2 リラ地方往訪 ①
カクリス魔法学校は、ダラン総合魔法学校のあるアールベスト地方東側のリラ地方にある。リラ地方の内部においてはほとんど中央部に位置しており、周辺はグランヴィルのようにリラ地方内で最も栄えている街だ。
シーナはある日、イールス・ダラン学長、フェデラック・ベルン副学長、リリア・ボード総合指揮官、ベル・シュタインバーズ先生と共に学長室にいた。ベル・シュタインバーズといえば、シーナが入学した頃は高等部の生徒だったが、今となっては次期総合指揮官とも噂されるほどの魔法の使い手と言われている。なお、次期総合指揮官と言われ始めてからは長く、未だリリアが総合指揮官を務めているのは誰かの策略なのか、よくわかっていない。
「じゃあ、行こう。今日は魔法運用協議会に向けた事前の打ち合わせ。カクリスはいろいろと言ってくるだろうが、屈せず対応するんだ」
イールスの声かけの直後、シーナを含めた五人はダランの噴水前で待機していた馬車に乗り込んだ。
通常、ダランからカクリスまでの距離を馬車で行けば半日程度かかる。ただし、学長が利用するこの馬車は通常のそれとは異なり、何倍も速く動く。というのも、シーナは覚えていないが、スプラー山脈に行ったときに彼女らが乗った馬車と同様に、走り始めたら宙に浮くためだ。ただし、あのときの馬車とは異なり、宙に浮いてからの速さはこちらの方が圧倒的に速い。それでいて、段違いで静かだ。……御者の魔法の腕前が段違いなのだ。
風に煽られて小刻みに揺れる馬車で、シーナたちは黙って目的地を目指していた。
馬車が止まるときの独特の揺れで、シーナは頭を上げた。いつの間にか寝てしまっていたようだ。すぐ前方には背の高い建物が建っている——カクリス魔法学校だ。
イールス・ダランは早速馬車から降りようとしていた。他の三人も立ち上がっていた。シーナは慌てて立ち上がり、一番後ろに付いた。
「もう一度確認しておくが、来月行われる魔法運用協議会において我々が主張したいことは、魔法を使った集落への攻撃に対して厳しいルールを設けることだ。今でもルール自体はあるが、罰則規定がない。したがって、世界皇帝の名の下に、罰則を明文化しカクリスの攻撃を防ぐんだ」
イールスが先に馬車から降り、こちらを向いて説明した。シーナは飾りのように座るだけでいいのだろうが、変に重要な会議に来てしまったと半ば後悔していた。
「イールス学長、もちろん、私たちはそれが目的です。一方で、カクリスは必ずそれを阻むでしょう。それに対しては、予定どおりの対応で変わりないですよね?」とリリア。
「もちろん予定どおりだ。こちらは攻撃されたという証拠を持っている。それを突きつけて、言い逃れできないようにするんだ」
「承知しました」
シーナたちが馬車か降りてカクリスの校舎に向かったところで、ある人物が現れた。
「あら、久しぶりね」
そう、この女、シーナは覚えていないものの、メラニア・エドワーズだ。最初のシーナの担任、ユキア・オムロンを殺したカクリスの総合指揮官だ。その脇にはシーナと同じほどの年齢の少女が立っている。
「ダランからのお客さまたち、どうぞこちらへ」
何か意図があるのか、客人の迎えを彼女自ら買って出たようだ。
「ちょうどよかったわ、彼女が来てくれて。同い年の子を連れてきたの。ソフィアよ。仲良くしてあげて」
ソフィアと紹介された少女は、シーナたち一同に一礼し、シーナのことを一瞬睨みつけるとメラニアの横から動かなかった。
「何、今の愛想のない目……」
思わずシーナの口から心の声が漏れた。幸い、誰にも聞こえていなかったようだ。
しかし、さらに数秒ほど歩いたところで、ソフィアがシーナの横まで移動してきた。一体何の用事だろうか。
「私、あなたには負けない」
「何のこと?」
「……何も知らないなら、やっぱり私の方が強い」
「だから、何のことを話しているの?」
シーナはソフィアの方を向いた。ソフィアはこちらをまじまじと見つめており、一瞬は視線が合ったがすぐに逸らしてしまった。
しかし、次の瞬間、真横から足を踏みつけられ、シーナはすぐにソフィアに目をやった。が、彼女はもうメラニアの横に戻ろうと駆け出していた。
「本当、何をしたかったんだろう……」
シーナは大きなため息をついた。
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