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二つの世界 〜シーナの記憶〜  作者: Meeka
第一章 失われた記憶
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8 知らなかった現実 ①

「どうだった?」

「昔の記憶をすべて忘れているようでした」

「わかった。遠くまで行ってもらってありがとう」

「いいえ、とんでもありません。遠出するのは久しぶりですから楽しかったですよ」


 もうすぐ陽が顔を出すだろうかと思える時刻、闇を極めたダラン総合魔法学校のある一室で、二人の教員の声が周囲を不気味に響き渡っていた。


「それにしては、一体どういうことなんでしょうね。過去の記憶を失うとは、忘却の魔法を使ったとしか……」

「そうですね、誰かがそうしたということでしょう。確たることを申し上げられず恐縮ですが」

「気にすることはないわ、モア」

「ありがとうございます、リリア・ボード総合指揮官」


 二人は闇の廊下へと姿を眩ました。




    ◇◆◇




 シーナの治療を行なっていたジャスミン・メイはルアの安否を確かめたが、やはり彼女はすでに亡くなっていた。


「まさか、ここまでやるとは、……珍しい……」

「え?」


 シーナはジャスミンの言葉に耳を疑った。


「これまでもカクリスの生徒が攻撃してくることがあった、そういうことですか?」

「……もちろん多くはないけどね。時々は」


 シーナはルアに触れることはできなかった。そのため、その(かたわら)にジャスミンと共に座っていただけだった。


「ダランは学校として、ちゃんと対応しているんですか? まさか、うやむやにしているなんてこと、ないですよね?」

「…………」


 ジャスミンは何かを話そうとしたのか、口をわずかに開いたが、すぐに閉ざしてしまった。シーナはその行動を見逃さなかった。


「ジャスミン先生、どういうことなんですか?」

「シーナ、あなたが知る必要はないわ」


 ジャスミンはそう答えたが、シーナが潔く引き下がるわけもなかった。


「教えてください、先生」

「知らなくていいこともあるの」


 気が付けば、村の方向から、ジャスミンと共にやってきたティモシー・マシュー、ジェイク、グレアがやってきた。村の方の諸々の作業は済んだらしい。


「ジャスミン、どうだ?」

「シーナの治療は終わったわ。けど、この子はダメだったみたい」

「そうか……。学校に戻ったら、アールベスト北部の警戒体制を強化するよう学長に伝えておこう」


 ティモシーはシーナたち生徒三人を並べて口を開いた。


「君たちは滞在先から荷物をすべて持って、今日中に学校に戻るんだ。馬車の手配も済んでいるから、三十分後に村長さんの家の前に集まるんだ。わかったな?」


 彼は早口に告げると、シーナたちに移動を促した。こっちの処理は俺たちがやっておく、とのことだった。


 シーナは最後にもう一度だけ焼死体となったルアの顔を振り返って見た。もうどこにも彼女の面影はなかった。




 帰りの馬車では誰も声を発さなかった。陽は高く登っていたが、彼女らを包む空気は鈍色(にびいろ)だった。


 シーナはずっとジャスミンの言葉が引っかかっていた。これまでもカクリスがアールベストに来て何かをしていたということだろうが、そもそも、そのような話を聞いたことがなかった。言い換えれば、事件が起こっておきながら、誰かがそれを取り上げるようなことはせず、ずっと闇に(ほうむ)られてきたということだ。


 正式なダランの生徒であっても、それを知らされることはなかった。


 一方で、本当に時々ではあったが、実戦演習及び実戦で役立つ知識や考え方の授業があった。これらは、偶然発生してしまった事件への備えということだったのだろうか。そうであれば、生徒たちは、何も知らないうちに戦争の備えをさせられていたということになる。


 馬車がゆっくりとダランの正門前で停止した。


「着きましたよ、ダランの生徒さん」

「あ、……ありがとうございます」


 シーナは目を開けた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。外はすっかり夕方になっている。ジェイクとグレアは先に馬車から降りていて、寝ていたのか起きていたのかわからない。シーナの方を見て彼女が降りてくるのを待っている。


 シーナたちは御者(ぎょしゃ)に礼を告げ、ダランの敷地へと入っていった。


 驚いたのは、そこには校外実習に行っていた生徒たちがすでに何人も集まっていることだった。さらに、振り返ってみると、彼女たちと同じように馬車がいくつも列を成しており、生徒たちが徐々に帰ってきている。


「中止にしたのか……」ジェイクが呟いた。


 よく見ると、数名の生徒が負傷しているのが確認できた。同様の事件があちこちで発生し、全体で中止としたのだろう。


 シーナはジェイク、グレアの方を向いた。


「私が飛び出したから、……ごめんね」

「ルアのことか。……気にしないで。あのときは仕方がなかった」

「俺もジェイクも、ルアが気になっていたから、それだけは残念というか、どうしようもない気持ちだが……」


 グレアは内に秘めていたのであろう気持ちを突然開け出した。


「ごめんなさい。私のせいで……」

「謝らなくていい。全員で抱えるべき問題だ」


 ジェイクがそう言ったので、シーナは少しだけ心が軽くなった。

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