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7 喰らえ!

 そうして──数日が過ぎた。

 毎日、朝から夕刻にかけてレジューナに地球の情勢を話す日々。とはいえ──そろそろ話すこともなくなりつつある。

 まぁ、サブカルなどのことを含めればまだまだ話せることは多いが、多分その辺は不要だろう。多少触れてはみたものの、その辺の反応は薄かったしな。

 とはいえ俺の話と引き換えに、この世界の情報もいくらか知ることができた。

 この世界には、神様が“実在”しているらしい。それも時折実体を持って降臨するとか。まぁ、魔法のあるファンタジー的な異世界ならばそういう存在がいても不思議ではない……のかもしれない。

 う……む。一度お目にかかってみたいものではあるが。

 そして驚くべきは、この世界の姿。

 どうやらここは、平面的な世界であるらしい。

 正直、にわかには信じがたい話ではあった。

 とはいえ、異世界だ。そういう姿の世界もある……か?

 一度外に出てみたいものだ。

 レジューナ自身は、地球が球面であることには全く異論をさし挟まなかった。まるで、その様な世界が存在するのを知っていたかの様に……。



 一方、アンダーソン君は俺を許してくれたようで、何とか打ち解けつつある。

 日本のことはほどんど朧げでしかないが、俺のことはきちんと覚えていてくれた。

 『砂糖水を押し付けてくるヘンなヤツ』という認識だったらしいがな……

 まぁ、よかろう。

 糸の使い方などを習い、練習する。

 アンダーソン君らハエトリグモは徘徊型なので獲物を取るための巣は作らないが、休憩用や産卵時などに隠れ家として使うらしい。

 ちょっとした不織布みたいなかんじのヤツだ。まぁ、覚えておくには損はなかろう。



──そして、そんなある日の夜。


「──ッ⁉︎」


 右腕に、チクリとした痛みを感じて飛び起きた。

 ──何だ?

 そちらに視線を向ける。

 と、闇の中に黒いビー玉のようなものが大小四つ並んで……

 って、アンダーソン君か。

 俺の腕を噛んだ? 何故? 寝ぼけたのか?


『……ダレか キた』


 問おうとする俺の口を、その脚……あるいは触肢? で塞いだ。

 ……爪がちょっと痛い。


(ん? 誰か──まさか、外から?)


 少なくともレジューナやその助手(?)ではなさそうだ。


「泥棒の類か?」

『そうかも』


 レジューナかあの助手(?)に知らせたほうがいいか? いや、どの部屋にいるか分からんな。……とはいえ、今ここで寝ているのもマズかろう。

 そう思い、俺はベッドから抜け出した。

 そしてその肩に飛び乗るアンダーソン君。

 足音を忍ばせてドアへと……

 ──待て。この気配は!

 足音、そして俺の脚から伝わる振動。これは蜘蛛としての感覚か。

 おぼろげだが、それが複数あるようだ。そしてその一つはかなり近い。

 マズいな。この部屋の前の廊下か!

 慌てて机の下に隠れる。

 正直、対処に迷うところだ。

 うかつに見つかり、暴力沙汰になってもマズいだろう。

 残念ながら腕っ節には自信がない。授業でやった程度の柔道や剣道でどうにかなるとは思えんしな。

 それに、この見た目だ。バケモノ扱いされる可能性もある。

 とりあえずうまい具合にこの部屋をスルーしてくれると良いんだが。そのうえで、レジューナに知らせてから対処するしかなかろう。


(このまま行ってくれよ……)


 そう願う。

 が……それがドアの前で足を止めた。


(!)


 ドアが開いた。差し込むかすかな光。そして覗き込む人影。

 逆光でシルエットしか見えないが、ゆったりとした服を着た、それなりに体格の良い男のようだ。

 まずいな。覗くだけでスルーしてくれれば……

 ……駄目か。

 人影は、懐中電灯のようなモノを手に部屋へと踏み入ってくる。“魔導石”という光る石を筒の中に収めたモノだ。魔法のアイテムの一種らしい。

 おそらくカンテラの類だろう。

 形はかなり違うが、似たようなモノはこの部屋にもベッドの脇に置いてある。現状灯はついてはいないがな。

 ……それはともかく。

 光量を最低限まで絞ったカンテラを手に、人影は部屋を見回す。

 と、その光がベッドに向いた。


(……マズいな)


 布団がめくられ、明らかにさっきまで人が寝ていた様に見える。

 人影はベッドに歩みより、シーツに手を当てる。

 俺の体温が残っているはずだ。

 つまり……


「〜〜!」


 男は何やら口走ると、慌てたように周囲を見回す。

 同時に、何か腰から棒状のモノを取り出した。

 それは闇の中、ギラりと光る。

 刃物だと⁉︎ 剣、いやナタの類か。

 逃げねば──いやダメか!

 そして、光が俺たちを照らした。


(クソッ! バレた!)


 ドアはヤツの後ろだ。一方、窓は高いところにあり、手が届かない。


「〜〜〜〜!」


 そうする間に、ヤツはナタを振りかざし、襲いかかってくる。

 クソッ!


 慌てて机の下から転がり出る。

 直後、ナタは机を直撃した。

 斬り込まれる刃。そして、飛び散る木片。

 アレをまともに喰らえばひとたまりもあるまい。

 折角九死に一生を得たんだ。何としてでも生き延びてやる。

 と、


「〜〜〜〜⁉︎」


 ヤツが戸惑いの声を上げた。

 そしてまとわりつく“何か”を振り払う様な動きを見せる。アンダーソン君が何かやったのだろう。いつの間にか俺の隣からいなくなっている。

 チャンス。


「喰らえ!」


 足元の椅子を蹴ってやる。


「〜〜ッ‼︎」


 直撃。

 ヤツはスネを押さえて転げ回っている。ナタはテーブルに刺さったままだ。


『まかせろ』


 アンダーソン君がヤツに駆け寄る。

 何をするつもり……ああ、そうか。

 すぐさま男に糸を巻きつけ、手早く縛り上げる。


「〜〜モガッ⁉︎」


 再び戸惑いの声を上げた男の口も素早く塞がれた。

 手慣れたものだな。さすが本職。

 俺が糸を出していては間に合わんな。

 ……よし、それなら。

 その間に俺はテーブルからナタを引き抜いた。


「──終わったか?」

『ああ』

「よし」


 俺は縛り上げられてもなお足掻き続ける男にナタを突きつける。


「──大人しくしろ」

「〜〜〜〜」


 日本語だが、どうやら何となく言わんとすることは伝わったらしい。

 男はコクコクとうなずき、抵抗をやめた。

 ……よし。


「アンダーソン君。──悪いが、レジューナさんか誰かに……」


 そう言いかけた直後。


「ウワァァァ〜〜ッ!」


 悲鳴が響いた。

 次いで、大きな物音。

 何だ? ああ、そういえば気配は複数あったな。

 あの声は、レジューナのものではない。まさか、あの助手か?

 …………。

 アンダーソン君と顔を見合わせる。


「とりあえず、見に行ったほうが良さそうだな」

『スコし──マった』


 そう言うと、アンダーソン君は男にさらに念入りに糸を巻いた。

 俺はその間に、男の持っていたカンテラを回収。

 そして、


『いこう』

「おう」


 アンダーソン君が肩に飛び乗る。

 そうして俺たちは部屋を出た。



 そして、廊下。

 声のしたほうは……玄関か!

 俺たちは早足で向かい……


「う……ぐぅ……」


 階段のすぐ下の床上で男が呻いていた。

 風体は、先刻の男と似ている。やはりあいつの仲間か。

 階段から落ちたのか。ずいぶんと間抜けな……

 そう思いつつ上を見上げ……


「!」


 階段の上に立つ大男。

 レジューナの助手か。

 腹あたりにナタが突き刺さっているようだ。でも、立ってるってことは傷は浅いのか? それに、仮面が外れているような? にしてもあの顔。まるで……


『無事だったか』


 背後からの声。

 レジューナだ。


「ええ。何とか」


 振り返り、答える。

 それにしても、いつの間に。気配など感じなかった。

 ……まぁ、良いか。


「俺の部屋にもう一人います。一応アンダーソン君が縛り上げてあるので、とりあえず無害にはなってると思います」


 ヤツの持っていたナタを示す。


『そうか……ならいい。とりあえず、この男も縛り上げておいてくれ』


 そう言うと、レジューナはチラと視線を階段の上に。

 と、助手が降りてきた。


『回収させる』

「え? あの人、怪我をしてるんじゃあ……」


 と、思ったが、何事もなく降りてくる。腹あたりの服は裂けているものの出血はないようだ。仮面も被っているな。その手には、腹に刺さっていたはずのナタ。

 ああ、見間違えなのか。

 いや、ナタの先端が何やら緑色っぽい液体で濡れてるような……? 気のせい?

 などと思う間もなく、助手は俺たちの部屋の方へと歩いていく。

 その間にも、アンダーソン君は手早く男を縛り上げていた。


『この連中は衛兵に引き渡しておくよ。君たちは何も心配しなくて良い。休んでくれ』


 レジューナの言。

 これでこの件は片付いた……はずだ。

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