50、責任と覚悟と
僕がふと窓の外に視線を移すと、もう空が赤く染まっていた。何かを失ってしまったような虚無感に包まれていた。こんな気持ちになるのは何年ぶりだろうか...。
(あぁ、どうすれば...。)
この世界に転生してから一番、先が真っ暗になった気がした。こうなったら、目指す所は1つしかない。
「シア、ミア!」
「あら、どうなさいましたか、私たちとお茶でも飲まれますか?」
「それは今度にさせてもらうよ。」
「では、どうなさいましたか。その顔から察するにレミリエ様でしょうか?」
「よく分かったね。」
「レオ様についてですから。」相当、僕は酷い顔をしていたのだろう。普段なら、自分の顔を鏡で見てみたいところだが、今回はヤメておくことにした。
「それで?」
レミリエとのことを思い出そうとすると、胸がキュッと締め付けられた。きっと、これが人を傷付ける代償なのだろう。昔のことを思い出すみたいだった。何だか、記憶がぼんやりとしているし、記憶の蓋がピタッと閉じていた。
「レオ様?」
「そう、僕は━━」
そこからは地獄の5分間だった。シアとミアに話せば話すほど、自分がしてしまった現実を叩きつけられる。それでも、詳しくはっきり言わないと、2人に解決策を提示してもらえない。
「レオ様、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、これくらい。」
「そうですか。ところで、レミリエ様の気持ちがお分かりになりましたか?」
「いや、始めの方のは分かるけど、最後の方のが...。」
「はぁ、やっぱりそうですか。では、お教えしましょう。まず、レミリエ様が怒った原因は━━」
「ミア、ダメよ!」まっすぐ芯が通っていて、否定することを許さないシアの鋭い言葉が、僕の胸に刺さった。
「シア姉様、どういうこと?」
「良いですか。もし私たちが教えたら、レオ様は一生このまま女性を傷付ける人になってしまいます。だから、私たちは何も言ってはいけないのよ。レオ様、ご自分で考えて行動してください。それでは、私たちは仕事があるので。」
「レオ様、その...頑張ってください。」
ドアがバタンと閉じて、すぐに2人の背中は見えなくなってしまった。いつの間にか鳥の鳴き声が止んでいた。怪訝に思って外を見ると、もう日が落ち、雨もしとしとと降っていた。そこから、どうやって僕の部屋に戻ったのかは覚えていない。
(あの2人も協力してくれないなんて...。)
(何をすれば良いんだろうか。)
足に力が入らず、体がフラッとして机に手をつくと、何かひんやりしたものが手にコツンと当たった。何だろうと思って薄暗い机の上をまさぐると、レミリエが誕生日にくれた首飾りだった。
(レミリエ...。)
(あぁ、どうすれば...。)
(もう、分からないよ。)
起きていても気持ちが落ち込むだけなので、もう夕食を食べずに寝ることにした。もちろん、食卓でレミリエと会ったら、肩身が狭い思いのも理由の一つだ。この際、寝たらどうにかなっていないかな...。
夢の中は薄暗かった。無限を思わせる空間、そこに響く少女の泣き声、泣き声が聞こえる方にどんなに走っても、その少女の影さえ見えなかった。
「ねぇ、君の名前は?」
「ねぇ、僕の声が聞こえる?」
彼女の泣き声に交じって、僕の声が虚空に響くだけだった。僕の声はどうやっても届かないのか...。次の瞬間、テレビの電源を切った時のように世界が真っ暗になった。そして、少しするとさっきまで暗闇だったところに景色が映し出された。
「ここは...ダンジョンか。」
「私は女神です。」
「女神...?」さっきから非現実的なことが起き過ぎて、この空間で何があっても驚かない気がした。
「はい、私は女神。そして、あなたに助言を伝えにきた者。」
「僕を転生させた女神?」
「はい、その通りです。」
「僕はどうすれば、この心の傷、いえレミリエと元に戻れるんでしょうか?」
「それは、簡単です。しかし、それ相応の危険、あなたが変わってしまうかもしれない、あなたが彼女の元に戻れないかもしれない危険を伴いますよ。」
「レミリエがいない世界なんて...。」
「分かりました、お教えしましょう。あなたが実戦するかしないかを決めてください。」
「もう決まっています。」ここで覚悟を決めなくて、いつ決めるんだろうか。もう僕は背水の陣だ。この機会を逃して、いつ機会が巡ってくるのか分からない。
「そうですか。まず、あなたは以前訪れたダンジョンに訪れ、35階まで潜る。すると、異質な魔物に出会うでしょう。それが今回の目標、いわば希望の原石です。それを倒し、ドロップアイテムの指輪と髪飾りを妹さんに渡せば良いでしょう。」
「うん、ありがとう。」
「いえ、お気になさらず。」
女神の声がスゥッと消えていった。いや、僕が遠ざかっていったのだろう。女神の声が完全に聞こえなくなると、目を覚ました。右手には三式AG、左手にはレミリエがくれた首飾りを握りしめていた。
(ダンジョンか...それも35階。)
「レオ様、おはようございます。」
「おはよう、ミア。」
「何か良い夢でも見られましたか?お顔が元に戻っているようなのですが。」
「まあ、ぼちぼちかな。ちょっと聞きたいことがあるんだけど良い?」
「はい。」
「ダンジョンにトライアルで行った時は、何を持っていったの?」
「急にどうなさったのですか?」少しきょとんとしていた。ここで怪しまれてしまったら、元も子もない。
「夢にトライアルが出てきて、少し気になったんだ。」
「そうですか。では、まず荷物からですね。絶対に必要なものは━━」
ミアの話を聞いていると、覚悟がより現実味を帯びて決まってきた。もう僕はこの流れに棹さすしかないのだろう。ここで逆走したら二度と、僕の好きなレミリエに会えない気がした。
レオはレミリエとの関係を修復できるのでしょうか?
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
もし面白いなと思っていただけたなら、評価もお願いします。
今後とも八咫烏をよろしくお願いします。




