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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第一章 失われた記憶
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17 忘却の魔法 ②

「なら、どうして私はダランにいるの?」


 リリアはシーナに向かって歩いてきた。


「私があなたをダランの生徒にしたの。けど、当時、あなたは二歳だった。中等部に上がる前、二年間初等部に残ったでしょ? それは、私が無理矢理二年早く入学させたことの調整でもあったのよ」


 シーナはイスから立ち上がろうとしたが、再びモアに肩を掴まれた。


「リリア、私はリリアのことを信用していた。それなのに、……本当は、最初から私のことを、ずっとずっと騙してきたんだね」

「そんな言い方しないで。私の趣味だったわけではない」

「学校のためとかアールベストのためとか、そんな理由だけで、私のことをずっと支配してきたんでしょ。もう子どもじゃないから、そんなことぐらいわかる。あなたのことを信用してきたのが間違いだった」


 シーナはまた立ち上がろうとした。やはり後ろからモアが肩を掴んできたが、今度はその手を払い除け、フォトンでイスをモアに向かって飛ばすと彼はよろめいた。その隙にシーナは部屋の入り口まで走った。


「逃げようとしても無駄よ」


 リリアがシーナの背後の空間を切り取り、再び彼女を部屋の中央部に戻した。さらに、自身の目の前の空間を切り取ってシーナに瞬間的に近付くと、その腹を蹴った。重たい一撃に、シーナはその場に平伏した。


「……そこまでして、私に何をするの……」

「こちらの計算ミスもあるけど、あなたは弱くなりすぎた。だから、もう一度あなたの記憶を消す」

「また私を……」


 シーナは腹を押さえながら弱々しい声を出していた。それを見下すように、リリアは彼女の前の前に立ちはだかっていた。


「心配しないで。あなたを殺すようなことはしない」

「……こんな人生なら、……死にたい……」


 シーナが口を開いて舌の先を伸ばしたのを見て、リリアは咄嗟にその顎を手で押さえた。あと少し遅ければ、シーナは自分で舌を噛んで自害していたかもしれない。


「そんなことしないで」

「だって、だって、……」


 シーナの目には涙が溜まっていた。すでに目には収まりきらず、次々と床に垂れている。


「私の人生は、私の人生じゃないじゃん。私は、……これまで何を……何もすることができなかった……」


 モアが向こうで立ち上がったのを確認したが、リリアは彼には視線もやらず、シーナの前にしゃがみ込んでいた。


「私は……もっと自由に生きたかった……。もっとフローラと遊びに行きたかったし、たくさん友達がほしかったし、普通に勉強して、普通に学校に通って、普通に魔法を使って、普通に子どもを育てて、普通の家庭を持って、静かに暮らしたかった……。……なのに!」


 シーナが急に大きい声を出したので、リリアは一瞬驚いた。


「はあ……。死にたい死にたい死にたい……」

「やめて」

「死にたいよ。死にたい死にたい死にたい。私を殺してよ……」


 シーナはリリアの顔に向いた。リリアはすでに手を離していたが、顎が震えている。舌を噛み切るなど、怖くてできないのだ。だから、リリアに自分を殺してほしいと懇願している。


「リリア、今まで私を好き放題に支配してきたんでしょ? 最後だけでも私のわがままを聞いてよ。私の自由にさせてよ……」


 涙が震える頬を伝っていく。途切れながら話すシーナの言葉を、リリアは残さずすべて聞き取っていた。


「リリアの期待ほどではないかもしれないけど、私だってがんばっているんだよ。だから、お願い……」


 リリアはシーナの顔を見て唇を強く噛んでいた。わずかに血が滲んでいた。


「私を楽にして……」

「…………」


 リリアは何も言えなかった。シーナは這うようにしてリリアに近付き、リリアの顔を覗き込んだ。涙で歪んだシーナの顔を真っ直ぐ見ることはできなかった。


「ねえ、早く……。殺してよ……」

「リリア・ボード総合指揮官……。どうなさいますか」

「やるわよ」


 リリアは立ち上がった。シーナの視線が顔を追ってくるが、リリアは少しずつ後退りした。


「あなたは生きないといけない。これまでの記憶も今の記憶もすべて忘れて、新しい人生を始めるの。……死ななくても、新しい人生を歩んでいけばいい」


 直後、リリアは忘却の魔法を発動した。シーナは声を上げる間もなく一瞬にして気を失った。


 シーナの二度目の人生は、儚く幕を閉じた。

 第一章は、ここで終了です!

 引き続き、第二章もお楽しみくださいませ☆彡

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