始めてしまった。今回はいつもと違って、ミアが優勢であった。シアも一方的に言われるだけで終わるはずもなく、言い返し始めるのだろう。
(悪循環が始まったよ...。)
「ミアもレオ様がダンジョンに行こうとしていることに気付かなかったんですよね?」
「何となく違和感を感じたから、レオ様がいなくなったのを一番に気付いたのは私だったでしょ。」
「でも、ダンジョン用品を貸したのは誰でしたっけ?」
「あの時は、まさかダンジョンに行かれるなんて...。」
「ミアはそういうところが甘いんです。しっかり対処しないから、こうやって大事にまで発展するんですよ。」
「私だって、レオ様に傷付いて欲しかった訳じゃ...。」
「結果を見れば、一目瞭然ですよ。」
「シア!ミア!出て行ってください!」堪忍袋の緒がブチッと切れたかのように、火山は噴火した。僕は激しい魔力放出と罪悪感で息苦しかった。
「レミリエ様...。」
「いいから!あなたたちは邪魔です。」
「邪魔かどうかは本人に聞いてみれば良いかと。」
「本人?」
「そこで狸になっていらっしゃる方に。」
「レオお兄様?」
「はい。私たちはこれで失礼します。」
冬というものは突然来るらしい。シアとミアが最後の最後に爆弾を起動させてしまったからだ。おかげで、この上なく空気が重苦しい。
「レオお兄様、起きてらっしゃるの?」
「...まあ、そうだね。」
「...。」
「レミリエ、な━━」
「泣いてなんていません、目にごみが入っただけで...。」
「ちょっと、こっちに来て。」
「でも...。」珍しくレミリエが尻込みをしていた。きれいに結った髪の毛の端をクルクルと手に巻き付けながら。
「良いから。」
「...うん。」
「レミリエ、心配をかけたね。」
「っ!」
何か大切なものを運ぶかのように、壊れないようにそっと優しく、でも零れ落ちないように力強く引き寄せた。息を吞む音が聞こえ、その後はただただ暖かかった。色々な感情が込み上げてきたが、レミリエの前で泣く訳にはいかない。
「お兄様...。」
「僕は大切なものを失いたくなかったんだと思う。ずっと昔のままでいて欲しかったんだと思う。僕のせいで悲しませたのが嫌だったんだと思う。」
「私は...。」
「僕はレミリエが好きだよ。どんなレミリエでも僕は好きだよ。」
「私も、その...。」レミリエは案外押しに弱いのかもしれない。普段なら、滅多に言い淀まないのだが。
「僕は絶対にレミリエを離さないよ。どんな時でも、どんな事があろうと、どんな人が来ようと、僕はこの気持ちを絶対に離さない。」
レミリエは僕の顔を見ないように少し俯きながら、何かを確認するかのように僕の手を握り、自分の胸に押し当てた。
「私の思いはこの心臓の音で。」
「レミリエ...。」
「お兄様...。」
ガチャン
雪が溶けて春が来たと思ったら、すぐに夏になってしまった。あの太陽と蝉の鳴き声がうっとおしい夏に。
「レオ、お楽しみ中で悪いが、モラリス子爵が宣戦布告したぞ。」
「どこに?」
「うちだよ。」
「っ!」
空を見ると、月の両側から黒雲が迫っていた。このままだと、あの満月は見えなくなってしまうかもしれない。でも、僕らが頑張って強風を起こせれば、あの黒雲なんか消し飛ばせるはずだ。
「レミリエ、僕らの家は守ってみせるよ。」
「お願いします。」
これがレミリエに面と向かって、真っ直ぐ言われた初めの言葉の気がした。今までは、視線が少し下だったから。ちょっと照れくさいが、悪くない気がした。
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ここまで読んで頂きありがとうございました。他にも投稿している作品があるので、それらも読んでいただけると幸いです。これからも八咫烏をよろしくお願いします。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
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今後とも八咫烏をよろしくお願いします。




