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念入りなお手入れのおかげか、結婚式当日のカレニナは美しかった。
もちろん、ローランの麗しい姿には、招待客だけでなく、母も姉も頬を染めてしまったが、隣に立つカレニナも輝いていた。
教会には、カレニナの家族とローランの叔父夫妻、お互いの知人が立ち会い、滞りなく挙式が執り行われた。
挙式後、
ウエルト邸に向かう馬車の中で、
「まだ、言ってなかったな。
とても綺麗だ、カレニナ」
ローランが微笑みながらカレニナを見つめる。
「私も言ってなかったですが、公爵様、素敵すぎです。」
「はははっ、カレニナはおもしろい。
それと、公爵様はやめてくれ。
名前で呼んでほしい」
「お名前でお呼びしてもよろしいのですか?」
「もちろんだ。なぜ?」
「あまり親しそうにしてはご迷惑かと…」
「夫婦なのに?」
「そう…ですね。
では…
ローラン様」
カレニナは頬を染めた。
ウエルト邸に着くと、すべての使用人が並んで待っていた。
「おめでとうございます」
使用人の前を通るたびに声をかけられ、カレニナはなんだか照れくさくなった。
「疲れただろう?夕食までゆっくりするといい」
ローランはそう言って
侍女を紹介した。
「彼女はエミリー。カレニナの侍女だ」
「よろしくお願いいたします、奥様」
「よ、よろしくね、エミリー」
「それではお部屋までご案内いたします」
エミリーが促すと、カレニナはローランを見ながら頷き、部屋へと向かった。
挙式で着ていたドレスを着替え、淹れてくれたお茶を飲みながら、改めて部屋を見渡す。
「素敵なお部屋ね」
「気に入っていただけて良かったです」
カレニナと同じ年くらいのエミリーが、頬を染めて微笑んだ。
「あの扉は…」
「はい、続き部屋になります」
…そうよね、夫婦だもの…
カレニナは急にドキドキしてきた。
「髪を整えますね」
カレニナはドレッサーの椅子に座り、鏡越しに自分を見た。
…人生で今日がいちばん綺麗だと思うけど、ローラン様の隣では霞むわ…
「エミリー、ローラン様のご両親も美形だったの?」
「旦那様のご両親様は、ずいぶん前にお亡くなりになられたので、実際にお会いしたことはありませんが、肖像画のご両親様は美しかったです」
「ローラン様のあの麗しいお姿は、ご両親譲りなのね」
「ローラン様は別格です。
ただ、その美しさが、旦那様をどれほど不愉快にしたかわかりません」
「どういうこと?」
「旦那様は噂で女性嫌いとか冷血漢とか言われていますが…
近づいてくる下心見え見えの女性達に辟易して、あえてひどい態度であしらったそうです」
「そうだったのね。
あの容姿は神の恵みみたいに思っていたけど、ローラン様にとっては、近づいてくる人の嫌な面を見せられて辛かったのでしょうね」
カレニナが伏し目がちに言うと
「できました」
とエミリーの手が止まった。
鏡を見ると、編み込まれた金髪が片方の肩先にキレイにまとめられていた。
「奥様は旦那様の容姿は神の恵みだとおっしゃいましたが、私から見たら、奥様も神の恵みを充分に受けていらっしゃると思います」
「えっ?」
「こんなにお美しいのですから」
エミリーに鏡越しに言われて、カレニナは頬を染めた。