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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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8 最初の任務(三) ③

 場所は変わり、三人は本来の目的のパーティー会場となる建物に来ていた。地方役場の前にあり、時計台を降りてからすぐにやってきた。建物一階のロビーには、人の姿はちらほらだが、いずれもローブかスーツを着ている。魔法学校やそれなりの機関の人間か一般学校の教員ということだ。


 一般学校の教員はスーツを着ていることが多い。基本的には上下紺色で、ストライプの入っているものが主流だ。対して、一般学校の生徒の服装に規定はない。したがって、街中を歩いている一般学校の生徒を見つけ出すのは至難の業だ。


 壁に設置された「本日の予定」と書かれたボードには、彼女らの目的地が三階であることが記載されていた。


 到着予定時刻より数十分ほど早かったが、すでに会場の準備は整えられていた。彼女らの他にここのスタッフと見られる人以外がいないため、到着が一番だったということだろう。そのため、しばらくロビーなどで退屈な時間を過ごす必要があるかと思ったが、案外そうでもなかった。


 すぐに一人のスタッフがやってきては、イールスを会場内のコの字型に設置されたテーブルに案内した。シーナとアイリスはその後ろに置かれた、少し質の落ちるテーブルに案内された。


「今日は私たちは何もすることないよね?」


 シーナがイールスに耳打ちすると、彼は頷いて答えた。


「それらしくやってくれたら大丈夫だ。このパーティー自体、それほど重要視するものではないからな」


 三人は黙ったまましばらく待機していたが、パーティーの始まる数分前になり、ようやく出席者が集まり始めた。一階で見かけた人も数名いた。


「イールス・ダラン学長。本日はお越しいただきありがとうございます。お会いできて、この上なく光栄です」


 最初に話しかけてきたのは、ケルンにある最大の魔法学校、エスポワ・デア・ケルン魔法学校のユリアン・アルベルト学長だ。最近新しく学長になったと聞いている。ちなみに、エスポワ・デア・ケルン魔法学校という名前は、ケルン側のエスポワ魔法学校という意味だ。


「ユリアン・アルベルト学長、お初にお目にかかれて光栄です。ユリアン学長の元で、エスポワ・デア・ケルン魔法学校は大きく発展するでしょう」


 他にも、イッサール一般学校、プラル地方のホール一般学校、ハルセロナのハルセロナ魔法学校、セルリア一般学校の学長が挨拶にやってきた。


 一通りの挨拶を終えると、パーティーは静かに始まった。まずは、ユリアンの挨拶に始まり、エスポワ・デア・ケルン魔法学校の楽団に所属している生徒たちによる歓迎の演奏、そして、各学校の学長らの挨拶が続いた。いずれも、直前の時計台での体験に比べれば、シーナにとってずっと退屈なものだった。アイリスも眠そうに座っている。


 また、イールスが重要視していないということにもすぐに納得できた。この会は、本当にただ単に親睦を深めるだけのようなものだ。もちろんそれはそれである意味重要だが、学校間対立のような機微な話はどこにも出てこない。何かの密約をするわけでもない。本当に単なるパーティーだ。


 隣のアイリスに誘われるように、シーナも眠たくなってきた。


「……では、ここで、本日のゲストをお招きしましょう。世界治安維持局エニンスル半島担当部長の、スカーレット・ターナー氏です」


 ユリアンのその言葉を聞いて、シーナは急に殴られたかのように目を覚ました。あまりにも衝撃的な所属だった。


 美しいブロンドの髪を揺らして、スカーレットは姿勢良く部屋に入ってきた。


「それでは、スカーレットさん、まずは一言お願いします」

「ただいまご紹介に預かりました、スカーレット・ターナーです。本日は会にお招きいただきまして、ありがとうございます。今後、どうぞよろしくお願いします」


 簡単に挨拶を済ませたスカーレットは、ユリアンが座っていた席の隣に用意されていた空白の席に着いた。


「アイリス、彼女が来るなんて聞いていた?」

「いや、全く知らなかった」

「だよね。一体、どういう風の吹き回しだろう」

「わからない。けど、ユリアン・アルベルト学長が呼んだのかな?」

「そうなのかな……」


 シーナは呟くように答え、アイリスと顔を見合わせた。


「いつもだとゲストなどいないのですが、今回は、ある学校から依頼があったものですから、このような形とさせていただきました」


 ユリアンは話を続けた。


「さて、治安維持局から見て、エニンスル半島はどのような場所でしょうか?」

「エニンスル半島は、とても良い場所だと思います。私たちの知る限り、犯罪の数も半島外と比べると比較的少ないですね。ただ——」


 スカーレットは一瞬口を噤んで続けた。


「組織的な犯罪は多いように思います。特に、スプラー山脈の西側で」


 つまり、アールベストとリラのことを指しているのだろう。


「ご承知のとおり、そのようなことが発生した場合、私たちは粛々と対応します。私たちが安全を作り出します」

「なんか、変じゃない?」


 アイリスがシーナに告げた。全く言うとおりだ。


「だよね。ここまで言うとは」


 ユリアンが何かを話そうとしたが、再びスカーレットが話し始めて、それは不覚にも阻止された。


「今日は、皆さんの親睦を深め、よりよい半島を創り上げるための第一歩としましょう」

「でも、カクリスがいないんだけどね」シーナの呟きに、アイリスは黙って頷いた。

「あの人、エニンスル半島の担当部長でしょ? 昨日のこと、何か知っているんじゃないかな」

「そうかもね。後でこっそり話しかけてみようか」


 シーナの提案に、アイリスは再び黙って小さく頷いた。

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