13
ローランとの穏やかな日常が過ぎていき、王宮でのパーティー当日になった。
国を挙げてのお祭りの日とあって、朝から市中の賑わいを感じる。
いつものように、ローランの腕の中で目覚めたカレニナは、
いつものように、ローランの美しい寝顔を見つめた。
…毎日見ているお顔なのに、どれだけ見ていても飽きない美しさ。
これはもう、国宝級ね…
「穴が空く」
突然ローランが囁き、
「ひゃっ」
カレニナが声を上げた。
長い睫毛が弧を描くように、ローランがゆっくり瞼を開けた。
緑の瞳が青い瞳を見つめ返す。
「おはよう」
「お、おはようございます」
「あまり見つめるな。その美しい青い瞳で見つめられると、冷静でいられなくなる」
そう言って、カレニナの首筋に顔を埋めた。
「ロ、ローラン様!?」
抱き締めていたはずの腕がほどかれ、ローランの手のひらが、カレニナの腰の稜線を辿る。
ローランは、カレニナの首筋から頬にかけて、音をたてながらキスの雨を降らし、最後に小さなかわいい唇を奪った。
「はぁ…。
手放せなくなりそうだ」
艶を帯びた美しいローランが、名残惜しそうに腕の力を緩めた。
「そのお顔、ダメです」
頬を染めたカレニナが、小さな抗議の声を上げた。
「それは私のセリフだ。
そんな顔をされたら、寝室から出られなくなりそうだ」
仕方なく起き上がると、ローランが名残惜しそうに、続き部屋の自室に姿を消した。
朝食をすませると、ローランは午前中だけ仕事をすると言って、執務室に向かった。
カレニナは、エミリーをはじめ他の侍女たちと、パーティーの身支度の打ち合わせ。
若い女性が数名集まれば、その場はさながら女子会と化す。
話題の中心は、やはりローランの麗しい姿。
毎日、あの美しさを目にしながら仕事ができる自分達は、世界一幸せな使用人だと、頬を染めている。
その隣にカレニナが立つと、完璧な美男美女カップルになって、絵画のようだと褒められて、カレニナは居心地が悪くなった。
時折笑い声を上げながら、賑やかに時間は過ぎていき、パーティーでの装いも決まった。
「そろそろ、昼食でしょうか?
今日は少し早目にご用意すると、デイブさんが言っていました」
「そうなのね。
あまりたくさんいただいて、体が重くて上手くダンスができなかったら、ローラン様の足を踏んだりして大怪我をさせてしまうわね」
「奥様ったら。
ご心配なさらずとも大丈夫です。
旦那様はお強いですから」
ふたたび、ローランの称賛合戦になりそうだったが、
「下心見え見えのご令嬢たちに囲まれてしまったときは、流石の旦那様も揉みくちゃになって、装いが乱れてしまったと聞きました。
あの勢いには、屈強な男でも抗えないと、周りの方たちも同情されていたそうですよ」
「そうだったのね」
…ローラン様自ら、あんな噂を流すほどに、嫌な思いをされたのね…
カレニナは、その様子を想像して表情を歪めた。
「特にしつこく纏わりついていたのが、ドレナー侯爵家のプリメーラ様です。
奥様、このお方…ちょっと…」
「なに?」
「おやさしくない…と言いますか…」
「ちょっと難ありなのね」
「はい。
奥様が不快になられないといいのですが…」
「心配してくれてありがとう。気をつけるわ」
笑顔でそう言ったカレニナの心に、小さな不安が浮かんだ。