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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第二章 新しい自分
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5 校外調査員 ①

 翌朝、シーナは不安を抱えたまま学校に向かった。


「では、これから、新任の皆さんが何を教えるか、教室を持つのかなど、お伝えしていきます」


 教員室の中で、リリアがシーナたち新任教師を前に説明を始めた。


「これから、この後移動してもらう教室を伝えます。呼ばれたら、すぐに移動を開始してください」


 リリアが手に持った紙を見ながら、名前と教室名を読み上げ始めた。そして、次第に教員たちが職員室から数を減らしていく。


 ようやくシーナの名前が呼ばれた頃には、すでにシーナとアイリスのみになっていた。


「シーナ、あなたは総合指揮官室。アイリス、あなたも同じよ」

「え? 他の人たちと同じように、講義室じゃないの?」

「シーナ、私は総合指揮官室だと言ったの。それ以上に何か?」


 リリアがため息混じりでそう言ったので、シーナはアイリスと顔を見合わせて総合指揮官室へと向かった。


「あ、私もすぐに行くから、先に二人で部屋に入っておいて」


 声がしたので職員室を出る直前に振り返ったが、リリアはバタバタと書類を片付けていた。




「で、あなたたちには校外調査員を勤めてもらおうと思っているの」


 少しの雑談の後、リリアはそう切り出した。シーナとアイリスは再び顔を見合わせた。


「それ、何?」

「あなたたちは知らないわよね。ダランには校外調査員というのがあって、いわゆる学校の外のことを調べてもらうの」

「図書館に行って?」

「違うわ。現地に行くのよ」


 シーナは目を丸くしていた。だが、アイリスはそれ以上に目を丸くして、無意識に口も開いていた。


「リリア総合指揮官、それは、つまり、学校の外に出るということですよね? アールベスト地方の中で完結する話ですか? そうですよね?」

「違うわ、アイリス。むしろ、アールベストから出ることの方が多いかも」

「そ、それは、危険すぎませんか?」


 アイリスは瞬きを繰り返していた。束の間の後、彼女はさらに続けた。


「それに、シーナは実力があるからいいとしても、私は魔法の扱いは全然です。学年でも下から数える方が早いぐらいです」

「アイリス、あなたが心配するのはわかる。でも、これは学校で決定した重要なことなの。魔法が使えるから校外調査員になるわけではないし、魔法が得意でなくても他のことで強みがあればいいのよ」

「……そう言われましても……」


 アイリスは口を閉じた。


 今度はシーナが話し始めた。


「リリア、具体的には何をするの? ただどこかに行ってレポートでも書けばいい?」

「そんなわけないでしょ。それなら他の教員でもできるわ。要するに、諜報活動をしてくれということよ」

「いや、そんなこと……。そもそも、私たちまだ新任だよ? できるはずがない」

「いいえ、新任だからこそできるという見方もある。あなたたちがダランの教師になったということは、他の誰も知らないからね」


 シーナは廊下側に視線を送った。


「……いや、さっき職員室にいた人たちは私たちのことを知っている。もしあの中で私たちのことを言いふらす人がいたら、リリアの考えは間違いとなる」

「あら、同じ学校の仲間を信じないのね。でも、心配しなくて大丈夫。もし学校内で何かそういう危険性が出てきたら、その人間を排除するか虚偽の事実を伝えるだけだから」

「……つまり?」

「あなたたちが辞めたとか、どこかで事故で命を落としたということにする。それでもまだうるさい輩がいたら、そのときは消すことになる」


「……そういうやり方するんだ」

「仕方がないわ。あなたたち校外調査員は学校の外のことを、私たちは学校の中のことを適切に処理する必要がある。もしあなたたちが外で敵に遭遇したら、戦って勝つしかないでしょう? 中も同じなのよ」

「まだ引き受けるとは言ってない」


 シーナは鋭い目でリリアを睨み付けたが、リリアはさらりと視線を躱して答えた。


「拒否はできないでしょう。もう決まっていることなのだから」

「…………」


 シーナは仕方がなく数度頷いた。隣のアイリスは硬直している。


「校外調査員をしている人は、他に誰がいる?」シーナは口を開いた。

「それは言えない。逆に、あなたたちが校外調査員をしていることも誰にも言っていない。そういうものなの」


 シーナはまた頷いた。深く、そして何度も。


 隣のアイリスが口を開いたので、シーナは彼女の方を見た。


 口を開いてからしばらくして、ようやくアイリスは声を発した。


「リリア総合指揮官、ひとつだけ教えてください。……どうして私が選ばれたんですか?」

「あなたはシーナの友達でしょう? だからよ。基本的に、校外調査員は孤独な仕事。だから、最高の友達であるあなたに、シーナのそばにいてほしくて」

「……わかりました。気が進まない点はありますが、シーナがいいなら私は校外調査員になります」


 そう答えたアイリスはシーナの顔を見た。シーナが視線を返し小さく頷くと、アイリスもそれに応えるように何度か小さく頷いた。

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