1
伯爵令嬢と美形公爵とのラブストーリーです。
「あぁ、本当に良かったわ。」
母のクラウディアが瞳を潤ませて呟いた。
「お母さま…」
「これでやっと、
天国のお父さまも安心なさっているわ。」
言いながら母が涙を拭った。
3人姉弟の2番目に生まれたカレニナは、
20歳で婚約者なしの絶望的な行遅れ。
そんな彼女に奇跡が起きた。
なんと、
公爵家から結婚の申込みがきたのである。
お相手は若くして公爵家を継がれた、
ローラン・ウエルト様。
カレニナより5歳年上で、銀髪緑眼の眩しいほどの美形の持ち主であり、社交界では知らない人はいない。
その麗しい容姿は、もはや国宝級だと言われている。
「姉上、おめでとう」
カレニナの弟で、19歳の若き当主のダニエルが言った。
「だけど、心配でもあるよね…」
ダニエルが眉を寄せる。
「ダニエル、大丈夫ですよ。
噂がどんどん尾ひれをつけてしまっているのでしょう。」
そう言いながらも、母のクラウディアも不安そうだ。
…ローラン・ウエルト様の噂…
あらゆる令嬢が、その麗しい姿に恋心を抱いていると噂の、ローラン・ウエルト公爵。
彼には、華々しい噂の一方で、もうひとつの噂も存在している。
『潔癖症 女嫌い 冷血漢』
社交界にはたった1度だけ姿を現したことがあるが、その時の公爵の印象がその噂を生み出したらしい。
なぜそんな公爵から結婚の申込みがあったのか、はっきりした理由はわからない。
カレニナは適齢期を過ぎた行遅れで、それ故に最近では社交界へも足が遠退いていた。
カレニナには3歳上の姉、フレリアがいる。
彼女は幼いときから、『金髪碧眼の美少女』と知られていた。
社交界でも引く手数多であったが、それに奢ることなく、17歳のときにラーソン公爵に嫁ぎ、母となった今も淑女として名高い。
カレニナも金髪で青い瞳の美しい女性であるのに、なぜ行き遅れているのか。
それは、彼女を社交の場でエスコートした男性すべてが、体に傷を負ったからだ。
たいした人数でもないし、大怪我と言うほどのことでもない。
ただ、怪我をするときには必ずカレニナが隣にいたため、
いつしか『不運令嬢』として噂された。
不運は続き、6人目の怪我人が出た後からは誰からも誘いがなくなり、当然のことながら縁談も皆無だった。
「まぁ、噂については姉上も負けていないか。」
ダニエルが笑う。
父が病気で他界したのは1年前。
仲の良い家族は悲しみに包まれた。
領地経営に長けており、領民にも慕われていた前公爵の死は、家族のみならず領地にも悲しみの影を落とした。
王族学園を優秀な成績で卒業し、父が存命中に領地経営にも携わっていたダニエル。
彼がいてくれたおかげで、前公爵没後の領地内では大きな混乱は起こらず、徐々に明るさを取り戻した領民は、若き当主を崇めた。
そうなると、家族と領民の唯一の気がかりはカレニナの縁談だった。
噂を気にせず、自分を娶ってくれる方などいないのではないかと、カレニナはひそかに諦めていた。
ダニエルの邪魔にならないよう、家を出て職に就くことも考えていた。
その矢先の結婚の申込みに、感謝すると同時に正直不安もあった。
しかし、
…噂に泣かされてきた私が、真実を確かめもせず噂を信じるなんて…
カレニナは噂を気にしつつも『噂は自分で確かめなきゃ』と、
結婚の申込みをありがたく受けのだった。
お読みいただきありがとうございます!