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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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9 最初の任務(四) ②

 とうとう諦めたのか、スカーレットは目を瞑ってため息をつきながら顔を左右に振った。


「昨日の事件は、あなたたちの認識どおり架空のものよ。で、その架空の事件を作り出したのはカクリス魔法学校。でも、私たち治安維持局は、カクリスと繋がっているわけではない。エニンスル半島の平和を維持するため、ただそれだけを理由に活動しているのよ」

「やはりカクリスでしたか。……つまり、昨日治安維持局の職員が現場にいたのは、あなたの指示ということですね?」


「そういうことね。……これで十分?」

「いえ、不十分です。誰の指示で治安維持局が現場に立っていたのかはわかりました。そして、おそらく、それは私たちを検問に引っ掛けるためだったのでしょう。そして、あのルートを通ることは、ダランのリリア・ボード総合指揮官がカクリスに漏らしてしまった、あるいは元々内通していたということだと思います。では、あそこで立っていた理由は何だったのでしょうか? 私たちを検問に引っ掛けて、一体何をしたかったのですか?」


「詳細には聞いていない。私が知っているのは、複数のカクリスの人間が検問していた場所の付近を訪れる予定だったことだけ」

「……カクリスの人間が来る予定だった?」


 全く想像していなかった発言に、シーナは困惑を隠せなかった。スカーレットは彼女の表情を見ていただろうが、そのまま話を続けた。


「そうよ。私たちがしていた検問は、その彼らが来るまでの時間稼ぎ。結局、カクリスの目論見は果たされなかったみたいだけど」

「一体、カクリスの人が来て、何をする予定だった?」

「そこまでは知らない」

「嘘ね。エニンスル半島の平和を維持するための何か口実を言っていたはずでしょ? それを教えて」

「……あなたたちを攻撃する予定だったと」

「は? そしたら、何がどう平和なの?」


 シーナは思わず声を荒げた。周りにいた数名の清掃員たちが驚いたように彼女らを見つめたので、すぐに彼女は声を小さくして続けた。


「あなたは、平和を維持するための活動をしていると言った。それが、カクリスの人間がダランの人間を攻撃することなの?」

「……カクリスとダランが揉めていることは、昔からずっと知られている。その両者の間で戦闘が起こるならば、そうならないようにすればいい」

「一方が無力になれば、戦闘が起こらなくなると?」


 シーナの言葉に、スカーレットはまるで冷静な顔をしていた。


「たとえば、ここに私とあなたの二人がいる。そして、私たち二人は互いに歪み合っているとする。けど、もし、あなたと私に歴然とした力の差ができ、あなたが無力になった側とすれば、あなたは私に攻撃してくることがなくなるでしょう?」

「ダランの有力な人間を殺せば、ダランはカクリスに服従するようになる。そうすれば、エニンスル半島に安泰が訪れると?」

「口が悪いのね」

「あなたの性格の方が悪いようだけどね」


 シーナは深いため息をついた。アイリスは緊張しすぎて呼吸すら一定にできていなかった。シーナの横でずっと話を聞いていたのだろうが、その顔には信じられないという言葉が書かれていた。




「治安維持局は、カクリスの肩を持っている。でも、どうしてダランではなくてカクリスなんだろう? 実力はあっちの方が上なのかな」


 スカーレットが席に戻り、シーナとアイリスのみ会場の外に残っていた。彼女たちはスカーレットの話した内容を整理していた。


「そうだとしたら、何を根拠に、カクリスの方が実力が優っていると判断したんだろう」


 アイリスが答えた。シーナは首を捻るばかりだった。


「あるいは、カクリスの方がダランよりも治安維持局に協力している、とかあるのかな」

「可能性としては否定できないと思う。あまり考えたくないけど……」


 会場の中が静かになったため、シーナとアイリスはテーブルに戻った。スカーレットは、まるで何事もなかったかのように座っている。


「皆様、本日はお集まりいただきまして、誠にありがとうございました。どうぞご自愛いただき、今後ともいろいろな場面において協力し合い、共に地域を良くしていきましょう。本当にありがとうございました、どうぞお気を付けてお帰りくださいませ」


 ユリアン・アルベルトの言葉の後も、一部の学長らは談笑したりしていたが、イールスたちはすぐに会場を出ることにした。


「途中、部屋から出ていたと思うが、何かあったか?」とイールスはシーナに声をかけた。

「いろいろと。あと、イールスに聞きたいこともある」


 会場を後にし、素早く三人は馬車に乗り込んだ。馬車は即座に出発し、夜の煌びやかなケルンの街から忙しく走り去った。


 シーナはスカーレットから聞き取ったことをイールスに説明した。彼は説明に聞き入っていて、時折「なるほど」と相槌を打つだけだった。


「——それと、イールスに聞きたいことなんだけど」


 イールスは目を丸くしてシーナを見た。何を聞かれるのかさっぱりわからない、という顔だ。

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