37、日常と変化と
領主会合があったリスター市(リンクス公爵領の中心地)から北東に進んだ。馬車の窓から見える風景に、丸みを帯びた物が増えていった。腰を丸くした木、角ばっていない家、原っぱで飛び跳ねるスライム。都会で色々あったことも重なり、行きの時に増して心が和む。
僕がよく魔物討伐をしていた丘を通り過ぎると、家はもうすぐだ。ここからでも、馬車の知らせを聞いた母さんが、玄関に出てきたのが見える気がする。
「ただいま!」
「おかえりなさい、レオ、あなた。」
「ただいま、オルガ。」
「食卓に夕食が出てますよ。例えば、あなたの大好きな━━」
「いや、言わなくて良いんだ。何があるのか楽しみにしておきたいし、俺には何を作ったのかくらい想像が付くから。」
「着替えたら、冷めないうちに来てくださいね。」
「ああ、毎度毎度ゆっくりだと、料理だけじゃなく、オルガからの愛も冷めてしまいそうだからな。」
こんな時は、父さんと母さんをおいて部屋に戻るのが、最善策だろう。子はかすがいと言うが、うちの両親はすでに蜘蛛の糸でベッタリと張り付いているようだ。
翌朝から、魔物討伐をすることにした。都会のリスター市では、魔物と戦って魔力を使えなかったため、何だかムズムズする。おかげで、服を2回も着直した。
「レオ兄様、急がないと遅刻しますよ。」
「分かってるよ。」
「先生に失礼ですよ。」
そんな風にド正論をぶつけてくるのが、妹のレミリエだ。早生まれだから、もう3歳になっている。それにしても、時の流れるのは早い。大量発生が起きた時は、まだ赤ん坊だったのに。
「人の顔をジッと見てないで、早く用意してくださいっ。」
(どこから遺伝子を持って来たんだか...。)
「着替え終わったなら、持ち物の確認をする!」
「うん。」
「それが終わったら、身だしなみを整えて!」
「分かってる、分かってる。」妹のレミリエに聞こえないように、ブツブツと呟く。
(やっと、終わった。)
「お兄様...。」
レミリエが体を寄せて来た。これは、どこで覚えたのか分からないが、頭をポンポンして欲しいらしい。これを忘れると、僕への当たりが一層強くなる...。
「あと、今日も可愛いよ。」
「...ありがとう。」手を後ろに回して、ワンピースをユサユサと揺らしている。
「寝癖が。」
「お兄様!」さっきまで赤かった顔が、別の赤に染まった気がした。
「どうした?」
「男性というのはですね、女性に対してそういう接し方をするべきではありません。特に、私のようなレディーには。それに寝癖が可愛いっていうのは皮肉ですか?そんな恥ずかしいこと言わないでくださいよ。」
(あ、恥ずかしかったのね...。)
「今、他の事を考えたでしょう!そんなことをしているから、まだ女性の気持ちが分からないんですよ。そんなんじゃ、一生結婚できませんよ。まあ、私が世話をしてあげるから良いんだけど...。しっかりと理解してもらわないと、困りますよ!」
(うーん、何だかよく分かんないな...。)
「お兄様...!」
「ん?」
「口直しです!」
「はいはい。」
もう1回、レミリエの頭をポンポンしてから部屋を出た。廊下の時計から鳩が出てきて、そいつも僕を叱っている気がした。もう遅刻だよ、完全に。
家の庭に出ると、パシャンッと頭上で何かが破裂した音が聞こえた。次の瞬間には、水が降ってきて、何も聞こえなくなったが。
「レオ兄ちゃん、遅いよ。」
「そうそう、待ちくたびれたよ。」
「ごめん、ごめん。家を出る時に、ちょっと色々あってね。」
「ウィリアム様もセドリック様も、レオ様にしっかり誤ってくださいね。」
「レオ兄ちゃん、ごめんね。」しっかりと、僕の目を見て謝っているのがウィリアム君。
「その悪かったな。...でも、遅れたレオ兄ちゃんも悪いんだからな!」何だか、居心地が悪そうにしながら誤っているのがセドリック君。
「分かってるよ。いつか、埋め合わせを持って来るよ。」
「では、始めます。」
僕たち3人が今しているのは、仮の塾みたいなこと(通称:家塾)である。貴族や金持ちは、9歳になってから始まる学校生活(一部では、訓練とも)に耐えられるように、6歳前後から家庭教師をつけるのが一般的らしい。まあ、うちには、すでに優秀なメイドが2人いるので、わざわざ家庭教師を呼はなかったが。
ついでに、フィリップさん(財務係)の子供がウィリアム君。セオドアさん(軍務係)の子供がセドリック君。2人とも、親の生き写しのような子供で、父さんの気持ちがよく分かって、中々に面白い。
(第2話、中ほどにちょっとした図があります。)
「今日は、ダンジョンに行こうと思います。もちろん、ご両親に確認は取ってあります。」
「棚からお皿」のように少し沈むウィリアム君と、「棚から百万円」のように喜ぶセドリック君。2人の性格が正反対で面白い。もちろん、僕はカビの生えていない普通のぼた餅で十分だが。
「はい、落ち着いてください。」
「では、ダンジョンに向けて出発します。」
「ダンジョン内での注意事項は、道中でお話しします。」
「まず、ダンジョン内はとても広いので、勝手にどこかに行かないこと。」
「そして、魔法は他の人に当たらないようにすること。」
「他の人が戦っているのを邪魔しないこと。」
「しっかり、自分の体力と魔力を確認しながら、探索すること。」
まだまだ続くが、真面目に聞いていては体がもたないので、景色を楽しむことにした。シアとミアのホースロンが早すぎて、たくさんの線しか見えなかったが。
さて、ダンジョンとは一体どのような場所なのでしょうか?
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあれば感想で教えていただけると助かります。
もし面白いなと思っていただけたなら、評価もお願いします。
今後とも八咫烏をよろしくお願いします。




