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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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13 サヨナラは暖かく ①

 シーナ、アイリスが力を合わすことで、門兵は強敵とはならなかった。むしろ、本当に現代魔法研究所の門兵としてやっていることを疑う程度に弱かった。


 が、彼らはただ単に門を守っていただけであって、実際の敵は研究所の内部にいる。


 シーナたちが倒れた門兵たちの前に立っていると、研究所の出入り口からリリアが出てきたのが見えた。ダランのローブを羽織ったままだ。


「いつの間にあなたも来たのかしら」


 リリアはアイリスを見据えながら言った。アイリスはたじろぐこともせず、凛としてその場に立っていた。


「さっきです。……シーナから聞きましたよ、あなたがカクリスの人間だったんだって」

「そう。それで? 私を殺しにきた?」

「ダランに連れて帰ります」

「なるほど」


 リリアは笑っている。シーナたちに近付く足を緩める気もないらしい。


「あなたたち二人が揃ったところで、私には勝てないということは、理解している?」

「ええ、理解しています。だから、学長にも来てもらいます」


 それを聞いてリリアは辺りを見回したが、イールスの姿がどこにもないことを確認すると、またシーナたちに向き直った。


「後から来るのね。なら、それまでに二人とも片付けましょうかね」

「イールスが来るまで、私たちは負けないから」

「一応伝えておくけど、無理だったら死体でもいいと言われているの。……何が言いたいか、わかるよね?」


 リリアは強気なシーナの方を向いて言った。少しだけにやついているのが不気味に見える。


「私たちを生かしておくのが難しくても、殺しても良いなら負けないと?」

「そういうことよ。あなたたちに負ける気は最初からないの」

「そのつもりだから、ダランから出てきたんだね」


 シーナの言葉を聞いて、リリアは笑った。


「ちょうどいい頃合いになったのよ。これ以上ダランにいる理由もなかったというか」

「リリアはカクリスの校外調査員なの?」

「さあ、どうでしょうね」

「…………」


 シーナは困惑していた。もしリリアがカクリスからの校外調査員であれば、実はカクリスの人間だったとして話は終結するが、彼女が判然と答えないせいで頭を無駄に使っている気がする。


「……私だって、探しているのよ。あなたと同じよ」

「意味わからない」

「わからなくていいわ。今のあなたには、わかりっこない」


 リリアは、シーナたちから三メートル程度向こう側で立ち止まった。本当に敵であれば、こんな近くまでやってくるだろうか。——考えたとしても、今のシーナたちにとって、リリアは明らかな敵でしかなかった。


「私は多くを語れない。わかるでしょう? 総合指揮官なの。話せることと話せないことがある」

「でも、今なら私たちしかいない。私にわからないことでも話してほしい」

「残念ながら、それは無理よ。……忘れていない? 今はそんなことを話している場合じゃないのよ?」


 リリアはナイフをレッグホルスターから抜き出すと、目にも留まらぬスピードでシーナの目の前に移動し、首筋を切り付けた。咄嗟に後退したシーナだったが、あとわずかでも遅ければ、確実に仕留められていただろう。


「こ、殺す気ね……」


 シーナもナイフを握り直し、さらにもう一方の手にはフィーレの炎を繰り出した。


 複数の魔法属性を操ることのできる人はある程度多いが、彼女のように安定してどの魔法も展開するには、練習とセンスの両方が必要だ。シーナの場合、生まれながらにして持っている魔法を扱う能力の高さが、これを可能にしている。


「アイリス、昔の頃のリリアは、もういない……。目の前にいるのは、明白な敵……だと思う」

「わかってるよ、シーナ。私たちだって、こういうときのためにリリア総合指揮官からいろいろ教わった。学長が来るまで、なんとか戦おう」


 なぜか懐かしく見えるアイリスの横顔は、以前にも増して頼れるようになってきた。今回は背中を預け合おう、シーナは一人こっそりと心の中でそう誓った。




    ◇◆◇




 リリアに翻弄されるのみならず、シーナとアイリスは懸命に応戦していた。必ずしもリリアに押されているというわけではなく、シーナたちも力を合わせることで攻撃を仕掛けることもできていた。


 それでも、総力的に見れば、リリアの方が圧倒的に上位だった。シーナとアイリスはやはり攻撃を受けることが多く、身体にできる傷は次第に増えていった。一方のリリアは、ほとんど無傷のままで、ほんの数本の切り傷程度しか受けていなかった。シーナが時折発生させるメッリーサやフィーレは、直撃することは一度もなかった。


「校外調査員二人が揃っても、総合指揮官には敵わないようね。シーナ、あなたには……才能があるのに」


 ひらりと攻撃を躱し続けるリリアは、まるで余裕の表情だ。息を切らすシーナたちのことを嘲笑っているようだ。


「アイリス、イールスが来るまで、あとどれぐらい?」

「まだ二十分ぐらいしか経ってないよ。だから、あと四十分ぐらいは来ないんじゃないかな」

「きついね……。ナッツは? どこにいる?」

「ナッツ? ……さっきまであの辺にいたと思うけど……」


 アイリスの視線の先に、ナッツの姿はなくなっていた。シーナたちが争っている間に逃げていったのだろうか。


「このままだと、私たちがやられるのも時間の問題。……一旦逃げる方法を考えよう」


 シーナの提案に、アイリスは首を振った。


「この状況で逃げるのは厳しいよ。背中を見せたらすぐに攻撃される」

「でも、私たちの体力も限界……」

「シーナ、らしくないじゃん。どうしたの」


 リリアから十分に距離をとり、二人は並んだ。

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