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全てのはじまり

AI技術の進歩が目覚しい世の中になりました。世界中の人々がAIを使って生活するようになったのですが、この少年ーー佐伯は、人々よりもさらにAIに没頭するようになりました。


ついに、佐伯は、AIを生み出す技術の習得に成功し、AIの第一線で活躍できる人材になりました。この少年がまだ16歳とは信じられません。


「おっ、りんごじゃん。しかも高いやつ」


佐伯は、プログラミングのコードを書きながら、りんごを丸かじり。


「ん?」


そして、もう1度かじりました。


「なんか不味いな」


まだ、かじるのを辞めません。


「いたっ…………」


最後の力を振り絞って、りんごをかじりました。


佐伯は、その場に倒れ込みました。


この少年ーー佐伯の人生が呆気なく終わりました。将来有望な彼の死は、ニュースに報じられることもなく、終わりを告げたのです。


佐伯が目覚めると、何もない荒野が広がっていました。果てのない荒野。流石の佐伯もこの状況を不思議に思います。

そんな時、女性の会話がしました。


「あー、はいはい。また人間ね。んー、適当にやっといて」


「分かりました」


佐伯がなんの会話だろう?と思っていると、上空から天使の羽を広げた少女が舞い降りてきました。凛とした瞳は、ブルーサファイアで輝いており、白い肌はこの世の透明感とは思えないほど透き通っています。ショートボブで黒髪。日本のアイドルのような顔立ちをしています。


佐伯は聞きます。


「あんた、誰?」


「私?そうね、私は、天命に授かりし天使としてその職務を遂行する存在ーーエテ。そんなことよりーー」


エテは、一呼吸置いて言いました。


「ーーあんた、人間じゃん。」


佐伯は、戸惑いの表情を浮かべましたが、エテは続けます。


「しかも、ただの高校生。それじゃ異世界で即死よ。ここに来るのは20年早かったね」


「なっ……」


「一応説明する義務があるからするけどね、まあ、しそこないだと思うわ」


失礼なエテ。少し苛立ちを覚える佐伯でした。

エテは、天使の羽を広げて、瞳がキラキラしています。その姿はまるでーー天使そのものでした。エテは、深く深呼吸をしました。


「ーー異世界へようこそ!あなたは、転生をすることになります。」


「転生?」


「あなたには、異世界で生活するために、3つのチートアイテムを付与します。」


エテは小声で付け加えました。

「まあ、すぐ死ぬから意味ないだろうけど」


エテは、自分を指さしました。

「私を選ぶって選択肢もあります。でも、」


「じゃあ、君で」


「え?」


《エテを人間に変換しました。》


「はぁぁああ??」


エテは、上を見上げて声を荒らげます。


「私が何をしたって言うのよ!なんで私がよりにもよって人間なんかに……嫌よ!絶対嫌!」


《佐伯、エテを異世界に送ります》


「羽が……私の美しい羽が……」


エテの羽はみるみるうちに落ちていきました。エテは、佐伯を睨んでいます。


「どうしてくれるのよ!」


こうして佐伯とエテの新しい人生が始まりました。


ーーーー


2人が目覚めると、そこは中世ヨーロッパのような街並みが広がっていました。佐伯は、最初は異国の言葉のように聞こえた周りの声も、段々日本語として認識できるようになりました。


隣には、羽のないエテがこの世の終わりのような顔をしていました。


エテは、佐伯に話しかけます。


「あんたね、この世界がどんな世界か分かってるの?しかもチート無しなんてもう終わりよ」


「エテは、強いんじゃないの?」


「天命のない私は、雑魚よ。」


エテは、佐伯を連れてある場所に向かいました。そこは、冒険者ワーク。日本のハローワークに近い存在として知られている機関でした。

ここでは、あらゆる事ができます。


例えば、天命。

これによって、人生が決まると言っても過言ではありません。

そして、ここではレベルや魔力、攻撃力を確認することはもちろん、八百屋さんのバイトやレストランのキッチンのバイトから王国騎士の求人、モンスター討伐の求人などを見ることができます。


エテは、その中でも天命を重視しています。


冒険者ワークに入ると、若いスタッフが対応してくれました。


「あら、見習いね?こっちへいらっしゃい」


冒険者ワークには、武具をまとった冒険者が大勢居ました。


2人が案内された先には、大きな石像が立ちはだかりました。そこには古代文字が書かれてあります。


「では、天命を授かりましょう」


受付のスタッフは2人に伝えました。


「あんた、いいの引き当てなさいよ」


「わかった」


佐伯は、石像に手をかざします。


《天命:魔王》

《天命:世界に名を残すこと》


佐伯は驚いた表情を浮かべました。それよりも驚愕しているのはエテでした。しかし、それ以上に愕然としているのは、周囲の人間やスタッフでした。


「敵だ。出ていけ!」

「今すぐにやっちまおうか?」

「みんな落ち着いてください!」

「全員で叩きのめせ!!」


現場は大パニックです。エテは佐伯の手を引っ張って冒険者ワークを後にするため、走ります。何とかふたりは逃げ切りました。


佐伯は呟きました。

「なんか、この辺治安悪いな」


「あんたのせいよ!」


エテは、頭を抱えこみました。それもそのはず、魔王と天使は相反する存在なのです。エテは、佐伯の仲間としてこの世界に来たことを忘れてはいません。


「魔王。なってやろうじゃない」


こうして、2人の新たな人生がスタートしました。


あれから数週間、佐伯とエテは、スライム畑で農業を営んで生計を立てていました。この世界のスライムが生成するスライムボールは、魔力に変換されるため、重宝されます。そのため、お金のない2人にとっては、いい仕事でした。


「よし、ついに100個目だ!今日はこれでおしまい!」


一日の仕事を終えて満足げな表情を浮かべる佐伯。彼がスライムボールを運んでいると、いつものように大勢のスライムたちが跳ね回りながらついてきます。毎日餌を与えているからか、かなり懐いているようです。


「エテ、ただいま戻ったよ」


「おかえり、佐伯。よく頑張ったわね」


「ありがとな」


「コーヒー淹れてあるから、一息つきなさい」


ボロボロの小屋。何十年も放置されていたため、さぞかし美観はない。だが、二人が街を追われた今、ここで生活する他ないのです。


佐伯とエテは、コーヒーを飲みながら、心地よい会話を楽しむ。この数週間の間に二人の距離はぐっと縮まったようだ。


「そういえば、俺のステータス、どうなってるかな?」


「あまり期待しない方がいいと思うわよ」


二人はステータスを確認するが、どちらも微妙な表情を浮かべます。佐伯の攻撃力、魔力、スピードはすべて0。運だけは平均並みにはあるものの、特別なスキルもなく、魔王になるには程遠い状態。エテも同様の状況です。


「やっぱり、ただスライムの農家やってるだけじゃ駄目か」


「そうね、でも魔王になるためにはモンスターを倒すわけにもいかないしね」


二人は悩んだ末、コーヒーを飲みながらのんびりと時間を過ごします。


佐伯とエテの残金はわずか5ミダ。日本円で約50円にも満たない。街を追放されている二人には闇市でしか食料が手に入らず、その価格は法外。そのため、日々の生活は厳しいものとなっています。


「なぁ、エテ。この世界には、俺みたいな転生者、他にいるのか?」


佐伯の突然の問いに、エテは少し考えてから答えました。


「天使が送り込んだ人間は4人生きているわ。現在も冒険者として旅をしているはずよ」


「彼らの運命は?」


「それはわからない。知る方法はあるけど…」


話を続けるエテは、コーヒーを一口飲み、遠くを見つめます。そして、魔界の実情について語り始めます。


「だけど、この世界では人間の地位はかなり低いの。元々人間に勇者が務まるわけないしね」


これまでの数週間で得た知識を思い返す佐伯。彼がこの世界について疑問に思っていたことが一つありました。それを自分の目で確かめることを決意しました。


それから二人の生活は、一日一日が厳しくも平穏に過ぎていきました。魔王を目指すことなど夢物語に思えるほど、その日々は平和そのものでした。


ーーーー


この世界では、なんと100種類ものスライムが存在すると言われています。その中でも最もポピュラーなのが水色のスライム。1階から10階層までの範囲で頻繁に出現します。冒険者たちの間では、この水色スライムをペットにするのがブームとなっています。


佐伯とエテが飼育しているスライムは、なんと約2000匹。その大半は水色、赤色、黄色、そして白色のスライム。特に白色スライムは、10階層で出現するレアモンスター(確率0.001%)で、その存在は極めて価値があります。白色スライムが生成するスライムボールは闇市では50ミダと高値で取引され、一般市場ではなんと5000ミダ、つまり日本円で5万円の価値があります。ただし、価値は需要と供給により変動するため、一概には言えません。


「新しい投資を考えたいんだ」と、佐伯はスライム農場の現状に満足せぬ思いを抱いていました。


「それはそうね、私たちは闇市でしか取引ができないから、困ったものよ」と、エテはふたりの所持金、ミダを見つめながら深く唸りました。


「これ以上ミダに依存するのも問題ね」


ミダとは、辺境の地方都市、ミダ公国が発行する通貨のことで、その価値はそれほど高くありません。そのため、冒険者たちの間ではあまり流通していません。


「ゴブリンを倒すことができれば、その皮や爪を99個売ると、この家の家賃分くらいにはなるわよ」


「つまり、99匹倒さなきゃいけないのか…」


しかし、2人にはゴブリンとの戦いに挑む勇気がありませんでした。彼らは天命という言葉を口実に、モンスター狩りから逃げていました。


仕事の時間が来ると、2人はスライムたちのもとへ向かいました。スライムたちはスライムボールを生産する代わりに、2人からもらう超極上のスライム餌(10個50ミダ)に喜んで飛び跳ねています。


「かっわいい〜」と、エテはキラキラと輝く目をさらに強く輝かせ、スライムたちと遊んでいました。佐伯も、恥ずかしそうにしながらも、スライムたちと戯れていました。そんな2人の日常が、次第に新しい形となっていきました。

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