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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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9 最初の任務(四) ①

 パーティーの後半は夕食会だった。準備のため十分ほどだけ会場の外に出され、再び会場が開けられたときにはコの字型だったテーブルは口の字型になっていた。単純に開いていた一辺を閉じただけのようだった。


 テーブルの上には、それぞれの座る位置に食器類が用意されていた。食器の種類から察するに、フルコースのメニューというところか。


 シーナたちは、今回もやはりイールスの後方のテーブルに案内された。同じ食器が置かれているので、同じものを食べられるらしい。シーナは内心楽しみにしていた。


「シーナ、見て。スカーレット・ターナー部長がすぐそこに」


 アイリスが急に横から声をかけてきたので、シーナの心から楽しみがかき消された。


 彼女の言うとおり、スカーレットはイールスの右横の席に座っている。そして、そこが角の席となっており、スカーレットの右側になる人物は誰もおらず、ちょうど彼女に対面する席にユリアンが座っている。


 テーブルの配置は口の字型になったが、人の配置は長辺のみで、少々狭くなったような印象だった。


「良かった。隣なら、何かを話していてもそれほど怪しまれない」

「今日の終了予定時刻から察するに、おそらく、デザートの後は自由時間があるはず。そのときに話しかけてみよう」

「うん、そうする」アイリスの提案に、シーナは快諾した。


 夕食会の前の約十分間のときは、スカーレットがずっとユリアンと話しており、残念ながら話しかけるタイミングはなかった。だが、今はすぐに話しかけられる距離であるため、タイミングを見計らうのは容易だろう。


 シーナとアイリスは、ひとまず豪華な夕食を楽しむこととした。




 想定どおりのフルコースを楽しんだ後、数名ずつが集まって立ち話をする時間となった。シーナとアイリスは、イールスのすぐ隣の席に座っているスカーレット・ターナーにすかさず話しかけた。


「本日はお目にかかれて光栄です。ダラン総合魔法学校から、イールス・ダランの付き添いで来たシーナです。そして、こちらはアイリス・ブラーノ」

「ダランの方ですか。初めまして。どうなさいました?」


 スカーレットは口をナプキンで軽く拭うと、シーナたちの方に向いて座り直した。目が合ったタイミングで、アイリスは軽く会釈をした。


「初めまして。少しお伺いしたいのですが、本日はどのようにして……」

「治安維持局は、カクリスと繋がっているのですか?」


 アイリスが話を始めようとしたが、それを塞いでシーナは単刀直入な質問をした。隣のアイリスはかなり戸惑っている様子だったが、シーナは真っ直ぐスカーレットの目を見据えていた。


 対して、スカーレットは冷静にシーナを見つめ返していた。


「どういった趣旨の質問かしら?」


 即座に回答しようとせず質問の意図を確かめようとする姿勢は、さすが治安維持局の部長というところか。


「スカーレットさんなら、知っていると思います。昨日、ヒールフル地方北部で発生したとされている事件について。その事件は、おそらく本来は発生しておらず、治安維持局が作り出した架空のものではないかと考えているのですが。間違いありますか?」

「……ここはそんな話をする場所ではない。座席に戻りなさい」


 スカーレットは早速シーナたちを遠ざけようとしたが、それは想定内だった。


「スカーレットさん、治安維持局は公平で公正であることが求められますよね。今ここで私たちの質問に何も答えられないということは、そうではないと疑われても仕方がないですよ」


 シーナの返事に、スカーレットはため息をこぼしてから立ち上がって答えた。


「……ここでは話せない。外に出ましょう」


 三人は、学長たちが部屋の奥で談笑しているのを横目に、足音を忍ばせて外へと出ていった。


「治安維持局は、公平で公正な機関。だから、カクリスや他の学校に肩入れしているなんてことはない」

「では、昨日の事件とは、一体何だったのでしょうか? 具体的に事件の内容を教えてくれませんか?」


 シーナは長身のスカーレットの顔を下から睨むように見ていた。それに負けじと、スカーレットも彼女を睨み返していた。隣のアイリスは少々居心地が悪そうだったが、それには両者とも配慮しなかった。


「事件のことは部外者には話せない。今回に限らず、すべてにおいてそうよ」

「……なら、あなたは今日、誰に呼ばれてここに来たの? ある学校が依頼したってことだったけど、それはどの学校?」

「それも話せない」

「話せないことばかりね」

「ええ、そうよ。あなたたちのような下っぱ教師に話せることはないわ」


 シーナはアイリスに向いた。その顔を見れば、彼女がひどく立腹していることがわかった。


「ここまですべて隠し通すって、怪しいよね。絶対何か隠しているんだと思うな」

「そ、そうね。治安維持局なんだから、自分たちに問題がないなら正面から答えればいいのにね」


 アイリスが調子を合わせてくれた。だが、無論、これだけでスカーレットが口を割るはずもなかった。


「あなたたちの用事はそれで終わり? ならもう戻るから」


 スカーレットはそう告げ、部屋に戻ろうと歩き始めた。ここで彼女を逃してしまっては、シーナたちの仮説は永遠に仮説のままとなってしまうだろう。


「私たちダランの人間なんだから、正直にダランに呼ばれたって答えればいいのにね」


 あえて聞こえるように言ったところ、スカーレットが足を止めた。


「……やっぱり。スカーレットさん、正直に答えた方がいいですよ。こんな質問、裏取りなしですると思いました?」

「シーナ、どういうこと?」


 アイリスがシーナに耳打ちしたので、口に指を当てて黙るよう指示した。


「裏取り?」とスカーレット。

「そうですよ。ここでスカーレットさんが正直に答えてくれないなら、それを新聞にするだけです。真実を曲げる治安維持局の部長、って見出しをつけて」

「そんなことしてタダで済むと思っているの?」


 スカーレットはシーナたちの元に戻ってきた。


「スカーレットさんが正直に答えてくれれば、私たちは何もする予定はありません。言っている意味はわかりますよね?」

「あなたたちはどこまで知っているわけ?」

「すべて知っていますよ。でも、あなたの言葉を聞いて、知っていることが確かであることを確認したいんです」

「知っているなら、私の言葉は必要ないでしょう」

「でも、言質を取ってくるのが仕事なんですよ」


 シーナは引き下がる素振りを見せなかった。こんなことを言うとは全く予定していなかったが、とにかくこの場で何とか彼女から真実を聞き出すため、このように振る舞うに努めた。

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