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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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11 捜索(一) ③

 研究所内はやはり静かだった。外からの光が差し込み、内部は穏やかに照らされていた。物音は何も聞こえない。今研究所内にいる人々は、どこかの部屋に籠っているのだろう。


 どうしてシーナは研究所内にいるか。それは彼女自身もはっきりとはわからなかった。しかし、何となく、ナッツを一人で行かせるわけにもいかないと感じたし、自分が同行するべきだと感じたからだ。それ以上でもそれ以下でもない。


 別に、彼に借りがあるわけではない。どちらかというと、魔法学校にいる間に魔法を教える役を引き受けたのだから、貸しがあるぐらいだ。


 この薄気味悪い研究所内に再び入るのは気が重たかったが、シーナはやはりそこにいた。


「シーナ、来なくてよかったのに」

「別にあなたに付いてきたわけじゃないから」


 答えながら、彼女はブローチをナッツに返した。


「そんなこと言って、本当は優しいところもあるくせに」


 その言葉を聞いて、シーナはため息をこぼした。


「この建物のどこにステラがいるのか、検討はついているの?」

「いや、ないよ、全く。彼が本当にここにいるのかも、確信はない」


 なら、かなり無茶ではないか。シーナはそう思ったが、口には出さなかった。口に出したところで、「そうなんだよ」などと適当なことを答えながら彼は突き進んでいくのだろう。


 二人は研究所の一階を進んだ。先ほど見たとおり、中央を伸びる廊下の突き当たりは優美な両開きの扉があり、その手前で廊下は左右に分かれている。薄暗い廊下を、二人は左に進んだ。


「一つずつ部屋を調べるしかないのかな」

「そんなことしないでよ。一緒に死にたいの?」

「でも、ステラがどこにいるのかわからないから。部屋の中にいないかどうか確認するには、扉を開けるしかない」

「ステラだけがここにいるんじゃないの。馬鹿なの?」


 「研究室1-A」と記された部屋の前で、二人は立ち止まった。


「中から誰かが出てくるのを待つしかないわね」


 シーナが呟いている横で、ナッツは早速ドアノブに手をかけていた。


「……ちょっと! 人の話聞いてる?」


 だが、ナッツは彼女の言葉には構わず、ゆっくりと扉を開いた。幸い、扉は軋む音を立てることもなく静かに開いた。


 内部に人がいる様子はない。シーナとナッツは恐る恐るその研究室に立ち入った。


 本棚が並んでいる。研究室と書かれていたが、まるで図書室、あるいは資料室のようだ。隣の部屋から何か物音が聞こえることを考えると、廊下を進んだ次の部屋には誰かがいるのだろう。シーナは身構えた。


「隣から音がする。隣の部屋にいる人物が出るまで、ここで待機しよう」


 シーナは扉を閉めて提案したが、ナッツは嫌だという顔をした。


「よく考えて。ステラが生きているのかもわからない現状でここにいるの。自分たちの命を第一に考えないと」

「それはそうだけど……」

「ステラのことはわかったから、ここからは私が一人で行く。あなたはここにいて。……はっきり言って、足手まといにしかならないから」

「本当にはっきり言ったね」

「要するに、ステラがここにいるか、生きているかを知りたいんでしょ? ……私がここにいるのは任務があるから。もちろん任務が優先だけど、ついでにステラのことも見てくるからさ」


 シーナは入ってくるときに閉めた入り口の扉の前まで歩いた。


「絶対に邪魔しないでよ」


 一言付け加えると、彼女は扉を開いた。




 研究室1-Bには誰かがいることは間違いない。今ここで戦闘になるのは避けたいシーナは、中央の廊下の右側に向かった。こちらには研究室1-Cと1-Dがあった。


 彼女がそれぞれの研究室の前を右往左往していると、廊下の突き当たりの階段から、二階から降りてくる足音が聞こえてきた。一人だけのようだ。


 シーナは咄嗟にアープを使って反対側、研究室1-Aがある方の階段まで移動し、壁に隠れて1-Cと1-Dの前を観察した。


 現れたのは女だ。背は標準よりも高めだろう。顔はよく見えない。


 中央の階段まで歩くと、建物から出るのだろう、出入り口に向かって進み死角に入った。


 シーナはその女を観察するため、急いで中央の廊下まで走った。壁からそっと覗き込むと、女はもう出入り口を開けて出て行くところだった。


「今のうちに……」


 シーナは再び研究室1-C、1-Dの前にやってきた。耳を扉に押し当て、物音がしないか確認した。どちらも何の音もしない。研究員の数は少ないのだろうか。あるいは、ほとんどが上階に集まっているのだろうか。


 シーナは研究室1-Cの扉をそっと開いた。真っ暗な部屋の内部には、誰もいないようだ。彼女は部屋の内部に入った。


 どうやら、ここは日常的に何らかの研究が行われているのだろう。足元にフィーレで焼けた跡があったり、蒸発し切っていない水滴があったりする。つい少し前まで使われていた、という様子だ。つまり、また誰かが使いにくる可能性も高い。


「……あれは……?」


 窓際に向かったシーナは、部屋の隅に置かれた小さなデスクから数枚のメモ用紙を手に取った。


「偉大なる……世界分裂魔法? ……って、何?」


 シーナはメモ用紙の続きを読んでみた。


「所長命令だ。発動する魔法の属性をいち早く報告せよ」


 そう走り書きされた続きには、この「偉大なる世界分裂魔法」が研究されているということがわかる記録が残されていた。記録によると、魔法属性の候補としてあるのは空間系魔術かコントロール系魔術、あるいは特殊魔法だということだが、特殊魔法は必要ないかもしれないというメモも端に残されていた。


 また、一人分の血液だと足りなさそうだ、というメモも残されていた。続きを見てみると、実験に使ったマージの血液一人分だと、空間系魔術、コントロール系魔術のどちらも、魔力を増やそうとした時点で足りなくなってしまうとのこと。——特に記載されていないが、すなわち、そのマージは実験に用いられて死んでしまったということだろう。


 そのとき、廊下側から足音が聞こえてきた。シーナは咄嗟に、そのデスクの下に身を隠した。足音はこの研究室の前で止まり、ドアノブを回す音が部屋中を不気味に響き渡った。


「まずいな……。これは戦闘になるかも……」心の中で呟いた。


 そんな彼女の心を知らず、足音の主はドアを開いて研究室に入ってきた。


 足音は部屋に入ってすぐに止まった。


 シーナは少しだけ顔を出して入り口の様子を伺おうとしたが、手前にあるものが邪魔で見えにくい。が、無論、下手に出ていくのは愚行だ。引き続き、何者かが立ち去ることを願ってその場に身を隠した。

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