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男と侍女役の女は、

プリメーラ・ドレナーに金で雇われていた。



「いいこと?ローラン様とあの女が離れたら、誘いだしなさい。

そして部屋に入った後は、好きなようにかわいがっておやりなさい。社交の場で汚された妻など、捨てられるのも時間の問題ね」



プリメーラは、ローランを諦められず、カレニナを辱しめようと企んだ。


侍女役から合図をもらったら、適当な理由をつけて、ローランをはじめ、顔見知りの令嬢たち多数を引き連れて、辱しめを受けたカレニナがいる部屋に乗り込む計画だった。



ところが、侍女役の合図があったのと、ローランとダニエルが動き出したのが同時だった。


カレニナが女に付いて行ったすぐあとに、ローランがダニエルたちのところに戻ったので、ローランがカレニナを探しているのではないことがわかり、何かあったのではと、即座に動いたのだ。



計画より早く、ローランとダニエルが部屋に乗り込んだものの、今頃は、辱しめを受けた妻の姿に、ローランが逆上しているだろうと、部屋に近づくことなくプリメーラは思っていた。



…あの男、逃げ出したかしら…。まさか私の名前を言ったりしないわよね、あれだけ大金を積んだのだから。いっそのこと、ローラン様の手に落ちればいいのに…


プリメーラの思考は、ますます危険を帯びてくる。



控え室の騒ぎに気付いた招待客も、野次馬的に部屋の外に集まり出す。



「怪我人が出たか…?」


「中にいるのは誰だ?ウエルト侯爵夫人なのか?」


「警護団が来ているぞ」



野次馬たちの声に、部屋の中の様子を想像しながら、プリメーラは野次馬の間を歩いた。



「まぁ、どうなさいましたの?」



素知らぬふりをして、控え室を覗いたプリメーラは、ローランに抱き締められてソファに座るカレニナと、部屋の奥で、警護団と話をしているダニエルの姿を捉えた。



…これはどういう状況かしら?

あの男はどこ?

きっとうまく逃げたのね。

でも、あの女の身なりが乱れていないわ。

失敗したのかしら…



プリメーラが、その場の状況から事の次第を推測していると、



「プリメーラ嬢、少しお話を聞かせていただきたい」



警護団の団長らしき人物が、プリメーラに言った。



「わ、私になにを?」



急な問いかけに、プリメーラは動揺した。



「先ほど、この部屋でウエルト公爵夫人が襲われました。」



「まぁ!その男はウエルト公爵夫人になんて汚らわしいことを!夫人が辱しめを受けて、公爵様もお気の毒ですわ」



プリメーラは野次馬に聞こえるように、大袈裟な声を上げた。


野次馬たちもざわついている。


と、そのとき、



「私は『公爵夫人が襲われた』と申し上げただけで、辱しめを受けたなどとは申しておりませんが…」



「えっ…」



プリメーラの顔が一瞬強張った。



「男に襲われたと言えば、そう思うのが当然ではないですか?」



開き直るプリメーラに、



「なぜ『男』と断定するのですか?私は男女についても何も申し上げてはおりません。


何かご存知なのでは?」



「わ、私は何も存じ上げませんわ!」



プリメーラが必死の形相で訴える。



「実は、犯人があなたの指示によるものだと供述しておるのです」



「……」



「公爵夫人をこの部屋に案内した女も、すでに捕えております。

これ以上の言い逃れは無理だと思いますが…?」



警護団の強い圧力に、プリメーラは体をわなわな震わせて、唇を噛み締めながら俯いた。



「詳しくお話を伺いますのでご同行願います」



警護団長に促されて、両側から二人の警護団員に腕を掴まれながら、プリメーラは連行されていった。





「はぁ…

カレニナに怪我がなくて、本当に良かった」



王宮のパーティーから戻り、寝室でふたりきりになると、ベッドの端に腰かけているローランがカレニナを強く抱き締めた。



「…怖かった…です」



カレニナがローランにしがみついた。



「まったく、あの女は何てことをしてくれたんだ!

警護団の手前、女だから我慢していたが、やっぱり強く叱責するべきだった」



「ローラン様…

ありがとうございます。

そうやって、私のために怒ってくださってありがたいです」



怒りの表情になっても美しいのだなぁと、こんなときでもカレニナはローランを見ていた。



「あぁ、カレニナ。

命が縮んだよ。


それにしても、今回は君が剣の使い手で本当に良かった。

犯人も、まさか公爵夫人が剣を扱うとは思わなかっただろう」



「はい。

あのときばかりは、父や弟と実践さながらに剣を交えたことに感謝しました」



「自分の身を守れるのは素晴らしい。だがもう二度と、あのようなことが起きないよう、君の傍から離れないと誓う」



「ローラン様…」



ローランがカレニナの両頬を包み込むと、



「誰にも触れさせない」



そう言って、熱い口づけを落とした。



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