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「今度はどんなひどい人間にして、新しい噂を流そうかと考えていたときに、陛下からの命が届いた」
「クスッ。新しい噂も聞いてみたかったです」
カレニナがおかしそうに微笑んだ。
「『女嫌い』で効果がないなら、『男が好き』とか『変な趣味がある』とか、趣向を変えてみようかと思ったりしたが、ピーターに『それではさらに申込みが来るようになりますよ』と言われて考え直した。」
「クスクスッ。
それはその通りですね。
ローラン様、おもしろすぎます」
そう言われてローランも笑いだし、ふたりは声を出して笑ってしまった。
「きっと、ローラン様のように超越した美しさは、媚薬のように周りの人を惑わせてしまうのかもしれませんね。
もっとも、ローラン様が不愉快になるような行いは、決して許されることではありませんけれど」
カレニナが唇をキュッと引き締めて頷いた。
「クスッ。陛下には感謝だな」
「なんのことでしょう?」
「いや、こっちの話だ」
ティーカップが空になったのも気づかず話していたら、執事のピーターが声をかけた。
「温かいお茶を淹れ直して参りましょうか?」
そう言われて、ずいぶん長く話していたことに気づいた。
「あぁ、いや、もうそろそろ部屋に引き上げるとしよう。カレニナもゆっくり休むといい」
「はい。
では、おやすみなさいませ」
「あぁ、おやすみ」
廊下に出ると、控えているエミリーの笑顔があった。
「長く待たせてしまってごめんね」
「いいえ。旦那様とご一緒にお過ごしになる時間は、長ければ長いほど使用人には嬉しいのです」
「そうなの?」
「はい。仲良しご夫婦のお邸はあたたかいですから」
エミリーの言葉が、ちょっぴりくすぐったかった。
カレニナは部屋に戻り、入浴を終えると、1日の疲れがどっと押し寄せた。
エミリーが髪をとかしている間も、瞼が重くなってくる。
「奥様、どうぞお休みください」
「ありがとう、エミリー」
カレニナはベッドに横たわると、瞬時に眠りについた。
「こちらのベッドでよかったのかしら…」
エミリーの呟きにも、カレニナは気づかなかった。
翌朝
「おはようございます、奥様」
横になったまま微睡んでいたカレニナは、エミリーの声で半身を起こした。
「よくお休みになれましたか?」
「えぇ、ぐっすりねむれ…
…えっ?」
カレニナは、自分の夜着を見て目を丸くする。
薄手の素材で、レースがあしらわれている部分以外は、かすかに肌が透けていた。
「なんか…すごく艶っぽいわね…」
言った瞬間、ハッとした。
…そっか。初夜だったのよね…
「はい。肌触り抜群ですよね?それに、いつもの奥様より艶かしく見えます…ふふふっ」
「エ、エミリー、からかわないで」
慌ててベッドからでると、急ぎの用事もないのにエミリーを急かせて身支度を整えた。
「お食事の時間になりましたら、お声がけいたします」
「待って。私も一緒にいいかしら?キッチンを見てみたいの」
「はい、それは構いませんが、何か気になることでも?」
「ううん、そうじゃないの。お料理しているところが見たいの」
エミリーに案内されて、カレニナはキッチンに向かった。