3 魔法運用協議会 ①
シーナたちがリラを訪れてから、およそ一ヶ月が経過した。アールベスト地方の中心地グランヴィルには珍しく雨が降っていたが、シーナたちには関係なかった。なぜなら、彼女たちは世界皇帝御所にやってきていたからだ。
アールベストから世界皇帝御所までの間、アールベスト北部からリラを通過するまでは雨が降っておらず曇っていた。エザール地方の中でも世界皇帝御所のある不可侵領域に入ってからは煌々とした陽の光がシーナたちを照り付けていた。
そして、今、世界皇帝御所にやってきては、謎の光にまた照り付けられていた。
「こんにちは、ティモシー・ポップさん。前回の協議会以来ですね」
イールスとフェデラックが誰かと挨拶をしているのを横目に、シーナはリリアと共に先に御所へと入っていった。
「私たちは協議会自体に参加しないの。イールス学長が話している後ろで、フェデラック副学長と共に待機するのよ」
「それだけなんだね」
シーナは興味なさげにソファに座っていた。リリアは彼女に教えるように続けた。
「ええ。参加者は、各魔法学校の学長、それと、それぞれの魔法属性のトップと言われている人たちよ」
「魔法属性単位のトップの人なんて知らない。そもそも、どうやってトップだと決めるの? 戦うの?」
「トップというのは、半ば形式的なものよ。条件は、魔法学校に属していなくて、過去に犯罪などを起こしておらず、優れた実績を残している人。多くは、学校の教員を引退した人や、治安維持局の退任者よ」
「ということは、候補者はたくさんいるんだ。世界皇帝御所が指名するの?」
「そうよ。指名も除名も世界皇帝御所の一任。一応、公正中立な立場として指名しているわけだけど、過去にダランかカクリス出身の人が指名されたところを見たことがない」
「……あえてダランとカクリスの出身者を外しているんだ」
シーナはソファにもたれかかり、誰が見てもだるいのだろうだと理解できるほどに深く腰掛けていた。
「そうね。変にどちらかに肩入れしていると思われたくないんでしょうね」
「まあ、理解はできるし、それでいいと思うけど」
シーナはやはり興味がないようだった。
美しい宴会場で、協議会はすぐに始まった。シーナたちは予定どおりイールスの背後に座っていた。
「……というわけで、最近の魔法運用状況は以上となります」
司会者が一般的な運用状況を述べた後、イールスが手を挙げた。
「ダラン総合魔法学校より、一つ提案があります」
「申してみよ、イールス・ダラン学長」
第四代世界皇帝のエンベル・ルードビッヒだ。
「この場で具体的な事案の説明は行いませんが、最近、アールベスト地方において、マージによる魔法の違法な利用が散見されています。それにより、オームを中心とした民間人に一定の被害が発生している状況です」
ジャック・カクリスが鋭い目つきでイールスを見ていた。
「我々が提案したいのは、他地方における魔法の違法利用については、その違反者が属する地方が責任を取るということを明文により規定してはいかがでしょうか」
「現行でも、そのような運用になっていると思うが?」
エンベル・ルードビッヒの言うとおり、今でも、基本的にはそのような対応がとられている。ただし、リラはどうしても責任を取りたくないようだ。なお、他の地方に対してはそうでないから、アールベストあるいはダランに対する嫌がらせなのだろう。
「本来は、です。ただし、実際には、無闇に証拠を求める等行い、責任を逃れようとする姿勢が見られます。現在は単なる運用のため、これを機に制度化することが良いかと」
「なるほど。であれば、イールス・ダラン学長が申す制度を創設することにも一義あるということか」
「待ってください」
挙手したのは、やはりジャック・カクリスだ。
「必ずしも地方が責任を取るということは適切ではないと思います。原則として、魔法の使い方は個々人に委ねられます。言い換えれば、誰かが個人的な理由により他の地方で違反行為をすることも考えられるということです。そうであれば、地方が責任を負うのは適切ではなく、その個人を罰することが適切ではないでしょうか」
「罰するというのは、違反行為を行った地方においてか? それとも、その者が属する地方においてか?」
世界皇帝はイールスの方を向いた。
「違反行為を行った地方において罰するのが適切でしょう。違反者を適切に罰するという点で、地方が責任を負うべき問題だと思います」
「……双方の主張はよくわかった」




