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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第一章 失われた記憶
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13 実力 ③

「まだ近くにいるかもね」

「どういうこと?」とシーナ。


「敵が現代魔法研究所の人間だと仮定する。もしそうであれば、あと一撃で簡単に殺せるアンディを生かしておくか」

「あえて殺さなかったのは、他のダランの人間を誘き出すため?」


 シーナも立ち上がった。


「かもしれないなと思って。だって、ここまで攻撃していたということは、殺す気はあったでしょう。でも、現実には殺していない。つまり、他の誰かも含めて、一人でも多く殺そうと思った可能性が」

「ご名答。まさか、総合指揮官が出てくるとは思わなかったが」


 シーナの背後から男の声が聞こえ、即座に振り返ったが遅かった。首を締め付けられ、すぐに身動きも取れなくなってしまった。


「私の任務は、一人でも多くダランの邪魔な人間を殺すこと。誘い出してみたら、二人と、この後さらにもう一人やってくるということか。成績としては十分だろう」

「目的は何?」


 リリアは冷静な目付きだった。


「カクリスのローブでもないし、あなたは現代魔法研究所の人間でしょう」

「現代魔法研究所のことを嗅ぎ回っているだろう? お前たちの仲間が、俺たちの仲間を数名殺していることはわかっている。その報復というわけだ」


 見慣れないローブの中に似合っていない白いウイングカラーシャツを着ている男は、シーナの首を絞める手を一層強くした。報復、つまり殺すつもりだということは間違いないだろう。


 首が苦しく、シーナは声を出すことができなかった。手や足で攻撃しようとしたが、全く歯が立たなかった。鍛え上げられた強靭な肉体だった。


「そっちがその気なら、こっちも殺すつもりよ」


 リリアがシーナと男に向かって歩いてきた。手には大きなフィーレの炎を載せている。


「総合指揮官と戦うには、こいつは邪魔だな。先に殺すとするか」


 男はそう呟くと背後でナイフを取り出し、瞬く間にシーナの背中を刺した。


 学校の授業では、敵がナイフを握るために手の力が緩んだ瞬間に、敵から離れる方法を学んでいるのだが、このタイミングでシーナはそうすることができなかった。知識として知らなかったわけではなく、単に鍛錬が足りなかった。言い換えれば、リリアやその他の教員が求める技能レベルに達していなかった。


「シーナ!」


 リリアは駆け出した。


 男はシーナの背中からナイフを抜き取ると、今度はリリアに向かってナイフを投げた。シーナは鈍い音を立ててその場に倒れた。


 男が飛ばしたナイフをひょいと躱したリリアは空間を切り取って男の背後に回り込み、フィーレの炎を背中に押し付けた。続けて、男が弱るのを認識すると、空間で男を囲んだ。


「さすが総合指揮官。強いな」


 男は即座に自分の周りを空間で囲い、その空間をリリアの空間の外側と交換することで、切り取られることを免れた。


 シーナは二人の攻防を、地面に突っ伏せた状態で見ていた。自分にはあのような闘い方などできないな、などと考えながら。


 そのとき、逆方向からアンディの叫び声が聞こえてきた。痛みに耐えながらそちらを向くと、別の男がアンディを抱き上げている。


「スプレッドさん! こっちは運んでおきますよ!」

「待て、そんな弱い人間は持ち帰り不要だ。後で私が完全に殺しておくから、その辺に転がしておけ」


 スプレッドが大きな声で答えた。依然としてリリアと激しく争っている。


「でも、雑用でもさせればいいじゃないですか。いい女ですよ」

「そんなことは関係ない。不要なものは不要だ」


 スプレッドはやはりアンディを殺したいらしい。殺すことが趣味というタイプか、不要と思えば片っ端から切り捨てていくタイプなのだろう。


 シーナは、敵の二人が、シーナがまだ生きていることに気が付いていないことを確認すると、ゆっくりと袖からナイフを取り出した。たった一本しか持っていないことを思い出すと、思わずため息が溢れた。


「殺すって……。じゃあ、少しだけ借りますよ! またここに戻しに来ますから!」

「勝手にしろ。最終的に殺すことに変わりない」


 男がアンディを担ぎ上げ、木の生い茂る場所に連れて行こうとした。シーナは背中の痛みで立ち上がることができずにいたが、瞳に涙が溜まるアンディと目が合った。これ以上ないほどにシーナに助けを求めているのが、視線から生々しく伝わってくる。


 シーナがまだ生きていることに気が付いたのか、リリアがまるでミスをしたかのように振る舞い、ナイフをシーナの目の前に飛ばしてきた。ちょうど手元に落ちてきたナイフに、リーテで文字が書かれていた。


「シーナならできる。授業を思い出してがんばって」との文字を読み取ったシーナは、そのナイフを強く握った。


 コントロール系魔術を専攻している生徒は、ナイフが二本以上あるとき、原則として必ず一本は手元に残すように習う。なぜなら、もしうまくコントロールされず近接戦になった場合、ナイフが一本もない状態では戦えないからだ。授業で模擬戦闘をすれば、必ずといって良いほど、多くの生徒がすべてのナイフをコントロール系魔術で飛ばしてしまう。相手の動きが鈍い場合、敵が遠くにいる間に仕留めた方が良いと思うのであろう。


 もちろん、状況によってはすべて飛ばすこともありうる。それでもやはり、原則として一本以上は手元に残すものだ。


 シーナももちろんそのように習っているし、模擬演習でも実習している。しかし、シーナはいつもナイフをすべて飛ばしてしまう側の生徒だった。そして、このときも例外ではなかった。


 ナイフを二本連続して男に向かって飛ばした。それぞれのナイフで、男の頭と背中を狙った。

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