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公爵邸に初めて訪問した日以降、
何度か招かれて結婚の準備を進めた。
離婚云々については、特に答えは出ていないのだけれど。
最近、カレニナは思っていた。
…公爵様の噂は事実ではないわ…
と。
まず、初めて対面したときから、ローランはカレニナに対して嫌悪感を抱いていない。
女性嫌いなら、もっと態度や口調にでるはず。
それに、使用人たちとの接し方や、使用人たちの公爵様への視線。
潔癖症や冷血であれば、使用人達がもっとびくびくしているはず。でも、みんな穏やかで、公爵様を尊敬している。
関係性も良好に見えた。
間違いなく、あの噂は噂でしかない。
となると、そんな噂が出たのはなぜなのかが疑問である。
もしかしたら、カレニナとの結婚で、また違う噂が出てくるかもしれないと、ローランを気の毒に思った。
貴族の噂好きは、留まることを知らないから。
ただ、カレニナの噂については本人も自覚があることから、婚約期間中もローランとのふれ合いは避けた。
カレニナの母クラウディアは、結婚式に向けて、カレニナの髪やお肌のケアに余念がない。
それは、あまりにもローランの容姿が輝いているからである。
カレニナの金髪と青い瞳は、母の贔屓目でなくても美しいと思う。
でも、あのローランの麗しい姿は反則だ。
隣に立つわが娘が気の毒だとひそかに思っていた。
『せめて結婚式の日だけでも釣り合いがとれるように』
晴れの日を控えた、切実な親心だ。
でも、当の本人は呑気なもので、美容より剣術に時間を割いている。
というのも、
亡くなった前公爵が、ダニエルに剣術を教えるときに、カレニナも鍛練の場に加えてしまったからだ。
カレニナとダニエルは年子で、何をするにも競うように同じことをしていたので、カレニナは自分の身を守るくらいは剣を扱える。
実は、淑女と名高い姉のフレリアよりもカレニナは器用で、刺繍もかなりの腕前なのだが、これに対抗心を燃やしたダニエルが、刺繍を始めたいと言ったときは母の猛反対を受けた。
カレニナの剣の腕が上がるたびに母は眉をひそめていたが、人前で剣を振るわないという約束で目を瞑った。
庭でカレニナとダニエルが剣を交えているのを、明日の結婚式のために実家に戻っている姉のフレリアが、
「お母さま、あれでいいのかしら…」
呆れ顔で見ていた。