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「お仕事中にごめんなさい。ただ、見ていたいだけなの。私はいないと思ってくださいね」



キッチンスタッフにそう言って、カレニナは隅の方に立った。



「お椅子をお持ちしますね」



エミリーが声をかけたが、



「ううん、大丈夫。

立ったまま見ていたいの」



カレニナは断った。



そうしてる間も、料理人たちは仕上げにかかっていた。


焼き上がったばかりの パンの香りが、食欲をそそる。


あっという間に、デザート以外の料理が整った。



「奥様、旦那様がいらっしゃいました」



エミリーに言われてカレニナはキッチンを飛び出し、ダイニングへ急ぐ。



「おはようございます、ローラン様」



「おはよう、カレニナ。

よく休めたかい?」



高い天井の明かり取り窓から差し込む陽の光を受けて、ローランの銀髪が輝いている。



「ローラン様から放たれる光で目が覚めました」



「ん?」



ローランは特に反応せず。


後ろに控えている執事のピーターは、口角を上げて柔らかく微笑んだ。



…奥様だって金髪が輝いているのに、ご自分のことは気づかないのね…



エミリーが心の中で呟く。



「カレニナ、朝食は別のところで食べるんだ」



「は…い?」



ローランはカレニナの手首を掴むと、廊下を歩きだした。



「朝はね、陽の光を浴びると体も頭も起きるそうだ。

だから、こっちの部屋が朝食用のダイニングになっている」



庭に面した壁の、上半分が窓になっており、さらに天井の明かり取り窓も部屋全体を明るくしていた。



先ほど見ていた料理が運ばれてくる。



「さぁ、掛けて」



ふたりが席に着くと、焼きたてのパンの香りとともに、卵料理やスープが並ぶ。



急に空腹を感じ、カレニナは黙々と食べ続けた。




食後、サロンでお茶を飲みながら、ローランが話し出す。



「ゆっくりしたいところだが、仕事が立て込んでいてね。

すまないが、昼は一緒に食事ができない」



申し訳なさそうに言った。



「どうぞお気になさらないでください。私は大丈夫ですから」



カレニナが言うと、



「まさか、カレニナの噂を気にして、私と距離を置こうなどと考えていないだろうな?」



「そ、それは…」



図星だった。



「よいか、カレニナ。

結婚式のときも、邸に戻ってからも、今のようにふたりでいることは何度もあった。

でも、私はかすり傷ひとつ作ってはいない。

昨夜も言ったが、何も気にすることはないだろう?」



「はい…」



そこでカレニナは、エミリーやピーターの居場所を確認して口を開いた。



「昨夜、閨を共にしなかったのは、それが理由ではないのですか?」



頬を染めながらカレニナが囁くように尋ねる。



「!…」



ローランが一瞬目を丸くして背筋を伸ばしたが、すぐに微笑みを浮かべた。



「そうではない。

昨夜カレニナは疲れていた。だからゆっくり休ませたかっただけだ」



「そうだったのですね…


私、エスコートしてくださる方が何人もお怪我をされて、申し訳なくて自分を責めていました。

だから、私にお誘いが来なくなったとき、寂しかったけど正直ホッとしたんです。

お慕いしていた方はおりませんでしたが、それでも、私に声をかけてくださった方を傷つけたくはありませんから」



「そんなに自分を責めるな。

私を気遣う必要もない。

さっきも君の手を引いて歩いたが、何もなかったではないか」



「そうですが…」



「もしかして閨も共にしたくないと思っていたのか?」



「どうしたら良いのかと考えておりました」



カレニナは眉を下げて俯いた。

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