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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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5 校外調査員 ②

 シーナたちは、自分たちが校外調査員であることを口外することを禁じられた。もし今回の内容を他の教員から聞かれた場合は、単なる実技教員だと答えるよう言われた。実技教員であれば、人によってはあまり授業を持っていない人物もおり、怪しまれにくいということだ。もしかすると、それ自体が学校の考えで、授業をあまり持っていない実技教員を置いているのは校外調査員が明るみに出ないようにするためだったのかもしれない。


 シーナとアイリスは共に食堂に向かった。授業中のこの時間であれば、食堂には授業のない数名の生徒しかおらず、少し話す程度であれば良い環境だった。彼女らは入口と窓際から遠い、どこからも見えにくい席に着いた。


「私たち、これからどんな生活を送ればいいんだろうね」


 シーナがテーブルに肘をついて話しかけた。一方のアイリスは、手を膝の上に置いた状態だった。


「校外調査員なんて、聞いたこともないし。それに、学校の外って、どれぐらい外なんだろう。まさか、リラに行くとかじゃないよね……」

「そんなことはないんじゃない? さすがに危険すぎるでしょ」

「でも、諜報活動だよ? 平和な地方に行っても意味がない」

「それはそうね……」


 シーナは頭を抱えた。危険なところに行かされる、ということは、魔法の扱いに長けていないアイリスをどうにかして守る必要がある。しかし、もし激しい戦闘になることがあれば、現実問題としてアイリスを守り切ることは難しいかもしれない。


 そうであっても、彼女を守らなければ、目の前で虐殺されることになりかねない。


「アイリス、後で一緒に魔法の使い方を練習しよう。学校の外に出るなら、ましてや、アールベストから出るなら、実戦を想定しておく必要がある。アイリスのことは私が守るし、リリアもそうすることを前提としているんだと思う。けど、万が一の場合には、自分の身は自分で守ってもらわないといけない。だから——」

「わかってる。私だって、足手まといにはなりたくないし、シーナのことを守ることだってあるかもしれない。だから、練習させてほしい」

「よかった。なら、授業が終わった後ね」


 二人はしばらく食堂に留まったが、昼休憩になる前には、生徒たちと会わないよう校舎側へと戻った。




    ◇◆◇




 よく晴れたある日の朝のことだった。何の予定もしていないのに、職員室前でリリアが彼女らを待っていた。


「おはよう。来週、イールス学長がケルン地方に行く。ケルンの地方役場前で、複数の学校の学長が集まる学長会が開かれるの。単なるパーティーよ。参加するのは、ダランとイッサール、そして、プラル、ケルン、ハルセロナにある魔法学校と一般学校の学長たち。特に危険はないと見ているけど、遠距離の移動になるから、私ではなくあなたたちに学長の護衛についてほしいの」


 そうして、シーナとアイリスに、学長の護衛という最初の任務が言い渡された。


「わかった。ケルンまでのルートは?」


 答えたのはシーナだ。アイリスは黙って聞いている。


「よくあるルートよ。プラルを通って、スプラー山脈を通ってイルケーに入る。そしてすぐケルンに入るルートよ」

「なるほど。安全そうなところを行くんだね」

「そう。プラルに出るのは少しだけ無駄っぽく感じるけど、リラを突っ切るのは現実的じゃないから」


 リリアはシーナたちの元を離れた。


「じゃあ、来週に備えて準備しておいて。学長には私から伝えておくから」


 シーナとアイリスは顔を見合わせ、食堂に向かった。簡単に護衛と伝えられたが、具体的にどのように対処するかを相談するためだ。




 まだ昼前ということもあり、やはり食堂は空いていた。


「馬車で行くよね? ケルンまで行くなら丸一日近くはかかるよね」とアイリスだ。

「うん、かかると思う。だから、私たちも数日分の準備をしていかないと」

「長旅になるね」


 アイリスはそう呟いてぼんやりとしていたが、シーナは違った。


「今回の護衛、本当に何もないのかな。本当は、護衛をつける意味があるとかはないのかな……」

「シーナ、考えすぎじゃない? 私たち、まだ今回の任務が初めてなんだよ? 危険がほとんどないところを選んでいるよ、きっと」

「だといいんだけど……」


 シーナがあまりにも顔を暗くしているので、アイリスは彼女の顔を覗き込んだ。


「それか、何か気になることがあるとか?」

「うーん、まだわからないんだけど。……わからないんだけど、もしかすると、今回の護衛には何か意味があるんじゃないかって思うの」

「どうして?」

「もし本当に何もない場所に行くための護衛だとしたら、他の時間のある教員に頼むことも可能だと思う。それを、どうして校外調査員の私たちに依頼してきたのか。校外調査員、あるいは、私たちが行くべき理由があるんじゃないかな思って」


「……私にはわからないけど、もしそうだとしたら、たとえば何が考えられる?」

「なんだろう。ケルンに危険があるとかかな」

「ケルンって、あのケルンでしょ? 時計台で有名な。安全な街なんじゃないの?」


 アイリスが首を傾げた。


 そう、彼女の言うとおり、ケルンには大きな時計台のある市庁舎があり、それがエニンスル半島の観光地の一つとなっている。危険な街だと聞いたことはないが、「安全だ」と聞いたことも特にない。


「安全なのかは知らないけど、危険ではないんだろうね。……でも、どうしてだろう、何かあるんじゃないかなって思ってしまう……」

「とにかく、私たちがすることは、学長の護衛でしょ? 他のことには触れなくて大丈夫だよ」

「……まあ、そうだね。何か問題が起こったら私が対処するから。アイリスは何もしなくていいからね」


 シーナはそう言うと立ち上がった。


「シーナ、それは違うよ」


 アイリスがシーナの前に立ちはだかった。


「私たちは同じ校外調査員でしょ? 問題が起こったら、二人で対処しないと。それに、以前とは違って、少しは強くなったよ」


 アイリスが胸を張っているので、シーナは不思議と笑みが溢れた。


「わかった。アイリスもよろしくね」


 そう告げてから、二人は食堂の出入り口へと向かった。

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