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眠りの出口を抜けて、意識が少しずつ覚醒してくる。


顔にかかる髪を払いのける指を感じて瞼を開くと、緑色の瞳が見つめていた。



「おはよう」



やさしく囁くローラン。



「おはようございます…」



昨夜の記憶がよみがえり、最後のほうは消え入りそうな声になる。



「クスッ。

からだは大丈夫か?」



「はい…」



「今日は無理をせず、ゆっくり休むといい」



「…ありがとうございます。

でも、大丈夫です」



「そうか」



恥ずかしさで頬を染めるカレニナを、ローランが愛しそうに見つめた。





その日以降、

ローランと寝室を共にするようになってからというもの、自分を女性として意識するような、そんな不思議な感覚がカレニナに芽生えていた。


剣術より刺繍のほうに気持ちが傾き、ときにはキッチンで料理をする…

カレニナの日常は穏やかに過ぎていった。



そんなある日、カレニナはローランに呼ばれて執務室に向かった。



「ローラン様」



執事のピーターに伴われて入室した。


両手には、綺麗に刺繍された白い布がかかったトレイがのっている。



「それは?」



ローランの問いに、



「ちょうどお菓子を焼いていたのです。

ひと息入れませんか?」



「ああ、いただこう」



カレニナに続いてワゴンを押してきたエミリーが、執務室の真ん中にある、大きなローテーブルにお茶を用意した。


カレニナがソファに座り、トレイにかかった布をとると、焼き菓子の甘い香りが広がる。



「うん、うまい」



カレニナの隣に座って菓子を口にしたローランが、表情を綻ばせた。



「よかった、喜んでいただけて」



「私どもにも頂戴しておりますので、ありがたくいただいて参ります」



そう言ってピーターがエミリーに頷くと、ふたりは執務室から出て行った。



「気を利かせてくれたな」



ローランがいたずらっぽく呟いた。



「その刺繍もカレニナが?」



菓子にかかっていた布を見ながら、ローランが尋ねる。



「はい、刺繍は得意なので…」



「剣術は?」



「それは…」



「鍛練のために私と手合わせしようか?」



「イヤです…」



「嫌と?」



「妻の勇ましい姿なんて、見たいですか?

それに…」



「それに?」



「嫌われるのはイヤです」



「なぜ嫌う?」



「淑女じゃないです…」



「カレニナは十分過ぎるほど魅力的だ。静かにお行儀よくしているのが淑女なら、私の妻は淑女でなくてよい。

カレニナには自分らしくいてほしい。

私の妻は、唯一無二のカレニナだけだ」



「ローラン様…」



ローランがカレニナの肩を引き寄せて口づけた。



「はぁ…

仕事が嫌になった。

ずっとこうしていたい」



「まぁ、ローラン様ったら…」



軽口なのか本気なのか、ローランは眉尻を下げて苦笑した。



「そうだ、忘れるところだった。


君に伝えることがあったんだ」



「はい」



「今日、陛下からパーティーの招待状が届いた。

毎年この季節には、『豊かな自然を守る妖精』を労うとされるお祭りが民の中で行われるであろう?

今年は王宮でもパーティーを開くそうだ」



「そうなのですね」



「カレニナとこうして夫婦になれたのも、陛下のおかげでもあるからな。

行くつもりではいるのだが、注目されるのは間違いない。君は大丈夫かな?

もし無理そうなら、事情を話せばご理解いただけるはずだ」



「いえ、私は大丈夫です…

ローラン様が一緒なら」



「そうか。

では、早速いろいろと手配させよう」



ローランは執事のピーターを呼ぶと、仕立屋や宝石商の手配をし、その日までに仕事が滞りなく運ぶように段取りさせた。



「ローラン様、

私はそろそろ戻ります」



忙しそうなローランを見て、カレニナは立ち上がり扉へと歩きだした。



「カレニナ。

うまい菓子をごちそうさま。

それと、私は勇ましい妻の姿も愛おしく思うぞ」



輝くような美しい微笑みを浮かべて、ローランが声をかけた。


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