1、女神様と転生と
「君ッ、しっかりしてくれないと困るよ!」
「すみません、課長。次から気を付けます。」
「次からじゃないよ。今からだよ!」
「はい、分かりました。」
「うちの会社のモットー覚えてる?」
「『働かざる者休むべからず』ですよね。」
「そう。だから、君は24時まで残っていきなさい。」
「...っ。」
「返事は?」
「はい。」
僕はプログラマーに憧れていた。そう、いたである。プログラマーの求人広告を見て、入社してみると、僕が思い描いていたような会社ではなく、ただのブラック企業だった。
ただパソコンのキーボードを打つ音だけが聞こえる。 カタカタカタカタ
(ああ、今日見たい深夜アニメに間に合わないよ...。あれ、何か熱いな。)
僕のパソコンはドンドン熱くなっていった。始めはただ発熱しているだけだと思っていたが、明らかにおかしい。少しすると、もうパソコンには触れられないくらい熱くなっていた。
(これはマズいな。)
僕が気付いた時には、もう遅かった。ドーンという音とともに、視界が暗くなっていった。
(今日が深夜アニメの最終回だったのに...。)
「あのー、大丈夫ですか?」
(誰かが呼んでいるのか...まさかな。)
「もしもし、起きていだだけませんか?」
(またか...。)
「起きてください!」
「え。」
僕がゆっくり目を開けていくと、可愛い女の人が立っていた。そう、まるでアニメに出てくる女神のような。
「大丈夫ですか?」
「とりあえず生きているみたいなので、大丈夫だと思いますよ。」
「あなたはもう死んでいますよ。私のミスのせいですが...。あ、遅くなりましたが、私は女神です。」
「女神様でしたか。死んでいるなら、大丈夫かなんて関係ないですよね。それで、あなたのミスとは何ですか?」
「...その...えーと、何と言いますか...。」
女神様は急に言葉を詰まらせた。何か言えない事情があるのかは分からないが、言えないなら言えないと言う、言えるなら早く言ってほしい。僕ははっきりしないものが嫌いである。
「すみませんでした!」
「突然謝られても困るんですが。」
「あ、そうでしたね。あなたの使っていた道具が気になって、魔力を流してみたら、あんなことになってしまいました。本当に何とお詫びを言っていいのか。」
「道具って、折れ曲がっていて光っていた板、つまりパソコンのことですか?」
「はい、そんな感じの板でした。その名前は分かりませんが。」
「失礼ですが、女神様なのに、パソコンも知らないんですか?」
「初の女神としての仕事でしたし、地球には来たばかりでしたので...。本当にすみませんでした。」
すると、女神様はどこからか本を取り出して、読み始めた。題名は『女神マニュアル』である。本当に素人の女神様だったのだなあ。それにしても、素人っぽさが丸出しである。
「女神法第77条に基づき、あなたを転生させることにします。よろしいでしょうか?」
「はい、問題ありません。」
「成りたい職業はありますか?」
「一番プログラマーに近い仕事でお願いします。あ、プログラマーとは、既に存在するものに対して、機能を付与したり、変更したりする職業ですよ。」
「分かりました。それでは、一番近いと思われる職業の『付与術師』にします。それでは、新しい人生を楽しんできてください。」
気付くと、僕は暗闇の中にいた。体を動かそうとしても、上手く動かない。それに、動かそうとする度に、何やら笑い声が聞こえてくる。
「オリ・・・ルガ・・・どう・・・」
「・・・う少し・・・赤ちゃ・・・ルガ・・・」
「はい、そ・・・お腹・・・赤ちゃ・・・元気・・・」
「・・・良い・・・俺・・・んだが・・・」
(全く何を言っているのか分からない...。僕が持っていたラジオより酷いんじゃないか?それに、ここはどこだよ。)
所々しか聞こえないが、それらをまとめて考えると、僕が赤ちゃんで、まだお母さんのお腹にいるということが分かった。
お腹の中にいるのもそろそろ飽きてきた頃、頭の方から一筋の光が漏れてきた。やっと、出産である。
「お、元気な男の子だな。」
「はい。旦那様にそっくりですね。それで、お名前はどういたしますか?」
「それは前からオルガと話して決めてある。レオだ。レオ・マングスターだ。男の子なら、いっぱい遊べそうだな。剣術とか、馬術とか、勉学とか。」
「あなた、レオはまだ赤ちゃんですからね。無理をさせないでくださいね。」
「分かってる、分かってる。俺は幸せ者だなー。」
(何か、良さげな雰囲気で安心したー。父さんはイケメン、母さんは美人、これで第一の心配は解消したな。おっと、そろそろ産声を上げないと、息が出来なくなるな。)
おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー
「元気な産声で安心したな、オリヴァー。」
「ああ、そうだな、フィリップ。ところで、セオドアはどうしたんだ?」
「セオドアはいつも通り素振りだと思うよ。それより、セオドアなんかに見せたら、レオ君がただの筋肉馬鹿になってしまうよ。」
「お前に見せたら、勉強馬鹿だけどな。」
「オリヴァーに見せたら、女好きになりますね。」
「間違いないな。ハハハハハ。」
「あなたたち、赤ちゃんの前でみっともないことをしないでくださいね。ほら、あなたは稽古、フィリップは仕事があるでしょう?」
「ああ、分かってるよ。また来るね、オルガ」
さて、第1話が始まりました。読者の皆様に楽しんでもらえるように、頑張っていきます。
まだ初心者で改善点があると思うので、なにかあればアドバイスしていただけると助かります。
もし面白いなと思っていただけたなら、評価もお願いします。
今後とも八咫烏をよろしくお願いします。