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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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5 校外調査員 ③

 その日の夕方、ちょうどすべての授業が終わる頃の時刻に、シーナ、アイリスの元にリリアがやってきた。


「学長が呼んでる。来週の件よ。行ってきて」


 リリアに告げられたままに、二人は学長室へと向かった。シーナは何だか落ち着かない様子だったが、アイリスに悟られないように努めた。


 学長室の扉を開くと、イールス・ダランがイスから立ち上がって二人のそばに歩いてきた。


「新しく校外調査員になったお二人さん、新しい学校生活はいかがかね。少し肩身の狭い思いをすることもあると思うが、そこは申し訳ない、うまくやってほしい。それで、来週の件だが……」

「イールス、今回の件は、危険がないと聞いている。けど、それなら校外調査員でなくても可能な任務だと思う。遠距離だからリリアが行けないというのは理解するけど、どうして私たちが?」


 イールスが説明を始める前に、シーナは声を出した。そんな彼女の様子を見て、彼は何度か首を捻りながら部屋の奥へと向かって歩いた。


「今回はアールベストから出る。それだけだ」

「道中の、プラルやスプラー山脈周辺が安全であることは知っている。けど、ケルンだけ聞いたことがない。実は危険を予期しているとか?」


「待て待て。いいか? 学長がアールベストから出るんだ。それぞれの地方が安全であってもそうでなくても、可能性として危険が伴うことはわかるだろう? 何かあったとき、私一人で何とかすることも可能だろうが、人手が必要な場合もあるだろう。だから、それなりに魔法の扱いに長けている校外調査員の同伴が必要なんだ」

「それは理解する。けど、それこそ、魔法の扱いに長けている教員をもっと何人も連れて行けばいいと思う。……実は道中気になることがあるとか、そういうことも含んでいるの?」


 シーナの言葉にイールスは一瞬だけ反応する素振りを見せたが、イスに座るとシーナたちの方を見た。


「それ以上はあまり考えない方がいい。私たちも、正確に把握できていることとそうでないことがある。だから、答えられることだって少ないんだ」


 それを聞いて、シーナは黙って何度か頷いた。


 その後、実際の護衛任務の詳細や持ち物などの説明を受け、二人は職員室へと戻された。無論、職員室に戻っても、誰かと話すなどはなく、ただ単純な雑用などを簡単に済ませるだけで、あとはゆっくりと紅茶を飲む程度の時間だ。そして、教員がちらほらと帰宅を始める頃に、自分たちも残りの雑用を終わらせた上で帰る。暇とも言える程度の時間を過ごすのみだ。


 なお、この一連の流れは、授業をほとんど持っていない「ダミーの」教員も同じようなものだ。実際、雑用以外まるで何もしていない教員が何人もいる。他方、授業を持っている教員は、授業のこと以外の仕事はない。雑用はすべてシーナたちがやっているからだ。そのため、最初に帰宅を始めるのは授業を持っている教員たちだ。


 ようやく授業を持っている側の教員が帰り始めたので、シーナたち雑用係が掃除を始めた。掃除の班は特に決まっていないため、シーナはいつもアイリスと一緒に一部の講義室の掃除を行なっていた。


 だが、この日はなぜか、アイリスと共に全く別の男性教員がやってきた。


「……で、誰だっけ?」


 講義室に入るや否や、シーナはアイリスに尋ねた。彼女の後ろには、その誰かわからない教員がニコニコしながら立っている。


「レオ・セガールだって。ダランの教員を始めてしばらく経つみたい」

「なるほど。で、どうしてそのレオ・セガールさんがここに?」

「シーナに会いたかったんだって。だから、私に声をかけて、繋いでもらおうとしたみたい」


 アイリスの向こうに見えるレオは不気味なほどにニコニコしながら立っている。


「……状況は理解したわ。で、私に何か用?」

「いえ、特には。ただ、あなたと話してみたいなと思っただけですよ」


 彼はどうも裏のありそうな顔をしているが、シーナは気にせず講義室へと入った。


「ありがとう。でも、残念ながら、私と話しても楽しくないと思うわ」

「そんなことはないですよ」


 教室の端のロッカーからほうきを取り出し、フォトンでそれらを操って掃除を始めたシーナの前に、レオがやってきた。


「だって、お二人とも校外調査員でしょう?」


 シーナとアイリスは血相を変えた。


「ど、どうしてそれを……?」

「おやおや、図星でしたか。いえ、お二人にご迷惑をおかけするようなことはしませんよ。ただ、ちょっと風の噂で知っただけですから」

「……そんなことはないはず。誰から聞いたの?」


 シーナはほうきを操るのを止め、目の前に立っている不審な男に神経を集中させた。


「本当に風の噂ですよ。それ以上尋ねられても、これ以上の回答はできません」


 終始笑顔なところに不気味さを感じつつも、それ以上何も聞いてこないレオが何かを仕掛けてこようというわけではないだろうことを、シーナは理解した。


「わかった。とりあえず、現時点においてあなたが私たちの敵ではないということにしてあげる。でも、何かおかしい様子を見せたら、リリアに報告するから。わかった?」

「わかっていますよ。私だって、お二人と争いたいなんて考えていません。ただお話ししたかっただけです」


 シーナはまた掃除を再開することとした。アイリスも掃除を始めたが、レオは手作業で少しだけ協力する程度だった。




    ◇◆◇




 その日の雑用が終了した後、レオとは素早く別れ、シーナとアイリスは共にマンションのシーナの部屋に入った。外だと誰かに話を聞かれかねないため、部屋の中を選んだ。


「どうして彼は校外調査員のことを知っていたと思う?」

「わからない。けど、教員になってから多少なりとも長いってことだから、単純に存在を知っていただけかも」

「そうだとしても、私たちだとピンポイントで予測するのは無理がある。何か根拠があったのよ。それも、ほぼ間違いないと言えるような根拠が」

「もしかしたら、彼が私たち以外の校外調査員、ということは?」


 アイリスが尋ねたが、シーナは首を捻った。


「いや、それなら、なおさらあんな質問しないと思う。きっと彼は、どこかから、あるいは誰かから、私たちが校外調査員であることを聞いた。そして、その情報を知っていることを振りかざして何かをしようとしている……」

「だとしたら、また私たちに接触してくるはず……?」

「……考えたくないけど、そうかもしれないね」


 アイリスが立ち上がり自室に戻ろうとした。シーナは咄嗟に彼女を呼び止めた。


「レオは、このマンションに住んでいる?」

「いや、聞いていないけど……」

「仮にだけど、部屋に帰る途中、もし彼に会ったら……」

「何もないってことはないか……」


 シーナとアイリスは互いを見つめ合った。要するに、少し遅くなったこの時刻、言い換えれば、他の教員が廊下をほとんど歩いていない頃に一人で出歩くのは、万が一の事態を想定すれば芳しくないと認識し合ったのだ。


 そのため、結局、アイリスはシーナの部屋に留まることとした。着替えなどは明朝に自室に戻って行えば良い。


 シーナとアイリスは、二人では窮屈なシングルベッドに並び、静まり返った不気味な夜を共に過ごした。


 寝る直前まで、シーナはずっとレオ・セガールのことを考えていた。何か心が落ち着かない気がする。気のせいであれば良いのだが。

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