ミュエルの約束
ミュエルの白銀の姿は、まるで魔族そのもののようだとの噂が町を覆い、まさにその点を活かして彼女が魔王領への偵察を担うことになったのです。
「皆さん、また戻ってきます」とミュエルは堂々たる宣言をしました。その声は明らかに揺れることなく、しかもその中には確固たる決意が込められていました。
ロメは若干心配そうな表情を浮かべながら、「大丈夫? 忘れ物はない?」と尋ねました。
その問いに対してミュエルは穏やかな微笑みを浮かべて、「大丈夫です。ありがとうございます」と感謝の言葉を述べました。その微笑みは彼女の純粋な心を表していました。
一方、田中はいつもの無愛想な態度で、「すぐ帰ってきてな」と助言を送りました。
「はい!」と、ミュエルは再びその爽やかな笑顔を見せました。その笑顔は、彼女が困難な道のりを乗り越えてくるという強い信念を表していました。
そして、ミュエルは危険を全うに理解した上で、魔王領への旅立ちの一歩を踏み出したのです。
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魔王領。表面上は人間界と何ら変わりなく、しかし一歩足を踏み入れると、そこは微妙に異質な世界でした。
「何だかゾッとするわ……」と、ミュエルが声を落としました。
その視界に広がるのは、一軒一軒がまるでコピーされたかのように、同じ色、同じ形の家々が綺麗な列をなし、完全に同じ形の木々が整然と等間隔で植えられていました。植物たちは、その一つひとつが整然と手入れされ、道路の表面には一点の凹凸もない。全てが無駄なく、計画的に配置されたその風景は、人間界のどの街とも異なる何かを感じさせました。
「気味が悪いわね……」と、ミュエルがつぶやきました。この場所の完璧すぎる秩序が、彼女には不気味に映ったのでした。
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魔王領の厳しい試験を華麗に切り抜けたミュエル。彼女の頭上には、魔王城での生活の許可証ともいうべき「通行証」が輝いていました。そして、その新生活の中で彼女を導く存在、直属の上司には、銀髪の美男子、アルフが選ばれました。
「今日も、魔王様のために働くんだ」と、ミュエルは自分自身にそっと誓いました。彼女の任務は、スナイパーとしての技量を磨くこと。彼女の目は、遥か彼方の目標を捉え、その最小の動きまで読み取る特別な力を持っていました。
そんな彼女の側に、アルフが静かに近づきました。「ミュエル、君は日々進化しているな」と、彼の声は感心したように響きました。
「ありがとうございます、アルフ様」と、ミュエルはきちんと礼を言いました。その答えは、彼女の礼節を失わない気品を表していました。
アルフは深く息を吸い込み、「君とは決して戦いたくない」と、ぽつりと漏らしました。
「私もです、アルフ様」と、ミュエルは素直にそう答えました。
ミュエルの中には、過去一ヶ月間で微妙な変化が生じていました。依然として礼節を重んじる彼女の態度は変わらなかったものの、かつての元気さは彼女の瞳から消え、代わりに深淵を覗き込むような静かな強さが宿っていました。
アルフはそんな彼女に、「一日でも早く世界平和を目指そう」と声を掛けました。
「はい、アルフ様」と、ミュエルは彼の言葉を胸に刻みました。
そしてアルフは、重大な会議、魔王会議のために彼女の元を去りました。ミュエルが何より幸せだと感じるのは、この魔王領で、魔王のために自分が出来る事を全うする時でした。
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街の喧騒から離れた、どこか懐かしい雰囲気の漂うボロ屋で、エテと佐伯の日常が繰り広げられていました。彼らの住処は決して豪華なものではないですが、心地よい安らぎがあることで二人には十分だった。
「エテ、ただいま」佐伯の声は穏やかで、彼の言葉に、エテの瞳はほんのりと輝きました。
「おかえり、佐伯。収穫はどうだった?」エテの問いに対し、佐伯は柔らかい笑顔を見せ、静かに答えました。
「ゴブリンたちのおかげで、あっという間に終わったよ。スライムたちもゴブリンに懐いて、まるで家族のように仲良くしているね。」
佐伯の手から受け取ったバニラアイスは、エテの舌先を優しく撫で、その甘さが心地よい余韻を残しました。「おいしい〜」エテの頬を赤く染める甘さ。それは、彼女の幸せそうな笑顔をより一層際立たせました。
「最近、牛乳が安いからな。だから、いつでもたくさん食べられるよ」と佐伯が声を掛けると、エテはにっこりと笑いました。「うん!」その返事は明るく、その音色が小さな部屋に響き渡りました。
エテと佐伯の平穏な日常は、彼らの絆をさらに深め、二人が一緒に過ごす時間は、小さなボロ屋を彼らだけの幸せの空間へと変えていきました。