49、女心とすれ違いと
僕がシアとミアのおみあげバトルを仲裁し、大企業との契約を勝ち取った気持ちで、鼻歌交じりに廊下を歩いていると、ふと懐かしい声が僕を呼んだ。
「レオ兄ちゃん!」
「ウィリアム君、セドリック君。」
「兄ちゃん、トラ何ちゃらはどうだった!」始めからトライアルに食い気味なのがセドリック君だ。相変わらず、元気があふれ出ている。
「トライアルだよ。まあ、楽しかったよ。色んな魔物を見れたし、色んな経験を積めたしで。」
「どんな魔物がいましたか?」しっかり自分の聞きたいことを明確にしてくれるのがウィリアム君だ。
「スライムからアイロンサウルスまで、たくさんの魔物がいたよ。それに、それぞれ属性や攻撃方法が違ったんだよ。」
「へぇ、僕たちも行ってみたいです。」
「ウィリアムが行く頃には、俺がこの町で最強になってるからな。」剣を抜いて、天井に向かって高く突き出した。相変わらず、剣先がぶれていなかった。
「じゃあ、セドリックが行く頃には、僕がこの町で一番の魔法師になってるね。」最近使えるようになった水属性魔法で作った水玉を、頭の上でクルクルと回し始めた。
「2人とも、頑張れよ。」
「レオ兄ちゃんは?」ウィリアム君とセドリック君が同時に聞いた。そのことに気付くと、パッと顔を赤らめ俯いてしまった。
「僕は、少なくとも2人が大きくなるまで、このグラント町を守ってみせるさ。もちろん、2人の目標を叶える手伝いもするよ。」
「俺は別に手伝って欲しいとか言ってないけど、兄ちゃんがそこまで言うなら手伝われてあげても良いぞ。」
まったく、セドリック君は素直じゃないな。本心が丸見えだし...。僕を見てきたウィリアム君も同じことを思ったらしく、僕と一緒になってフフフと笑い始めた。セドリック君は何がなんだか分からないようで、僕とウィリアム君を交互に見てきた。
仲良し2人組と別れて、廊下を歩いていると、ふいに背中に衝撃が走った。何かが背中にぶつかったのである。
(マズい、転ぶ!)
「『柔軟化Lv7』を付与。」転んでも痛くないように、僕の顔に近付きつつある絨毯に『柔軟化Lv7』を付与した。しかし、そんな付与が吸収できる衝撃なんて高が知れている。
ドシン
猛スピードで突っ込んできたダブルボアを転ばした時よりは、控えめな音だったが、今回音を出したのは僕である。倒れた時の衝撃を被ったのは僕である。ダメージを受けたのは僕である。
(まったく、何なんだよ!)
「お兄様!」
(あっ、この声は...。)
「何か、おっしゃってください!」
「じゃあ、僕の上からどいてもらえる?」
「私の質問に答えたら、考えてあげますわ。」
「重くて、息苦しいんだけど。このままだと、質問に答えられないよ。」さあ、これはどうだ。質問に答えて欲しいなら、僕の上から退くしかないだろう。
「...。」
(さあ、どうする。そこを退かなきゃ、質問に答えられないよ。)
いつも何かと口が達者だったから、初めて言い返すのを困らせることができた。ダンジョンの30階にも到達し、口喧嘩にも勝ち、もう何でもできるような気がしてきた。僕が優越感に浸っていると、突如としてしゃくり上げるような音が聞こえてきた。
「...。」
「レミリエ?」
「お、お兄様...。」
「どうしたの?」
「レオ兄様...。」
(あれ、何だか様子がおかしいぞ。)
とりあえずレミリエの様子を見るために、体をサッと回した。すると、僕の目には思いも寄らない光景が映り込んできた。
「こっち見ないでください!」
「レミリエ、な━━」
「泣いてなんていませんっ!」
僕が顔を見るなり、顔を横にそむけたが、それでもある程度の状況は理解できた。レミリエの華奢な肩は、何かを我慢しているかのように小刻みにプルプルと震えていた。それに、レミリエのきれいな紫色の髪の一部が輝いていた。そう、雨に濡れたかのように。
気持ちを精一杯押し殺しているレミリエの横顔を見つめていても、何の収拾もつかない。何が原因だったのか?何を言うのが正解なのか?何を言えば再び笑ってくれるのか?
「その...僕は。」
こういう時に限って、声が喉に詰まってしまう。考えれば考える程、底なし沼にハマったかのように、ズルズルと終わりのない迷路にハマってしまう。一瞬僕の方を向きかけたレミリエも、再びうつむいて肩を震わせていた。
(あぁ、どうすれば...。)
「お兄様...。」
「その、さっきは━━」
「お兄様...私は...。」
「レミリエ?」
「私はお兄様のことが......だったのに、酷いです!私がお兄様のことをどう思っていたか分からないでしょう?私はこんなにも強く思っていたのに!それなのに...それなのに...。」一段とレミリエの肩が震えだし、息も途切れ途切れになっていた。
「ゴメン、僕はレミリエを傷付ける━━」
「もう黙っていてください!私は...私はお兄様に謝って欲しいんじゃありません!お兄様の気持ちは十分に伝わっています。ただ、私は久しぶりに会ったお兄様に、ただそっと......して欲しかっただけなのに。それなのにお兄様は、お兄様は...。」
(僕が間違ったことだけは分かる...。こういう時は、頭をポンポンとすれば問題ないはず...。)
「やめてください!今されても、私が悲しくなるだけです。お兄様は相変わらず、私の気持ちなんか興味も無いんでしょう?私はただのうるさい妹...ただ自分勝手な妹なんです!でも、それでも、私はお兄様を...。」
「レミリエ!」
最後まで言い切る前に、気持ちが最高潮まで到達してしまい、そのまま走り去ってしまった。残ったのは、レミリエを、大切な妹を傷付けてしまった罪悪感と後悔だけだった。僕はボーッとレミリエがさっきまで座っていた濡れた絨毯を、ただ漫然と眺めることしかできなかった。
レオとレミリエの関係はどうなってしまうのでしょうか?
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
もし面白いなと思っていただけたなら、評価もお願いします。
今後とも八咫烏をよろしくお願いします。




