表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第一章 失われた記憶
21/91

8 知らなかった現実 ②

 寮に戻ったところ、扉に紙が挟まっていたのでシーナは手に取ってみた。どうやら、今回の校外実習が中止となったのはそのとおりらしく、明日からは通常の授業にするとのことだ。


 シーナはローブを脱いで髪を軽く整えると、階段を下っていった。向かった先は、リリアの部屋だ。


 扉をノックしたが、リリアが出てくる様子はない。まだ校舎側にいることも大いに考えられ、シーナは一旦部屋に戻ることにしたが、その道中偶然にもフローラに出会った。彼はとても心配そうな顔をしていた。


「シーナ、無事でよかった。今日は昼頃に授業が終わって、急遽生徒たちは家へと戻されたんだ。先生たちは会議を開いているらしい」


 フローラはそこまで告げると、突然、シーナのことを抱擁した。彼女は思わず「どうしたの!?」と顔を赤くした。


「悪い噂もいろいろと耳にしたんだ。それで、シーナが無事かどうか、ずっと気がかりだったんだよ。……本当に、無事でよかったよ……」


 フローラは心から安堵(あんど)しているようだった。彼の言葉を聞いて、シーナも彼を抱き返した。


「心配かけてごめんね、私は大丈夫だから」


 シーナにとって、何よりも幸せで穏やかな時間だった。


 その後、フローラと分かれたシーナは、時間を置いて再びリリアの部屋へと向かった。今度は、中からリリアが笑顔で彼女を出迎えた。


「リリア、聞きたいことがあるの——」

「どうしたの、シーナ」


 リリアはオレンジジュースを用意して、シーナの横に座った。いつも対面で座るのに、珍しいものだと感じられた。


「学校が何を隠しているのか、教えてほしいの」

「学校が、……隠しているもの?」


 リリアは笑顔を崩さなかった。


「今日は災難だったわよね、ゆっくり休めばいいわ」


 全くシーナの質問を聞こうとしない態度だった。しかし、シーナがそれにめげるわけもなく、


「今日みたいなこと、これまでも起こっていたんでしょ?」

「何のことかしら」

「ある先生が言っていたの。今日みたいなことは珍しいって。それって、これまでも同じようなことがあったってことだよね?」


 リリアは何事か、という顔をしているが、その裏ではこれまでの事実を把握しているはずだとシーナは認識した。総合指揮官ともあろう人間が、知らないはずがない。


「リリア、私には隠さないでほしい。二歳のときからずっと一緒にいてくれたリリアのこと、信用しているの。だから、今回も私のことを信じて真実を教えてほしい」


 シーナはリリアの瞳を見据えた。リリアも彼女の目を見つめ返している。


 暫時(ざんじ)の沈黙の後、ようやくリリアが口を開いた。


「わかった、シーナ。あなたにはこの社会のある真実を話すわ。だから、私がこれから話すことは他の誰にも話さないで。そして、私がこの話をすることを、誰にもバラさないで。約束してくれる?」

「もちろん。リリアとの約束なら、私、守れるよ」


 シーナは彼女の前でだけ見せる、甘えたような顔をした。


 それを見て、リリアは意を決したように説明を始めた。




 数は多くないけど、これまでも今回同様のことが何度か起きていたことは事実。とはいえ、人が死ぬということはほとんどなくて、いざこざになる程度だったの。


 でも、今回は違った。これまで一箇所だけが標的となっていたものが、今回は北部を中心に一斉に狙われた。だから、あなたたちだけではなく、校外実習全体を中止としたの。


 これまでも起こっていたならどうして放っていたのかと、あなたは聞きたくなると思う。結論から話すと、カクリスからの宣戦布告だと見なすことができなかったからなの。どの事件においても、カクリスが主犯であることはほとんど確かだったんだけど、確たる証拠はどこにもなかった。つまり、カクリスに、単なるでっち上げだと言われかねないものだったの。


 さらに、もし宣戦布告だと見なしたならば、ダランとしてもそれに対応しないといけなくなる。具体的には、反撃するか、防衛に留めるか、ということ。


 残念ながら、今のダランには反撃するほどの戦力はない。というのも、授業で実戦演習はほとんどしないでしょ? だから、戦闘になる前から、結果がわかってしまっているの。




 リリアはジュースを飲み干した。一方のシーナは、ほとんどジュースには手をつけず話を聞いていた。


「カクリスの生徒たちが、産業のためにこっちに攻めてきている、って言っていた。それは本当?」

「それも理由の一つだと思うわ。確かに、リラの土地は農業などにあまり適していないからね」

「他の理由があるの?」

「歴史的な理由……も考えられるかな。定かではないけど」


 リリアは立ち上がると、彼女自身のコップを台所に戻した。戻ってくると、シーナの顔を見て、ジュースはもういらないのか、という顔をした。シーナは急いで飲み干すと、コップをリリアに手渡した。


「歴史的な理由って?」

「……今日はもう寝なさい。続きはまた今度よ」


 リリアに促され、シーナはまだまだ聞きたいことがたくさんあったが、渋々立ち去ることとした。


「リリア、ありがとう。またいつか、いろいろ教えてほしいな」

「また、機会があればね」


 リリアは笑顔でシーナを見送った。シーナは駆けるように自室へと戻っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] どうもです。 ツイッターより拝見しに来ました。 最新話まで拝見いたしましたが、読みやすい文体でスラスラ見る事が出来ました。 設定も良く練られていて、キャラも立っているので、読み応えあ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ