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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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12 捜索(二) ①

「誰だ?」


 とうとう頭上から声がした。シーナは黙って隠れていたが、気付かれてしまったようだ。


 声の主の男が首を伸ばしてきたところで、シーナはその首を掴み、身動きが取れないように拘束した。一連の動作を瞬時にすることで、この男が叫び声を上げるのを阻止することができた。


「黙って。叫んだら殺す」

「叫ばないから教えろ。お前は誰だ」


 男は特に抵抗する様子を見せない。シーナは少しだけ黙っていたが、男が攻撃してくるわけでもないことを確認すると、首を絞める手を緩めた。


「私が何者かは、あなたたちに教えることができない。あなたたちが攻撃してこないならこちらも攻撃しないから、今回のことは黙っておいて」

「家の中にいるよそ者のことを黙っておけと?」

「そういうことよ」


 追加で誰もやってこないことを確認し、シーナはこの男をテーブルの上に押さえつけた。


「お前、誰か知らないが、慣れているな」

「ありがとう。逆にあなたは、あまり戦闘には慣れていないのかしら」

「当たり前だ。俺は医者だ」

「医者?」


 シーナは思わず手を少しだけ緩めた。直後、男はこれまでとは打って変わって、シーナの手から逃れると彼女の首をしっかりと掴んだ。


「ぐっ……」

「慣れてはいないが、弱いと思わない方がいい。俺だってやるときはやる」

「けど、やっぱり慣れていないんでしょうね」


 シーナは右手でナイフを握ると、男に向かって振り翳した。


 しかし、最初からそれで攻撃する予定でもなかった彼女は、男の手から逃れることができた直後にナイフを片付けた。


 両者の間に沈黙の時間が生まれた。


「もし戦っても、俺が負けることは目に見えているようだな」


 自らを医者と名乗る男は首を鳴らした。


「そうね。あなたが今のことを黙っておくなら、私だってあなたを傷付けないようにする。それでどう?」

「それで交渉が成立すると思っているのか?」


 男は気味悪く笑っている。


「……あなただと私に勝てないと悟ったんでしょ?」


 シーナは確認するように言った。だが、男は笑うばかりだ。


「聞いてるの? 今度こそ本当に殺してほしいの?」

「いやあ、面白いなあと思って。よく見ると、君はダランの人間だろう。そのローブ、そういうことだろう? それなのに、こんなところに一人でいる。あり得ないだろう? だが、あり得ているんだ、俺の目の前で」

「……一体、何が言いたいの?」


「何かを言いたいわけではない。ただ単にこの状況を楽しんでいるだけだ。俺はここに来てから、どこかから運ばれてきた死にそうな人間の実験しかしていない。ダランの人間に会えば、ほとんど二人組で、決まって二人とも死にかけていた。それなのに、お前は元気にピンピンとしている。面白い」

「……ダランの人間が、ここに?」


 何も面白いことはなかったが、適当に流しておくに努めた。この手の相手とまともに話す時間も義理もない。


「時々な。少し前にも誰か来た。その時は一人だった。……そうだ、明らかに治安維持局の人間だった」


 なるほど。治安維持局の人間というのは、おそらく、ステラのことだろう。それ以外に、こんなところにノコノコやってくる治安維持局の人間がいるなら困る。いるとすれば、間違いなくとんでもないバカだ。


「本当なのね?」

「ああ、来たさ」

「名前は?」

「知るか。どうせ死ぬ人間のことを、どうして知る必要がある」

「殺したのね?」

「そういうことだ」

「あなたが? それとも、他の誰かが?」

「誰かが。俺自身は誰も殺していない。命令が来るから、それを他の連中に伝えるだけだ」


 外から誰かがやってくる様子はない。が、あまり時間を取りたくないというのが本音だった。


「命令って、誰から?」

「お前だってよく知っている人間だよ」


 シーナは一瞬誰を知っているか考えたが、カクリスの人間だとほとんど知らない。


「カクリスや現代魔法研究所の人間に、よく知っている人なんていない」

「なら、よく知っている人間はどこにいる? ダランか?」


 ダランにしかいない。もしそうであれば、誰のことか。……リリアの顔が浮かんでくるが、これといった確証はない。


 男は笑ってシーナの手から離れた。そのまま、ゆっくりと研究室の出入り口に向かっていく。


「お前の知っている世界は、もうクソまみれの汚い世界だ。信じたいものなんて作らない方がいい」


 男はそう吐き捨てると、部屋の扉を開いた。


 が、直後、男が叫び声を上げ、一瞬にして首が引き裂かれた。シーナは思わず出入り口に近寄ったが、男はもう手遅れだった。


「今のは、一体……。話を聞かれていたか……」


 シーナは廊下側を確認したが、誰の姿もなかった。おそらく、無駄に喋りすぎたあの男を消した、ということだろう。

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