18
「カレニナは、剣術のことを知られるのが恥ずかしいのか?」
ローランに尋ねられて、一瞬考えてから、
「いいえ」
カレニナははっきりそう答えた。
「たしかに、お母様やお姉様からは『貴族の娘が剣術など、はしたない』と言われていましたが、私はそう思ったことはありません」
「カレニナがそう思っているなら大丈夫だな」
ローランが微笑む。
「ですが…」
カレニナがふたたび表情を曇らせる。
「実家にいたときと今では、状況が違います。
私はローラン様の妻で、公爵家の女主人です。そんな私が、淑女らしからぬ振る舞いをしたことが知られたら、ローラン様にご迷惑をおかけしてしまいます」
今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまったカレニナを、ローランが抱き寄せた。
「前にも言ったが、剣術ができることは素晴らしいことだ。それが淑女らしくないというなら、それでよい。
迷惑だなんて、そんなことは気にするな」
「でも…」
「カレニナ、私の気に入らないところはどこだ?どんな些細なことでもいいから、改めてほしいところがあったら、言ってみてくれないか」
抱いていた腕をほどき、突然ローランが言うと、
「ローラン様の嫌なところなんてありません!」
カレニナは強く否定した。
「私が一緒でなければ外出できないとか、庭をひとりで散歩もできないとか、私をうるさいと感じることもあるだろう?」
「いいえ。
私はローラン様のお気持ちが嬉しいのです。私を心配してくださっていることがわかりますから」
強く否定したカレニナに、
「きっと世の中のご夫人の中には、そんなことをされたら嫌だと思う人もいるはずだ。
でもカレニナは、私が君を思ってそう言っていることまで考えて、ありがたいと言ってくれる。
私もそれと同じだ。
世の中には、夫の言うことに大人しく従うのが、淑女であり妻の役目だと思っている男もいるだろう。でも私は違う。どんなことをしても、何を言っても、それがカレニナだ。私はそのすべてを愛しいと思えるんだ」
「ローラン様…」
「誰に何を言われても何も気にならない。私にはカレニナだけだ。
君が傍にいてくれることが、私の幸せなんだ」
今度は、カレニナがローランに抱きついた。
突然のことにローランは驚いたが、すぐに笑顔になって強く抱き締めた。
「君から抱き締めてくれるなんて、こんなにも嬉しいものなんだな」
ローランに抱きつきながら、
「ローラン様が大好きです。ずっとお傍においてください」
「あぁ、カレニナ…」
ローランがカレニナの瞳を見つめて、ほんのり赤く染まった柔らかな頬に口づけた。
立ち上がってカレニナを抱き上げたローランは、ベッドの真ん中にカレニナを下ろすと、
「愛している」
そう言ったあと、
カレニナの小さな唇に何度も何度も口づけ、ひとときも放すことなく、情熱の中に誘った。